善慧大士語錄
@KaoruHOSOKAWA
善慧大士錄序
夫諸佛菩薩。現三身遊十方世界。弘六度以攝五道眾生。
諸々の仏や菩薩たちは、三つの姿(法身・報身・応身)を現し、十方の世界を巡っておられる。六つの修行(布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧)を行い、それによって五道の生き物たちを救い導いているのじゃ。
眾生之性。邪見妄取。言將行違。性與理背。
衆生の本性は、誤った考えにとらわれ、真実でないものを執着している。言葉と行いが一致せず、その本性は真理と背きあっているのじゃ。
雖欲服勤冥奧。濫觴洪源。而智不能知。慧不能照。適足以為名相。為盖為纏。乃見讎魔冤。受制外道。倒屣六塵之境。攘臂三界之內。無復突國陷陣。先鋒而出者。
たとえ深遠な真理に従って励もうとしても、その努力は大きな源流に触れる程度に過ぎず、知恵ではその真理を理解できず、悟りの光で照らすこともできぬ。ただ名前や概念に執着するばかりで、それが覆いや束縛となり、敵対する魔や怨敵が見えてくる。外道に支配され、六つの煩悩の境地に執着し、三界の中に巻き込まれてしまう。もはや進んで国を突破し、戦場で先頭に立って戦う者はいなくなってしまったのじゃ。
悲夫聖人所以恢張逸網。為大權之教。或昔為能仁之師。今為弟子。或祕菩薩之行。現聲聞之學。
なんと悲しいことじゃ。聖人がその広大な慈悲の網を広げ、大いなる方便の教えを説かれる理由がここにあるのじゃ。かつては仏陀(能仁)の師であった者が、今ではその弟子となることもある。また、菩薩の行いを密かに行いながらも、表向きは声聞の修行者としての姿を現すこともあるのじゃ。
於是以清淨為戰場。以持戒為守禦。以金剛為鋒刃。以方便為間諜。以會眾為將士。以說法為號令。遂與無數部伍共破魔城。城內諸魔悉皆降伏。歡喜踴躍發菩提心者。無量無數矣。
そこで、清浄な心を戦場とし、戒律を守ることを防御とする。金剛(堅固な心)を武器の刃とし、方便を戦略や諜報として用いる。集まった僧たちを将兵とし、説法を号令とするのじゃ。こうして、無数の仲間たちと共に力を合わせて、魔の城を打ち破っていくのじゃ。城の中の魔たちはすべて降伏し、歓喜して飛び跳ね、菩提心(悟りを求める心)を発す者が無量無数に生まれたのじゃ。
自雙林涅槃之後。法輪輟軌。慧日韜暉。使六道眾生狴牢日固。故我諸佛菩薩。悲其若此。所以用威神之力。現無數身。將以解其扃鐍。而示之要會。
釈迦が双林にて涅槃に入られた後、法の車輪はその道を止め、知恵の太陽もその光を隠した。それによって六道の衆生は牢獄のような苦しみにますます閉じ込められてしまったのじゃ。そこで、仏や菩薩たちはそのような衆生を悲しみ、威神の力を用いて無数の姿を現し、彼らをその束縛から解き放ち、真実へと至る要点を示そうとされたのじゃ。
故世之言雙林大士自云是彌勒應身。明矣。不然。何以有自然無師之智超出凡夫之中。辯才無方。玄解經藏。恒以護持正法。發眾生之聾瞽。皆如經言。維摩之奉戒清淨。葢以攝諸毀禁。俾歸正道者也。
ゆえに、世の人々が言うように、双林の大士は自ら「これは弥勒菩薩の応身(化身)である」と言っておるのは明らかじゃ。もしそうでないならば、どうして師を持たずとも自然に備わった知恵を持ち、凡夫を超えた存在となれるであろうか。その弁舌は限りなく、深遠な教えを解し、経典を奥深く理解する。そして常に正しい法を護り、衆生の無知を開き、目覚めさせているのじゃ。まさに経典にあるように、維摩居士が清浄な戒律を守り、破戒した者たちを導き、正しい道へと戻らせるのと同じことじゃ。
時梁武帝以皇王之貴。精勤佛寶。由是異人間出。共羽翼正教。如大士之時。比丘僧則有智者。頭陀。慧集。慧和。普建。普成。居士則有傅普敏。徐普抜。潘普成。昌居士。
梁の武帝は、皇帝としての高貴な立場にありながら、仏法に精進していた。そのため、この世に並ぶもののない人々が現れ、共に正しい教えを支え広めた。大士の時代においても、比丘僧としては、智者、頭陀、慧集、慧和、普建、普成といった者たちがいた。また、居士(在家の信者)としては、傅普敏、徐普抜、潘普成、昌居士などがいた。
皆六度四等。清心淨行。以嚴持於身。放生蔬食。醫病救苦。以泛愛於物。造立塔廟。崇飾尊像。以嚴佛事。敷演句偈。闡揚經論。以廣多聞。
彼らは六波羅蜜(布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧)と四無量心(慈悲喜捨)を実践し、清らかな心で純粋な行いを身につけておった。彼らは命を尊び、菜食をし、病を癒し苦しみを救うことで、すべての生き物に対して慈愛を示していたのじゃ。また、仏塔や寺院を建て、仏像を美しく飾ることで仏事を厳かにし、経文や偈(仏教の詩)を広めて多くの人々に仏法を伝えていたのじゃ。
此皆是不可思議之人。行不可思議之事。迭為表裏。用度難信難化之人。欲使其得登無上之道。見當來之佛耳。
これらの人々は、まさに思いを超えた存在であり、常人には理解できぬ行いをしているのじゃ。互いに表裏となって支え合い、信じがたく教えがたい人々をも導こうとしておる。彼らの目指すところは、そうした人々を無上の道へと至らせ、未来に現れる仏を見られるようにすることなのじゃ。
頴以煩籠久翳。長夜未曉。恨不得於日月之下。親承鑒燭。猶願上生兜率。下會龍華。故以伐木思人。聞韶忘味。將恐芳塵散逸。後來無聞。遂追訪長老。編而次之。以為傳八卷。以示于後云耳。
わしは、煩悩に覆われたため、長い暗夜が明けないように真理が見えぬままであることを悔やんでいる。日や月の光の下で、直接その真理を受けて明るく照らされることができないのが残念なのじゃ。しかし、なおも願うのは、天上の兜率天に生まれ、未来において龍華会で弥勒仏に出会うことである。それゆえ、「木を伐るたびに友を思う」「韶の音楽を聴いて味を忘れる」といった気持ちで、真理を求め続けているのじゃ。将来、この貴重な教えが散逸し、後世の人々が耳にできなくなるのを恐れ、長老を訪ね歩き、その教えを集めて編み、八巻にまとめて後の世に伝えることとしたのじゃ。
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