戦いの終わり
グルンと景色が回る。
自然には絶対に起こり得ない回転を伴ったまま回転が加速する。
「おえ!おえええ!!酔う!おえええ!」
さらにその回転した状態で落下速度も加速。
俺はまさしく一筋の流星となって魔獣に向かって一直線に落下する。
実際の流星が回転しているかは定かではないが…
「魔獣がどこにいるかわからん!回転が!おえええ!!」
だからせめて絶対にドラゴンの爪は離さないように手に力を込める。
大丈夫、当たる。
思えば、俺はこっちに来てからあまりにツイている。
瀕死の重傷からは何度も助かったし、信頼できる人間とだって知り合う事ができた。
英雄扱いされるほどの手柄も立てたし、ドラゴンの友達だってできた。
確かに、それ以上に呪いや状態異常、不運によって何度も死にかけたし、借金だってある。
けれど肝心要の所で俺は間違いなく幸運によって生かされている。
「相殺じゃないんだな」
耐久力にしてもそうだが、ステータスは50ポイントもあれば人間以上の効果を発揮する。
100ポイント以上の幸運値、これは確かに俺を救うという形で発揮されているのだ。
ただ、それとは別に、不運値によって不幸が俺に襲いかかっているわけではあるが…
幸運値は不運値によって相殺されているわけでは無く、どちらもがその効果を発揮しているという事だ。
「だとするならば、俺は大丈夫!超幸運の持ち主の俺がこいつを外すわけがない!!」
ポジティブにそう思い込む。
回転の最中にチラチラと見える魔獣は、もう今にもといったくらいに真っ赤に染まっている。
「………貴様に出会ったのが俺の運の尽きか…」
魔獣がそう言ったような気がした。
グシャっと手に嫌な感触が伝わったと思うと、俺の回転に合わせて連続で何度もグシャ、ドチャとそれが続く。
最後に俺が地面に激突し、辺りは静寂に包まれる。
「おぇ…だめだ…痛いし…気持ち悪い…」
地面にぶつかった事よりも回転による気持ち悪さの方が勝っていた為、立つ事はできない。
今、自分がどこにいて、どちらを向いているのかも分からない。
けれど何とか根性で這いずりながら、魔獣を探す。
「足…」
見えたのは魔獣の黒い足。
片方の足は切断されている為、片膝をついたような格好ではあったが。
そこから視線を上げると…腰から上は完全に左右に両断されており、頭部に至っては跡形もない程にグズグズの肉塊と化していた。
「ようやく…」
魔獣の身体がグラリと揺れ、ドサッと音をたてて崩れ落ちる。
魔獣の身体はブスブスと煙を上げながら更に細かく崩れ…最後には塵のように霧散した。
「終わったーーー…」
バッキバキに痛む身体を大の字に投げ出す。
被害はでかいし貴族街なんかは今回の騒ぎの主謀者扱いで復興厳しいかもしれない。
でも最悪の事態は何とか防げたように思う。
「終わったなー…」
ジェノが俺の顔を覗き込みながらそう呟く。
「避難しろって言ったのに…オッサンは?」
「アイツにも連れて逃げろと言っていたらしいな、そんなに私が信用ならないか?」
クイとジェノが親指で後ろを指す。
そこには顔面をボコボコに腫らしたオッサンが不貞腐れた様子で座っていた。
「なにが連れて逃げろだよ…無茶苦茶に殴られて結局俺が連れて来られちまったわ」
「ふはは、災難だったなそれは」
「私を誰だと思っている、賊上がりになど後(おく)れを取るわけがないだろう」
「誰が賊上がりだ、真っ当な冒険者だ俺ぁ」
「とは言え…よく逃げずにここまでやってくれたな…」
「うるせぇ、逃がしてくれなかったんだよ、そこの英雄さんがよ」
「手柄はオッサンが持ってってくれよ、功労者だ」
「おーおー遠慮なくそうさせてもらうぜ」
三人で笑い合い、長かった魔獣との闘いが終わった事を実感する。
「おーーーい!!魔獣はどうなった!?無事かーーー!」
暫くすると他の冒険者達も合流する。
幸い死者は出ていないようでひとまず安堵のため息を漏らす。
さぁ帰って治療して貰わなくちゃな…安心したらどんどん痛くなってきた。
んぐぐ…
おかしいな…
身体が…
んぎぎ…硬直する…
やばい…破傷風の…症状が…こんなに一気に来るもんか!?この世界だからか?
「おい、ジン!どうした!?」
「おいおい一息もつけねぇのかこいつは!」
ガクガクと身体が痙攣する。
にもかかわらず身体の硬直は全くとける気配はない。
症状も似てはいるが前世の破傷風とは差異があるのかもしれない。
「この戦いで負った傷で破傷風の進度が上がったのかもしれんな…すぐ運ぼう!皆、手を貸してくれ!」
皆に運ばれながらも、どんどん悪化してくるのが分かる。
ゲーム的に言うと…破傷風レベル5まで上がってしまった感じだ。
確か、呼吸困難とかの症状も出るんじゃなかったか…?
薬があったとしても間に合うんだろうか?
いや!俺は幸運131の男だぞ…!助からないわけがない!
大丈夫!大丈夫だって!
「なんだぁ!?町がボロボロじゃねぇか!」
何やら聞き覚えのある声…
薬を探しに行ってくれているバジの声に似ている気がする…
ほら見た事か!俺は間違いなく幸運だ!間に合うはずだ!
頼むぞーー!
次に目を覚ました時は…皆で大騒ぎしよう!
そういやこうして意識を失うのはなんだか久しぶりな気がする…
魔獣との戦いのダメージや急に進行した破傷風、色々とついて行けないまま…
周りの喧騒が次第に聞こえなくなっていった…
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