㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 第二話 ㊙ ビーナスの森

鮎風遊

第二話 ㊙ ビーナスの森

 大金星山だいきんぼしやまの裾野に広がる樹海、その広さはなんと約300平方キロメーターもあり実に広大です。

 『㊙根暗ねくら出るたる渓谷』を訪ねてから1週間後、その樹海が消える位置にある小さな町・金星町、そこのコインパーキングにSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)を停めました。

 SUVと言っても、これからも未来ワールドへの訪問は続くであろうということで、ヤッチンが急遽購入した20年落ちのボンボロボンの車。そのドアをギギギギと押し開けて、私たちはその地に降り立ちました。それは樹海の中に存在するとされる『㊙ ビーナスの森』、そこへの第一歩であります。

 おっと、紹介が遅れました。その私たちとは……、今は奈那旅行社の可愛い社長・奈那さん。かつ投資しか興味がない町の相場師・山岸ことヤッチン、そしてヤル気薄弱のサラリーマンの私・洋一です。別称ヨッチンと呼ばれてます。

 私たち三人は学生時代の無銭旅行同好会の仲間でした。そして卒業7年後、奈那さんの旅行新プランの試行のために再会しました。そして1週間前にプラン1の『㊙ 根暗出る樽渓谷』を訪問するために集合したのです。

 あっ、そうだ、もう一匹いました。そやつは『㊙ 根暗出る樽渓谷』から連れ帰って来たAIロボットの『露払いの助』です。

 という事情の果てに、三人と一匹で『㊙ ビーナスの森』への第一歩を踏み出したのであります。


 さてさて、ここでもう少し露払いの助、簡略名『ツユスケ』を紹介しておきましょう。

 根暗出る樽渓谷のネアンデルタール人、ユユリリララさんから「『㊙ ビーナスの森』は磁石が使えないので道案内役が必要でしょ、だったら露払いの助を連れて行きなさい」と薦められました。ヤツは少し生意気、かつすぐにチップを要求するので嫌でしたが、そこは大人の対応で従ったわけです。

 が、ですよ、その帰途奈那ちゃんもヤッチンもアイツと暮らすのは嫌だと主張されまして、私のオンボロアパートに連れて帰り面倒みることとなりました。

 こうして共に1週間過ごしたわけですが、わかったのですよ、ヤツはかなり優秀だと。さすがホモ・サピエンスの1千年先を行く技術で作られたAIロボットでした。

 まずエネルギーは核融合バッテリーが内蔵されており、充電はまったく不要。また超小型量子コンピューターが体内で常時稼働。しかもそれは根暗出る樽渓谷の地下ワールド第7層の超高速コンンピューターに連結しています。そのため必要とする情報にアクセス出来、瞬時にあらゆる問題の解を得ることが出来るのですよ。まさにビックリポン、ポン!

 ただですね、このロボットには難点がありまして、大変庶民的ではあるのですが、ヤッチンと私には実に生意気。その一方で悔しいですが、奈那さんだけには優しいのですよ。

 そしてコイツがいつも口ずさむ歌がなぜか『ソーラン節』。

「♫ 男度胸ならのからだ 波に上 チョイ ♫ ヤサエーエンヤーンサーノドッコイショ ♫ ~~~ ♫」

 これを歌った後の講釈が「私の背丈はその五尺だよ、それは151.515センチメートルでんがな」と。これ何回聞かされたことでしょうか。

 あまりにもしつこいし、鬱陶しい。もういい加減にしろと怒鳴り付けるところをぐっとこらえて訊いてやりましたよ。「なぜそんなに気に入ってんだよ、5尺を?」と。

 すると得意満面に、「えっ、ヨッチン、知らないのか? 一尺は『30.2302』センチメートル、だから5尺は『151.515』センチメートル、さらに5を掛けたら『757.575」でんがな、これがホモ・サピエンス史上いっちゃんオモロイ数列やで、メッチャオモロー!って思わんか、えっ、思わないって、……、信じられな~い!」と。

