第3話 飼育委員会
さて、昨日は柄にもなく学級役員に立候補してしまった。しかし、不思議と後悔はない。たぶん、僕には目的があるからだと思う。香月さんの好感度を上げるという崇高な目的が。
しかし、その目的を達成するためには様々なハードルがあるだろう。陰キャの僕にとっては厳しい戦いになるに違いない。だが、今までこんな気持ちになることはなかった。
ここで香月さんの好感度を上げることができたら、僕の中で何かが変わるかもしれない。そんなことを考えながら、今日も早めに教室のドアを開ける。
「お、おはよう。香月さん」
昨日と同じく、僕より早く来て自分の席で本を読んでる香月さん。昨日と同じように挨拶をするが、昨日とは決定的に立場が違う。僕等は同じ飼育委員なのだ。その接点が彼女の心を動かしているかもしれない。
「…………」
あ、うん。だと思ってました。勇気を振り絞って挨拶したけど、安定のスルーでした。
僕はカバンをロッカーにおいて、自分の席へと着く。
一緒の飼育委員になったとはいえ、正直、飼育委員の仕事もよくわかっていない。昨日、一ノ瀬先生が委員決めの前に何か説明していた気はするが、石になっていた僕の耳には入っていなかった。
故に飼育委員ネタで彼女に話しかけることもできない。仕方がないので、今日も彼女の観察から入る。
読んでる本のタイトルはさっき確認した。『片付けの基本~プロの整理整頓術~』だったな。はて、もしかして片付けられない人なのかな? そうは見えないけど。
服は制服だからそこから得られる情報は少ない。しかし、靴下は……うん白のオーソドックスなタイプだね。綺麗な白だから、洗濯してないとかはなさそうだ。
匂いは……さすがに止めておこう。
一通りの観察を終え、僕は勉強する振りに集中する。もちろん、耳は登校してきたクラスメイトの声をしっかり拾っている。ふむふむ、早速仲良くなった連中が今日の放課後遊ぶ約束をしているな。
なるほど、神崎さんを誘いたいのか。それを聞いてる周りの男子連中が浮き足立ち始めたぞ。そりゃそうか。この輪に入れるのと入れないのじゃ、これから先の学校生活が大きく変わるだろうからな。
それよりもだ、僕は今日の放課後に予定されている『第一回委員会』の方が気になっている。そう、香月さんと一緒に飼育委員会に出席するのだ。委員会の仕事の内容によっては、二人で相談しなければならないことも出てくるかもしれない。
そのことを考えると今からちょっと緊張してきた。
今日の授業はほとんどが、オリエンテーションでそれほど疲れずに終えることができた。さて、残すは委員会活動のみだ。帰りのホームルームで、一ノ瀬先生が委員会の場所を教えてくれる。飼育委員会は理科室に集合だ。
僕は香月さんに声をかけ、しっかりと無視された後、彼女について理科室へと向かった。
「~というのが飼育委員の仕事になります。何か質問はありますか?」
高校の委員会活動は、生徒が決め、生徒が進めていく。先生方はサポートしてくれるだけだ。
委員会の中で、生徒会役員でもある飼育委員長が、僕等の仕事を説明してくれたのだが、正直僕は戸惑っていた。いや、おそらく1年生で参加している他のクラスの委員もみんな戸惑っていたと思う。
だって、飼育委員の仕事内容が『学級で飼う生き物を自分達で決め、自分達で育てる』だったから。
てっきり、学校で飼っているニワトリとかウサギとかにエサをやる程度だと思っていた僕は、飼育委員の人気がない理由を理解した。まさか、学級毎に生き物を飼育するとは。
なぜか予算も潤沢にあるようで、生き物の代金はもちろん、飼育ケースなんかも用意してくれるらしい。上限はあるけど。
「こ、香月さん、ど、どうしようか?」
さすがにこれは相談しなくては決められない。僕が震える声で香月さんに問いかけると――
「ついてこい」
まさかのついてこい発言でした。意外と強引!?
陰キャの僕に拒否権などあるわけもなく、足早に歩く彼女の後を黙ってついていく。端から見たらストーカーに見えないかこれ?
彼女は迷うことなく玄関へと向かい、外靴へと履き替える。一体彼女は僕をどこに連れて行こうというのだ?
門を出てから歩くこと30分。彼女は一軒の店の前で足を止めた。彼女は思ったよりも体力があるようで、運動が苦手な僕はついていくのがやっとだった。
「はぁ、はぁ、こ、ここは?」
「は虫類専門店。この中から選ぶ」
そう宣言した彼女はスタスタと店内へと入っていく。予想外の展開にわけもわからずついていく僕。まさかのは虫類!?
一足先に店内へと入った彼女は、無表情でカメやヘビなどを眺めている。いや、無表情に見えるけど、わずかに目尻が下がっている。好きなんだな、は虫類が。
「早く選ぶ」
僕が香月の横顔に見とれていると、催促のお言葉が飛んできた。ってか、は虫類なんて全然わからないぞ。とりあえず、説明書きを見ながら教室で育てられそうな生き物を探した。
「こ、これがいいと思う」
最終的に僕が選んだのは『グリーンイグアナ』だ。小さくて飼いやすく、何より草食だという点に惹かれた。虫とかだったら用意するのが大変そうだから。
「上出来」
僕が選んだイグアナがお気に召したのか、お褒めの言葉をいただいた。
彼女は店員の元に行き、学生証を見せながら交渉していた。僕はそれをぼーっと眺めている。結局、イグアナは飼育ケースと共に学校に届けてくれるそうだ。もちろん、代金は学校持ちだ。
ここから香月に色々聞きたいことがあったんだけど、彼女は用は済んだとばかりにさっさと店外へと出てしまった。
慌てて追いかける僕。何だか今日は追いかけてばかりだな。
意外にも彼女は店の前で僕が出てくるのを待っていてくれた。
「来週から交代で世話をする」
それだけ伝えたクルッと振り向いた彼女は、スタスタと歩き去ってしまった。
だけど、僕はその後ろ姿を見て思わずガッツポーズをしていた。彼女の頭の上の数字が1に変わっていたから。
あの事故から好感度がわかるようになった俺が、気になるあの子の好感度を0から100に上げるために頑張る話 ももぱぱ @momo-papa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます