3-3 どんまいゴエモン
3年前の春――ちょうどソラ達がゲームを始めた頃、
徳山家に伝わる秘法、”
そして、徳山イエモンはAIで作られた合成音声で宣言。
『鎖国を解きたければ、三ヶ月に一度の祭りにて、天守閣から秘宝を盗んでみせよ!』
時々運営が、プレイヤーの
未だこの島国は、厚い氷で閉じ込められている。
◇
――金曜日の夜
「うおおおお! 来たぜ来たぜ来たぜぇっ!」
両手で作った握り拳をバンザイしてあげるは、
「桜国の入り口、桜ノ門!」
そう、アリクが叫ぶけれど、門というには全くの氷の壁が、立ちはだかる場所であった。高さ30メートルにはなろう巨大なクレパス、飛び越えようとした場合凍り付く。
ただ、アリクの前の氷壁は、他に比べて、若干薄い色をしていた。
厚い流氷を、大地のように踏みしめる一行の内、シソラが二人に声かける。
「それじゃあアリク、アウミ、頼めるかな」
「ああ!」
「任しときよぉ」
そう言えば、アリクが
「アイドルの
レイン、クラスでのウミの穏やかな様子から、さぞポップでキッチュなナンバーで支援すると思ったのだが、
「LAHAAAAAAAAAAAA!!!」
「シャウト!?」
喉がならせない完璧な腹式、ビブラートかかった高音の後に、
「Clap Clap Hands! Clap! Your Viva Chance!」
「洋曲!?」
予想外の選曲に目を丸くするレインに、アウミは歌全般好きだからとフォローをいれるシソラ。その間にもその歌は、
「【瞬間火力】発動!」
叫び吼えて、燃える剣を振り下ろす!
「
――文字通りの最大火力によって、目の前の氷の壁が
バキーンッ! と砕け散り、桜国へのトンネルが現れる。
「おっしゃ! やったぁ!」
「ボーッとするなよ、走るよ!」
「あ、ほんまよ、もう凍り始めとる!」
「急ぐぞ!」
四人、全力で洞窟に飛び込む――その瞬間から背後が凍り、入り口が閉じられていく。
「しかしアウミの歌にはビックリしたな、激しいのが好きなのか?」
「穏やかなんも好きですよぉ、
滋賀県民のマストソング、
「ログアウトしたら、私にも教えてくれアウミ」
「喜んで!」
とかなんとか言ってる内に――背後から迫る氷に押し出されるように四人は、
桜の国へ突入して――
「うわぁ」
思わず、シソラのリアルの声色が漏れる程、
広がるのは時代劇のような江戸の街並みに、
町人、侍、忍者、山伏と、和風の装備で賑やかに闊歩するプレイヤー達。
目を見張るのは、中央に巨大な城が建っており、そして、
その傍には、その城を凌ぐ高さ、大きさの、
――巨大な桜が氷漬けになって聳え立っていた
この国のランドマークとして、幽玄ごと凍り付いた、
「あれが、千本桜の一本目の千年桜!」
「すげー! でっけー!」
「舞い散る桜ごと凍ってる事で、より幻想的だな……」
残りの三者も三様に驚き、感嘆する。ゲームの中なので当たり前ではあるが、桜が凍っていたからとて、季節が冬な訳でもなく、快晴の中このエリアに住むプレイヤー達は、その氷漬けの巨大な桜も日常のよう、忙しなく、動いていた。
――ただし
「さぁて、今日は前夜祭!」
「二時間後に夜になるんだっけ?」
「花火を打ち上げるでござるからな~、……むむ?」
この桜国の住人にとって、クラマフランマで入国してくるプレイヤーはギリ日常であるが、
「「「怪盗スカイゴールド!?」」」
「えっ」
「なっ」
時の人の来訪となれば、それは
「あの、ファンです怪盗様! 握手してくだ
「あの畳返しの術どうやってるんですか!? 同じ忍者、ご伝授いただきたい!」
「うちの国には観光で!? それとも仕事!?」
そんな感じでチヤホヤされて、二人は慌てて対応する中、アリクとは言うと、