 こんな思考ギャップ、つまり進化に差があると私は気付きました。そして後ずさりしながら、「1千年先のAIロボットはこんな無味乾燥でアホみたいな数字の並びが大好物なんだ、へんちくりんなヤツだ」と呟くしかなかったのです。

 その一方で確信した次第であります、こいつは完全に……、だと。


 奈那ちゃんにヤッチン、そして私、加えてツユスケ、それぞれが1週間を過ごし、遂に広大な樹海に足を踏み入れました。するとすぐにツユスケが先頭に立ち、「我が先端情報によると5千年前に大金星山が噴火し、現在その裾野は広大な樹海になったんだ、だけど不幸にも土壌にはメッチャクチャ磁鉄鉱がおるわ、おるわですわ、それでな、磁石が使えへんから時々俺のヘッド・ドローンを飛ばして道案内してやるよ、まず1発目の飛行だ!」とヤツの頭から回転羽根が飛び出し、いきなりブルブルンと。そして頭部が離体。

「ワァー、ツユ君、ステキー! 誰よりも役に立つわ!」

 一番に声を上げたのが奈那さん。これにヤッチンと私は「おい、もう帰ろうか」と目配せをしました。

 が、ここは大人の対応で踏みとどまりました。そして「樹海の中で、墜落したお前の頭を拾うのだけは勘弁してくれよ!」とヤッチンがエールを送りました。

 これに奈那さんは「そうよね、道に迷った白骨死体がそこら中に転がってんだって」とボソボソと独り言。これにヤッチンも私も背筋が……、ゾォォォー。

 樹海に踏み入ってたったの100m地点、三人は身体を震わせながらツユスケ様のお帰りをお待ちました。そして上空からブーンという飛行音が聞かれ、あっという間に空中にあった頭部が着体。そしてすぐさまツユスケから報告が。

「愛すべき奈那お嬢さま、の方角、三町先に小川があります、まずそこへ向かいましょう」と。

 私たちの脳内は$%&@……???、さっぱりわかりまへんがな!

 そこで私が「おいおいおい、昔の単位は止めてけれ!」と文句を付けると、「お前達はホモ・サピエンス、大和民族だぞ、信じられな~い、仕方ないなあ、北へ327.27m、そこにってことだよ」とツユスケはこれでもかというほどのドヤ顔。

 こんな険悪な雰囲気を見かねた奈那社長、「まあまあまあ、素寒貧侍すかんぴんざむらいたち、私たちの目標は『㊙ ビーナスの森』にたどり着くことよ、こんな所で争ってる場合じゃないわ、さあ、出発!」と。

 これに「お言葉ですが、我々は勇猛果敢な野武士でござる」とまずは少しばかりの格上げをさせてもらって、「御意!」と。この後ツユスケを先頭に、樹海の中にある小川へと再び踏み出したのであります。


 木々の合間をサラサラと流れる小川へと到着。そこで早速の小休止。涼風が川面を渡って来る。

 ホモ・サピエンスの三人がフーと一息入れてると、「ビーナスの森はこの川沿いに5kmほど上がった所にあると内蔵コンピューターが示唆しよります、拙者の最大のミッションはお美しい奈那様と出来の悪い野郎2匹をそこへと道案内することです、さっ、出発致しましょ」とツユスケがいつの間にかリーダーに昇格したもよう。

 脳天カチ割ったろかと思いましたが、まあこんな所で見捨てられて髑髏どくろになってもちょっと困りますので、「レッツラゴー!」と皆に声を掛けました。

 それからの道中、約5kmでしたが、小川に沿って大きな岩や倒木に阻まれたり、川から離れると下草で覆われ、前へ進むことは大変困難でした。

 それでもツユスケの頭部ドローンが大活躍をしてくれまして、少しでもイージーゴーイングな道程へと導いてくれました。

「ツユスケ、お前結構いい奴じゃん」と褒めてやると、「すべては奈那お姉様のため、お前ら初老オヤジのためじゃないぞ、だけどチップははずめよ」と。

 ネアンデルタール人の1千年先を行く技術で作られた最新型ロボット、まあよくぞここまでひねくれ、捻れたものだと再認識致しました。

 されどもヤッチンも私ももう慣れてきたのか、「そうだな、この世というか、宇宙で一番優秀なロボットはツユスケ、お前だ!」と強烈な褒め殺しを一発。そして500円玉1個握らせてやりましたよ。

