第10話 体操着と君。

 「あー、お腹いっぱいだ」

 「あんなので、お腹いっぱいになるの?」

 「なるよ、全然。炭水化物だからでしょ」

 俺は夜ご飯のカップ麺を食べ終え、一息つくところだった。

 「ていうか、君はご飯食べたの?」

 「食べてない」

 「食べてないのかよ。なんか食う?カップ麺しかないけど」

 「んー、今日はいいや。先輩と食べようと思ってたから、なんか先にご飯食べられて食欲が消えた」

 「そんなこと言われたら、なんか申し訳ないじゃん」

 「へへ。後悔しろ!」

 「なんだこいつ」

 俺は、食後に一服しようとたばこを咥える。すると君がライターを、サッと取り上げ火をつけてきた。

 「うわ、どうした急に」

 「いえいえ、居候さんなのでわたしは。ご主人様、どうぞどうぞ」とりあえず火はつけてもらった。

 「いや、やめてよ普通に」一口目を、プーっと吐きながら俺は言った。「いいから」

 「冗談だよ。してみたかったの。人が吸うたばこに火をつけてあげるの」

 「そうなんだ。なんか飲み屋の女の子みたいだったよ」

 「え!先輩そういうところ行くの?!」

 君は、バッとこっちを振り見ながら言った。

 「まあ、遠いからあんまり行かないけど、付き合いでたまに行くかな。会社とかの飲み会で」君の驚きように、俺は驚きながらそう言った。「そんなにお酒も飲めないし、ほとんど行かないかな」

 「へー」

 君は、なんだか面白くなさそうだった。

 「君、お酒は飲むの?てか飲めちゃいけないけど」

 「お酒は、うーん。あーちゃんと飲んでみたことがあって、酔っ払うのは楽しかったけど、あまりいい思い出がないんだよね…」

 潰れてしまって具合が悪くなったとか、そういうの話なのだろうか。高校生の娘と酒を交わす母親もすごいものだなと思った。

 それからはテレビを見ながら、この人ってあーだよね、とか、てか最近あの人見なくない?とかなんでもない時間を過ごして、夜が更けていった。

 10時半を回り、もう寝るか、となったときに君が、あっ!と何かに気がついたようだった。

 「どうしたの?」

 「パジャマ忘れた…」

 「なんだよ、そんなことかよ」

 「いやいや先輩、パジャマ、大事ですから」

 「また俺の体操着、着なよ。ていうかあれ、あげるから」

 「いいんですか?」

 「もう着ないし。着る機会ないし」

 「ええ、嬉しい。先輩の体操着。なんか青春!」

 「君の青春は、だいぶレアなタイプだよ」

 いそいそと俺の(だった)体操着を廊下に持っていき、バタン、とドアを閉めて5秒ほどしてドアが開いて、てれーん!と言いながら君は体操着姿で登場した。元気な子だなーと思った。

 もはや、当たり前のように同じ布団に入る。そして、やはり体をすり寄せてくる。

 「先輩、しりとりしよ」

 「ええ、もう寝ようよ」

 「いいじゃない。いくよ?しーりーとー、り!」

 「もう、ちょっとだけなー。じゃあー、リス」

 「ス、かー。やるなー。じゃー、スイス!」

 「スルメ」

 「メス!」

 「ス責めじゃねーかよ。スロット」

 「トス!」

 「ねえ、ス、やめてよ」

 「ス、はまだまだあるよー!」

 「俺もう眠いから寝る。おやすみ」

 「ねえまだ終わってなーい!」

 俺は、無視して眠ろうとする。横から君がゆっさゆっさと揺らしてくる。

 「スー!」

 「おや、スー!み」

 「え、なにそれ。今のなに?面白くない…」

 やっぱり、しりとりなんか付き合わなきゃ良かった。俺は完全に無視を決め込み、一人先に眠った。

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君とのこと。 船里葵 @page_6

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