「妬ましいぃ」
「ジェラシー隠そうとせんね、アリク」
「もうすっげー羨ましい! けどちょっと誇らしい! なんだよこのめんどくせー感情!」
「やっぱ鎖国したエリア言うても、リアルで情報は流れてきてるんやね」
などと、アウミが分析し終えた時、
「――妬ましい」
「ん?」
「え?」
そのフレーズが、アリクじゃない誰か、少女の声で放たれた。アリクは勿論、シソラ、そして周囲の者達もその方を”見上げ”る。
二階建ての瓦屋根の上で、腕を組んで立っているのは、二人組、
「ああ、あのコンビは!」
「怪盗を出迎えに来やがったのか!?」
「ちょっと危ないよそんなとこにいちゃ!?」
驚かれたり心配されたりするその内の一人が、
舞台役者のように声をあげた――
「アタイの名は、義賊のゴエモン!」
紅白色の縄で縛った、曼珠沙華のように跳ねる赤髪、
赤とオレンジが入り混ざる、ハッピのような衣裳を身につけ、
胸にはサラシ、手にはヨーヨー、顔には赤いラインで化粧。
そして額から生える紅の角二つ、
――一言でまとめるなら、鬼子のかぶき者
「こいつはアタイの相棒、エビモン!」
名を呼ばれた背後の女性は、どこまでも派手なゴエモンに対し、
青を基調とした地味な忍び衣裳、頭巾も被って、自己主張控えめ。
蒼い角すら、薄らげな印象、そんな彼女を引き連れながら、
「――音に聞こえしスカイゴールド」
ゴエモンは、片足をあげ、
「アタイの国じゃ、何も盗ませないからなぁ!」
踏みしめると同時に見得を切ろうとして、
「あっ」
――その勢いで
「ああぁぁぁぁぁ!?」
滑り落ちた。
どしーん、と。
「ふげぇ!」
二階の屋根から落ちるゴエモン、周りが「言わんこっちゃない!」とか「大丈夫……?」と心配する中、ゴエモンは立ち上がろうとしたが、
「あれ、HPがゼロになってる!?
行動不能状態で慌てるゴエモンの傍に、エビモンがゆたりと降りてきた。
「姉さん、とりあえずリスポーンしましょう」
「ええ!? 怪盗に会えたんだぞ!? 長屋に戻ったらもう会えないかもだろ!」
「すいません、姉が失礼しました、どうぞ観光をお楽しみください」
「ちょっとエビモン!? なんでお話つけてんの!」
彼女への扱いはぞんざいで、その態度はエビモンだけじゃなく、周囲も呆れているようだった。
「またやからしたなぁゴエモンちゃん」
「デビューした時に比べてダメダメだねぇ」
「どんまい、ゴエモン」
バカにされてるというより、憐れまれている感じである。そんなあんまり状態の彼女を見て、レイン、
「どうするシソラ?」
「聞かなくても、解ってるよね」
レインに問われたシソラは、アイテムボックスを開きながら、ゴエモンに近づこうとしたが、
「おい」
それより先に、
「ほらよ」
アリクが、
「え、ええ!?」
思わぬ施しにビックリしながら立ち上がるゴエモン、
「な、なんでアタイを助けた!? アンタはスカイゴールドの仲間なんだろ!?」
「確かにあいつとはリアルでもマブダチだ、だが」
アリク、
「最近はメチャクチャあいつに嫉妬してる! つまり俺とお前の心は一つだぜ!」
「お、おお!」
「という訳で助けた! 俺達は仲間だ!」
「アニキ!」
「おう、俺はお前のアニキだ!」
「アニキィ!」
いきなりに、盛り上がる二人。ので、置いてけぼりを食らうシソラ達。
そんな中、エビモンがやってきて、
「姉さんを助けて頂いてありがとうございます」
その御礼に、観光案内をするという申し出を、とりま受け入れる事にした。
VRMMOで怪盗になってRMT業者から世界を奪い返します @asamurakou
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