 すると「メッチャアンガトー!」と満面の笑み。ホント単純なヤツだと再度確認をさせてもらった次第であります。


 そんなドタバタ、かつ危険一杯の樹海内道中の後、辿り着いたのです、青くて透き通る水をたたえた池に。池の周りには我が人生で見たことがないくれない色の花が咲きほこってました。

 そして池の奥へと焦点を合わせますと、そこには20m巾の岩から100本は超える水の糸。落差は多分10mはあるでしょうか。当然水煙りが上がり、樹木の隙間から差し込む光線で数本の虹が掛かっています。実にここは神秘な世界。私たちはそんな風景にしばらく釘付けとなりました。

 されどもそんな事態を壊してくれたのがツユスケです。「ちょっとお取り込み中のようですけど、木々に隠れてここからは見えまへんけど、左手方向に4階建ての丸太トンガリキャッスルがあります、そこに高等生物が住んでるよう……、なんだよなあ」と。

 私はこんな曖昧な言い回しに、「えっ、ホントか?」と確認し直すと、奈那ちゃんは「ありがとう、ツユ君、さあ、みんな、そこへ行ってみましょう!」と決断が実に速い。

 学生時代はとにかく何事も人任せだった奈那ちゃん、やっぱり社長兼最高経営責任者になると即断即決、随分と成長したものだ。そう感心してる内にツユスケに本来業務の露払いをさせ、とっとと丸太城方向に向かって歩き進んでいるじゃありませんか。

「お待ち下され、奈那殿!」、二匹の飼い犬のヤッチンと私、必死で追い掛けました。


 木々をすり抜けた奥に丸太を組み合わせた高床建造物、1階部は風を通すための空間、その上に3層のお城がありました。私たち三人と一匹はトットトットと早足でその前へと。するとそこに『ビーナスの森管理事務所』と表示された案内板がありました。

――< ようこそ! ビーナスの森へと立ち入る御仁は危険を伴いますので、階段を上がってまず受付を。 その後、当方で御案内させてもらいます。 >――

 このように表示されてありました。

 もちろん私たち、ツユスケを先頭に案内板に従い最上階の部屋の前へと。そして重い木製の扉をギギギーと押し込んで室内へと入って行きました。するとカウンターの向こうから一見紳士風な、というか奇妙奇天烈な生物が私たちに向かって歩いて来たのです。

 金ピカのタキシードに高さ30センチはあろうかの高高帽子。そのせいだけではないですが、背丈がヒョロヒョロと高い。その上に顔色は黄金色、そして口が前へと突き出て、背後には床に付くほどの……、多分尻尾かな?

 これを目の当たりにした私たち一同、いえ、ツユスケは除きますが、オシッコ漏らしそうに。それでもこの事態を理解しようと、お主は狐? それとも化け狸、いや袋鼠、つまりカンガルーかなと思考を巡らせました。

 そんなオロオロッとしてる私たちに低くて心地よい声で仰ったのです。

「奈那お嬢さま、わざわざお越し頂き、恐悦至極でござりまする、亡きお父上、金太郎様とは大変ご懇意にさせてもらい、よく金太郎飴を頂きました」と。

これにヤッチンと私は「ここでも出たぞ、足柄山の金太郎、その飴が! チョーオモロー!」と叫んでしまいました。

 それとほぼ同時に、「無礼者!」とヤッチンと私に奈那ちゃんの平手連打がバシッ、バシッ!と。その上尻馬に乗りやがったお調子者・ツユスケから最高強度の金属製の足で、ガキン、ガキンと連発足蹴り。もう骨折れそう! で、ウ・ウ・ウと唸っていると、奈那社長はシレッと仰いました。

