イセカイより

波斗

異世界系


異世界系、


今の日本に生きる人の中でこれを知らないのは高齢世代ぐらいだろう。


アニメ、漫画、小説、ライトノベル、ゲーム、果ては映画まで、異世界系というジャンルは既に創作物の大半を埋め尽くしている。ニッポンの大衆文化ポップカルチャーと異世界系はもはや切り離せないぐらいに結びついている。


プライムビデオのホーム画面に出てくるアニメの半数以上は異世界系だ。飽き飽きするほど、似たような題名やストーリー、キャラや世界観の異世界系アニメ、漫画、小説は沢山あるし、逆に潤沢すぎてどれがいいのかも分からない。


最近はまったりライフ系とかほのぼのライフ系とか流行っているらしい?。


僕だって転スラとかリゼロとか好きな異世界系アニメはあるし、別に異世界系が悪いとは思わない。


じゃあ、なんで、異世界系はそんなに広まったのだろうか。


まず、一つ目に異世界系というジャンルはと密接に結びついている。


人間生きている中で人生の失敗や後悔は1つや2つはあるだろうし、やり直せたら、もしあの時こうだったら、ああすればよかった、とか思うかもしれない。


いや、まあ、人生14年しか経験してない人間がこう語るのもなんだが、やっぱり人は人生をもう一度できたら...と考えるのだろう。


そして転生とはとても都合のいいことだ。ここでもう1つの異世界系の特性、というものが関わってくる。


転生するだけで好きな設定の世界の、好きな設定の人物になることができるのだ。これは作者さんにとっても都合がよくやりやすく、そして作者さんの願望や想像が最も出る部分だろう。


一般に異世界系の殆どはファンタジー風だ。


何故か...、それはファンタジー以外に異世界系というものがない、または想像できないからだろう。


ファンタジーと別の世界設定を造ろうとしたらそれはもはや異世界系ではなくSFになってしまうし、設定が分かりにくいことは大衆ウケがよくない。


そして異世界系=ファンタジー、魔法系となってしまったからには異世界系の創作物は必然的にファンタジーになるのだ。


なぜファンタジー=異世界なのかは知らないが、もともと異世界系ファンタジーというのはヨーロッパの神話の世界を日本なりに解釈したものだ。


そこで魔法というのが存在する。


誰でも使えて、現実の人間には出来ないことができる。夢物語が現実になる。これを使わない手はないだろう。


そして神話の魔法は童話や創作物から拡大解釈や紆余曲折を経て、スキルや能力といったものが日本では付与された。


転生してチートスキルがもらえた。特殊能力がある。


ただの人間だった者はそこでな者になるのだ。


特に異世界系の創作物は主人公の立場を読者が想像してしまう没入型がある。


チートや特殊能力で敵やいじめっ子を倒したり、周りから賞賛されたり、ハーレムをつくったり、勇者になったり、読者が現実では出来ないことを主人公はできてしまう。


そして没入型だと読者も主人公と同じく爽快感や優越感を感じる。


大衆で人気のある異世界転生系アニメの大半はこういった没入型であり、誰もが爽快感や優越感を感じるものなのだ。


移転系や異世界そのものを描くもの、例えばフリーレンなどはこれとはまた違ったものになる。


そういった移転、異世界型には読者を感動させる、あるいは感銘させるもの、そして、転生系と同じように没入型のものがある。


感動させるタイプのものは設定が異世界でなければ物語として成り立たないものが多い。魔法を修行したり、主人公が成長していったり、何かしらの魔法あるいは異世界系の要素が必要なのだ。


移転系没入型は転生系とあまり変わらない。違いは一度死んだか、現実の自分が異世界に行くかである。


どちらもことだ。明日、車に轢かれて異世界に転生するかもしれないし、コンビニ帰りに異世界に迷い込んでしまうかもしれない。


どちらにして読者や観客は主人公と自分を重ね合わせ、もしかしたら...ということを考える。


いわばある種の現実逃避だ。


現実の自分はできないことを転生や移転したらできる。なんて素晴らしいことなんだろう。


そして、その読者の一部は新たな異世界系の創作物を創る。


他者が作った異世界系ではなく、自分の願望をより具現化したものに...。


そうして異世界系は広まる。




今の日本に蔓延る異世界系。


日本の文化とは全く関係なかった異世界というものは、今や異世界系自体が日本の文化を創り出している。


それこそ、今の日本社会を表しているのではないだろうか。


現実が辛く、あるいはつまらなく、面白くなく、そう思う人が溢れている日本。だが、そんな人たちは何もとしない。


自分の快楽と利益と欲のために動き、社会全体のことには目もくれない。


仲がいい人のみ助け、知らない人には同情するだけで手を差し伸べるという考えすら浮かばない。


日本の国債借金は1,100兆円を超えた。国家予算の3倍だ。


そしてその国家予算も国債で賄われている。


滞納することができたって、いつかは破産する。債務不履行、デフォルトだ。


そしたら国家の維持が怪しくなる。


国が無理やり効率の良くない手段で経済を回している日本。


輸入に頼る日本の政府機関が債務不履行デフォルトで倒れたとき、経済は崩壊する。


大勢の人が飢え、治安維持組織が無くなった結果、各地で暴力団や過激派集団が無秩序な争いを繰り広げ、無数の屍が生まれる。


食料が無くなったら、もともとただの一般人だった人同士が殺し合うかもしれない。


そんな未来、数十年後に迫る日本の未来。変えられるかもしれない未来を、誰も変えようとしない。


今を生き、自分のことと大切な人のことの未来は気にするのに、社会の未来には目をむけない、見なかったふりをする。


きっと大丈夫。


自分には関係ない。


それは魔法自分に言い聞かせるための言葉だ。


テレビで紛争や戦争のことを見ても中身のない同情や感想を吐くばかり、どっちかが滅んだらいいのに、と、言う人もいる。


アフリカで大勢の人が飢えているのにも、あくまで、ちょっとだけ知っている、だけで何もしない。


いじめがあっても、パワハラやセクハラがあっても見て見ぬふりをする。そんな社会。


人々は、知っている、そう、それが起きていることを


そして、なかったことにしたい、見なかったことにしたい、そんなのあったわけないと思いたい。


そして、異世界系がある。


どんどん増える異世界系は、現実から目を背けたい人にとって、自分がこうだったら、を見つけられる場所だ。


異世界系の数が増えるだけ、その作品にあてはまる、これだ、と思う人も増えていく。


現実リアルから目を背け、異世界系フィクションという果てない理想の世界の妄想に走る人々。


見なければいけないのは現実リアルなのに、現実に起きたこと、起こることを知っているのに、それを見ない人。


あなたは、そんな人ではないですか?



そして、異世界系に溺れる社会。


そんな、今の日本社会こそ、なのかもしれない。




2024年11月3日11時半、現実いまというイセカイより

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