エピローグ

目を覚ますとそこは見覚えのある場所だった。


「あちゃー…」


俺の第一声はそれである。

そこは確かに一度来た事のある場所。

辺り一面が真っ白で、何もない…そう果てすらない程に広い空間…


「つーことはだ…」


予想通りに背後から声をかけられる。


「お目覚めですか?」


チラリとそちらに視線をやると、そこにはやはり見覚えのあるヒラヒラした服を纏った女性?が立っている。


「出たな…意地悪女神…」

「あら、少々見ない間に口が悪くなりましたか?」


面白そうにフフと笑う。


「生き残るってのは…無理だったか、さすがに」

「そうですね、あなたのあちらでの活躍は全て見させて頂きました」

「凄かったろ?常にギリギリで」

「ええ、いつも綱渡りでしたね…どうでしたか?」

「…………悪くなかった」

「あれ程に身体を酷使し、常に命の危険と隣り合わせだったのに?」

「いやーーーー悪くなかった!痛い思いはいっぱいしたけど…大事なモンをいっぱい見つけたよ…」


ニヤっと笑いながら過去を振り返る。

一つ一つを思い出しながら、自分の手を見つめる。

改めて見ると本当に傷だらけだ。


「なんというか…精一杯生きていたよ」


それが全てだ。

俺は第二の人生で生きるという事を学んだ気がする。

しがみつきたくなるほどの「生」に出会えた気がするのだ。


「ただ心残りは無くもない…」

「私に答えられる事でしたらお答えします」

「いいのか?」

「貴方の行いはあの世界を大きく変えました、それくらいのご褒美はあってもいいでしょう?」

「そんなに大きく変わったか?」

「自覚がないのは貴方らしいですけど…」

「なら………」





「俺の妻や子はどうなった……?」




しわくちゃになった自分の手を見ながらそう尋ねる。


「悲しんでいましたよ…貴方が命を賭(と)して守り抜いた者達は全員、一様に」

「さすがの幸運でも無理だったか…」

「むしろその御歳でよくあそこまで…といった感じですけど…」

「でも守り抜いたんだな?」

「ええ…あの世界には陳腐な言葉かもしれませんが…平和が訪れました…脅かすものはありません」

「ならよし!」


俺の人生は大事なモンを守り抜いて終わったらしい!なら上出来だ!




ん?どうした?

何言ってんだこいつ?って顔をしてるな。

ああそうか、急に話が飛んで着いてこれてないんだな?

悪い悪い、じゃあ順を追って少し説明させて貰おう。

どこまで話したっけな?………ああ、魔獣を倒した所だよな?

あの後は本当にやばかったんだ、破傷風が一気に進行してな、身動きは取れないし呼吸困難にはなるし…

けれどそこにバジとルビィが帰ってきたんだよ、凄いタイミングだろ?

ただエルフの秘薬は手に入らなかったんだ、材料

が足りなかったらしい。

その材料ってのが…そう、レッドドラゴンの爪だ!

まさに俺が魔獣を倒すのに使ったそれが最後の材料だったんだ。

どうやって調合したのかは分からないが、完成したその薬を飲んだ俺はもう一気に完全回復!

【回復阻害】【治癒阻害】もなんのその、こんな便利な物があるのかと感動したね。

ただその後にちょこっと借金が増えてしまったけども…


そっからは町の復興、貴族の逆恨み、ドラゴンのラグナとの遺跡巡りやジェノと冒険なんかもしてみた。

行く先々でトラブルだ、その度に死にかけるけれど、ステータスアップは全て幸運に注ぎ込んだ。

そうこうしてるうちにジェノと結婚なんかしちゃって、子供もできたりしちゃって…

ソルトさんなんか孫のように可愛がっちゃてもう、甘やかしてたなーあれは。

どうでもいいって?へへ、そう言わず惚気(のろ)けさせてくれよ。


でだ、俺ももういい年になってんのにトラブルは終わらないんだよ。

「厄災」だったかな、とかいう他の世界から召喚されたらしい魔物?が現れたわけだ。

おっそろしく強い上に慈悲もなけりゃ意思疎通もできやしない。

そん時の俺の幸運値は1000を少し超えていたし、不運値も合算で1200程まで上がっていたな。

結局最後まで不運値を上回る事はできなかったな、ハハ。

最後にはそいつと相打ちって形になっちまったが…

いやーいい人生だったよ。

もし詳しく聞きたいと思ったらまた声をかけてくれ、色々あったんだ本当に。



「さぁ…ではよろしいですか?」

「ああ満足だ、成仏させてくれ」

「………?」

「しがないサラリーマンにこんな人生を与えてくれて本当に感謝してる、意地悪とは思ったけどな…って…………ん?何?」

「成仏?」

「違うの?」

「次の人生へ貴方をお連れするだけですが?」

「でも…俺もう爺さんだよ?」

「第二の人生の始まりと同じく25歳の肉体からになります」

「うっそだろ…」

「次の世界もまた異なる理(ことわり)が働いています」

「ちょちょ…ちょい!」

「貴方の能力、特性はそのまま引き継がれますが、ステータスという形ではありません」

「待って!俺!最後まで呪われたまんまだったんだけど!?」

「勿論そのままです、けれど…装備等は持っていけないので…」

「じゃあ解呪もできないじゃないか!!」

「それでは恒例の100ポイント譲渡です」

「おい!サクサク進めんじゃねぇ!!」

「はーい残り1分ー」

「ステータス無くなるのに意味あんのかこれ!?」

「30秒ー」

「このくそったれ邪神がぁああ!!!」



という訳で、また俺は次の人生を生きる事になったわけだ。

機会があればそのへんもぜひ聞いてくれ。

名残惜しいのは俺も一緒だがね、全く融通が効かない女神で困る。

おっと、どうやら今度の世界は…


「ツイてねぇ………」




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不幸転生 腹ペコ @evernever

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