「その節は父が大変お世話になったようで、まことにありがとうございました、今回私どもの旅行社の『㊙ 未知ワールドへ、ようこそ!』の旅プランにここの森を組み込みさせてもらえないかと思い、突然ですが訪問させてもらいました」

「学生時代には決して見られなかった的確なコレスポンド、随分と成長したもんだ」と呟いてると、それを無視して高高帽子の袋鼠カンガルーオヤジは威厳高く仰いました。

「お嬢さま、わかってますよ、根暗ねくら出るたる渓谷のユユリリララさんから情報を頂いております、ということで、善は急げ、まずはビーナスの森について御紹介致しましょう」

 これに奈那社長、町の相場師・ヤッチン、そして私、他にAIロボットの露払いの助、この三人一匹は「よろしくお願いします」と深々と頭を下げました。こうしてカンガルー似の紳士は次のような話しをしてくれました。


 大金星山だいきんぼしやまの裾野に広がる樹海、ここはその中に直径約1kmの広さを持つ地球において大変異質な森です。ビーナスの森のビーナス、それは「Venus」、つまり金星のことです。

 そして私がこの森の管理人でして、名前はキンカンガル・デンガナと名乗る金星人であります。以後よろしくお願いします。

 1週間前に訪ねられた根暗出る樽渓谷の1CHOSASU星人とネアンデルタール人の皆さまとは懇意にさせてもらってます。これからはホモ・サピエンスの皆さまと仲良くさせて頂ければ幸いです。

 それでは皆さまの疑問を解くために、ここからは質問タイムとさせてもらいます。理解が今一つ進まない点があればご遠慮なく仰ってください。

 さあ、どうぞ!


 この流れに私たち一同は「ホッホー、それは有り難い」と目をパチクリ。それと同時に「一体ここは、何?」と疑問がフツフツと。それに間髪入れず奈那さんが「キンカンガル・デンガナさん、質問!」と手を上げました。

 これに直ぐさま「はい、どうぞ」との返しがあり、奈那さんは訊かれたのです。

「質問1です、『ビーナスの森』は地球では大変異質と仰られましたね、どう異質なんですか?」と。

 さすが我が社長様、鋭い。これにキンカンガル・デンガナは背筋を伸ばし、「謹んでお答え致しましょう」と。

 その内容とは――。

 我が星の金星、その赤道半径は6052キロメートル、これは地球の0.95倍。また質量は地球の0.815倍、これにより表面引力は地球の0.91倍です。

 一方この『ビーナスの森』は地球の地核に向かって、地球誕生時に多くの気泡が生じ、多くの空洞が出来たのでしょう、他に比べスカスカなのです。要は地核に向かってカステラ状態です。

 よってこの地の質量は地球でありながら0.8倍以下。これにより『ビーナスの森』の引力は金星と同じ地球の通常状態の0.9倍しかありません。つまり100kgの体重の人がここに来れば約90kgです。

 要するに『ビーナスの森』は金星にあるのと同じということでして、私たち金星人にとっては非常に心地よく慣れ親しめる森なのです。

 金星では、私たちは地下ワールドで暮らしていますが、この森は地球に見つけた第二の故郷と言えるでしょう。


「ホッホー、そうなんだ」と一応納得はしましたが、まだまだハテナ。そこで私が「質問、その2!」と手を上げました。キンカンガルさんはニコッとされ、「どうぞ」と。

 私はニコッ、ニコッと微笑み返しをし、そして訊きました。

「この森が金星と同じ引力であるとわかりましたが、地球上の他の森と比べ、どういう特別なことがあるのですか?」

「ごもっともな質問ですね、一つは引力が小さいので森の木々は上へと成長することに抵抗が小さいです、すなわち非常に背が高いのです、そして他の地球の森では見られない、引力が小さいことに適応した植物や動物が住んでおります、なんともいるのですよ」

