水浸し

白川津 中々

◾️

古本屋で購入した小説に紙が挟まっていた。

栞にしては随分中途半端なページに差し込まれているなと思ったら十桁の数字が書いてある。電話番号だろう。好奇心に押されスマートフォンで掛けてみると、機械音声でまた数字。今度は七桁。郵便番号だなと思い調べてみると該当なしだったが、検索サイト上では道胡桃村と書かれたページがヒットしたため閲覧。どうやらダムで沈んだ村のようだった。放水されたのは昭和六十三年九月二十一日。今日の日付と一致。こんな偶然起こるものだなぁと思っていると着信。非通知設定から。なんだなんだと出てみたら、ざぁーざぁーと水が流れる音。ダムの放水が想起される。先にかけた番号へ架電するか、サイトを見たデバイスに発信されるよう仕掛けられていたのだろうかと勘繰る。しかし、何のために。

そう考えていると、電話越しから百五十七と聞こえた。読んでいた小説の百五十七ページを開く。空白のページに、七〇八と記載されている。それは俺の部屋の番号だった。


ドン。


扉を叩く音がした。


ドン。ドン。


音は更に激しくなる。


「助けて、助けて」


声が聞こえる。はっきりと、明確に。



「出して、出して」



ざぁー。

ざぁー。



放水。声は次第に空気の漏れ出る音に変わり、ついには聞こえなくなった。


ざぁー。

ざぁー。


放水は続いている。

声はもう聞こえない。

手にしていた本がいつの間にか水浸しになっている。


ざぁー……

……



放水の音が止んだ。その瞬間だった。



「どうして部屋から出してくれないの」



俺の背後から、そう聞こえた。

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