 キンカンガルさんのこんな答えに私たち三人、そしてツユスケさえも「えっ、えっ、えっ、宇宙絶滅危惧種って???」ともう前のめり。そんな様子を見て、キンカンガルさんは仰ったのです。

「Seeing is believing. あなた方の言語では、『百聞は一見にしかず』と申しますよね、さあ、現地案内を致しましょう!」

 これに私たちは「ヤッター!」と歓喜の声を上げました。が、「ビーナスの森の引力は小さめ、そのため少々酸素が薄~ございます、念のためこちらの小型酸素ボンベを背負ってもらいます」と1セットずつ無理矢理手渡されました。

 ヤッチンと私は「めんどくせ~」と言い掛けた言葉を遮るように、奈那さんは「ごもっともですわ、お気遣いに感謝致します」と返され、ヒョイと背負われました。野郎どももこれを見習い、「キンカンガルさんの仰る通りです」とジャマクセー、ヨッコラセと。もちろん見掛けは実に積極的に背負いましたよ。

 これを見届けたキンカンガルさん、「さっ、出発、私の後を付いて来てくだされ」とさっさと後方の扉へと歩かれ、ギギギーと開かれて屋外へと出て行かれました。もちろん私たちは奈那社長を先頭に追い掛けました。


 丸太小屋の外へと出るとそこに大きなテラスがあり、<ここからビーナスの森>と表示されたアーチがありました。そしてその奥には空中回廊が。

 そしてキンカンガルさんを先頭に回廊を歩き、遂に『ビーナスの森』へと足を踏み入れました。そこは引力が弱いのか天へと伸びた木々の森でした。回廊はそれらの合間を縫ってくねくねと続いて行ってます。

「ここ地球?」、「地球じゃないぜ!」と声を上げる私たちにキンカンガルさんは明言されたのです。「ここはです」と。

 先頭切って歩かれて行く、いわゆる宇宙人を、時々酸素を補給しながら後を付いて行きました。まず目にしたのは黄金色に輝く鳥。「あれは?」とキンカンガルさんに訊くと「地球上にはルリビタキ、キビタキがいるでしょ、あの鳥を地球風に言うとオウゴンビタキですよ」と。

 そしてしばらくすると木々の合間に耳がピンと立ち上がった金色の野生動物が。キンカンガルさんはそれを察してか「アイツはキンキツネ」、……、だってさ。

 さらに違う方向に指を指し、「あの木々の奥に数頭いるでしょ、黄金色輝くスラッと背の高い動物が、彼らが私の名前の由来であるキンカンガルーだよ、どうだべ、カッチョイイだろ」と。

 こんな自慢話もありーののガイド、その他動物ではキンシカ、キンウサギ、キンイノシシ等が確認出来ました。またスーッと天に伸びた木々の根元には赤、青、黄、白の花が咲きほこってました。

「美しい、ここは宇宙の神が作った森なんだ!」と、私たちはこんな感動の声を上げました。されども「なんの、なんの、ここは単なる金星の地下ワールドのようなものです」とキンカンガルさんは破格のドヤ顔でんがな。

 こんなシチュエーションに、そう言えば誰かが吠えていたよな、『驚き、桃の木、山椒の木、……、あとはブリキにタヌキに洗濯機、やって来い来い大巨人』てな感動の中で、500mほど空中回廊を進んだでしょうか、さらなる……Big Supriseが!!

 木々の合間から10個ほどの大きさ50センチ程度の乳白色の風船がフンワリ、フンワリ、実にみやびに近付いて来たのであります。

「何なの、この子ら? メッチャ癒やされるわ」と奈那社長がまず声を発せられました。私は「奈那ちゃんへのプレゼント」と言って、目の前の一匹を捕まえようとしたのですが……、スーッと消えてしまいました。

 頭に来て、「お主らは何者ぞ?」と問いました。すると金星人の森の管理人、キンカンガルさんが重々しく答えられたのであります。

「あなた方はまことに幸運です、先にお話ししたように彼らこそ宇宙絶滅危惧種の『忍者フンワリ君』です、時には『星空くノ一』と呼ばれることもありますが、決してメスではなく雌雄同体生物です、そしてその能力は絶対に捕まらない瞬時のが出来、かつが得意です、本当に希なことですが、あなた方を気に入ったようですよ、そうだ、奈那さん、この場で何か変身してもらったら如何でしょうか」と。

 これには私たち一同仰天の極まり。それでも奈那ちゃんは少女時代に戻られたのか、「森の妖精がいいわ」と割に厚かましい。

 それでもこう発せられた途端、忍者フンワリ君たち約10匹が森の妖精に、そう、フェアリーにさらっと変身しちゃいました。

 私たちの周りを透明な羽をヒラリヒラリと羽ばたかせふんわりふんわりと飛んでらっしゃるじゃありませんか。奈那ちゃんも、ヤッチンも私も、ひょっとしてこんな場面に出会うために今までの人生があったのではないかと思わせるほどの光景、まさにビッグな感動がありました。

 それでも純粋無垢な奈那ちゃん、当然手を伸ばし捕まえようとしました。が、瞬間移動の能力を持つ忍者フンワリ君の化身・森の妖精、さっと消えては10秒後に現れて来はります。こんな繰り返しが5分ほど続いたでしょうか、その後元の風船のようにフンワリフンワリと空中に浮かんでらっしゃるじゃあ~りませんか!

 私はこの時思ったのですよ。あのうら侘しいアパート暮らしから最近ツユスケが来てくれて、それはそれなりに楽しくなった。されども未だ心のぬくもりが欠乏中。

 そうだ、忍者フンワリ君だ!! たった1匹でよい。人生をもっと豊かにするため、一緒に暮らしたい、と。

 ここはダメ元、キンカンガルさんにお願いしてみました。

「私はしがないサラリーマンでありまして、ツユスケと味気ない日々を送ってます、救って欲しいのです、どちらの忍者フンワリ君でも結構です、私のアパートの一室に時空間移動して頂いて、一緒に暮らして頂けないでしょうか?」と。

 これにキンカンガルさん、しばしの沈思黙考。そしておもむろにアナウンスされたのです、忍者フンワリ君たちに向かって。

「宇宙の忍者たちよ、君たちの中で、ホモ・サピエンスのこの貧乏お兄ちゃんの暮らしを体験してみても良いと思う忍びの者、時空間瞬間移動の技で即刻彼の肩に乗っかってください」

 こんな呼び掛けの数秒後、直径50センチ程度の1匹のフンワリ生物が、なんと私の左肩にいつの間にか乗っかってるじゃありませんか。

 こんな流れに奈那さんとヤッチン、そしてツユスケまでもが目を丸くして、「! コイツは宇宙絶滅危惧種の中でも一番珍しいというか、物好きな突然変異ですね」と。これにキンカンガルさんは「いいんじゃないですか、このヨッチンお兄さんも宇宙で非常に珍しい生き物のようですしね、似たもの同士、よって意気投合したのでしょう」と笑われました。

 その後、「住所を教えてください」と訊かれ、大きな声で答えますと、肩の上の忍者フンワリ君はフンフンと頷き、さっと消えて行きました。

 というような奇妙なこともあったのですが、全員ビーナスの森をこってりと巡らせてもらい、何はともあれ無事に元の建物へと戻って参りました。


 早速奈那社長から「キンカンガル・デンガナ様、ビーナスの森は衝撃的で面白かったです、ありがとうございました」とまずお礼を述べられました。これに「It’s my pleasure.」とキンカンガルさんは笑顔。それに微笑み返しをされた奈那さん、「今回の出会いに感謝し、今回私ども旅行社が訪問させてもらった目的、そして企画した旅プランを説明させてもらいます」と仰られて、次を要領よく述べられました。


 1.私どもの奈那旅行社は最近利益が出てません。そこで起死回生、新たな旅プランで利益創出をしたい。これが目的です。

 2.数ヶ月前にたまたま開いた亡き父のノート、そこにメモられていました、いくつかの未知ワールドが。それらは魅力的で、シリーズ化させようと思い至りました。こんな経過の後、『㊙ 未知ワールドへ、ようこそ!』という旅の新プランを売り出すことと致しました.。

 3.その一つが『㊙ ビーナスの森』です。

   なお『㊙』の意味は、プランを訪ねた人は、見たこと、聞いたこと、体験したことを他言しない、またSNSに載せない、つまり世間に暴露しないためです。これらは1週間前の訪問地の<根暗出る樽渓谷>様からの条件でありまして、私どもはそれを了承致しました。

 4.さらなる縛りは、『㊙ 未知ワールドへ、ようこそ!』の参加者数は年間100人まで。ただしプランは非常に価値があるため、料金は1プラン当たり1人30万円以上と致しております。

 5.このプランにどうか賛同頂きたく存じます。さらに厚かましいお願いでございますが、何らかの投資をして頂ければ幸いです。


 最後に奈那社長は「以上でございます、どうぞご検討よろしくお願いします」と締め括られました。これに対しキンカンガル・デンガナさんは即答されました。

根暗ねくら出るたる渓谷のユユリリララさんから聞いております、もちろん賛同致します、ただし投資については、私どもはあちらより少ないですが、無利子、無催促、無期限の条件を付けて、1千万円の投資致しましょう」と。

 これに私たち一同、つまり3人+1匹は、ホッ! ホッ! ホッ! ホッ! と4つ。

 それから深々と頭を下げました。

 されどもキンカンガルさんには笑顔がない。そしておもむろに話されたのです、「もう一つ条件があります」と。

 私たちにとってこれは一大事、ここは覚悟を決め、奈那さんは「何なりと仰って下さい」と。するとキンカンガルさんは今までの苦虫を噛み潰した顔から満面の笑みをたたえながら仰ったのですよ。

「奈那お嬢さま、お父上の金太郎さんから頂いた金太郎飴、衝撃的に面白く美味しかったです、本『㊙ ビーナスの森』の採用に当たって、お嬢さまのお顔がいつまでも現れる『奈那飴』を作って頂きたいのです、この森を訪ねてきた皆さま全員に無料配布したいのですが、如何でしょうか?」

 こんな提案を耳にした私たち一同、シーン。30秒の沈黙が……。そしてヤッチン、ツユスケ、私、かつご本人の奈那社長までもが、ワッ、ハッ、ハッ、ハッ、そろって大爆笑。

 その後、不覚にもヤッチンが「奈那飴か、……、ガチッとかじってみたいよな」と吐いてしまったものだから、社長の握り拳が頭にガーン。

 それでも全員の大爆笑が絶えませんでした。やっと奈那さんの「ヨロコンデ、金太郎飴の向こうを張る奈那飴を作りましょう!」と熱い決意表明があり、露払いの助までもが珍しく喜びが隠し切れないようでした。

 


「それでは『㊙ 未知ワールドへ、ようこそ!』のプラン2、『㊙ ビーナスの森』の成立を祝って、私たち金星の友人の星・・スター、そこの地酒で乾杯しましょう」とグラスが回されました。そして「千客万来、ますますの商売繁盛がスッパ、スッパと成就しますように、乾杯!」

 このキンカンガルさんの音頭で私たちもグラスを上げて、ぐぐ、ぐい~と。その3秒後に私たち全員は大悲鳴を――、スッパー、スッパー、

「これはアプリコット星、別名・でなく、単にの酒じゃん!」と肩をすくめたのであります。


 こんなドタバタもあり~のの『㊙ ビーナスの森』から私たちは帰路へと。

 その途中奈那社長から「2週間後に、『㊙ 未知ワールドへ、ようこそ!』、プラン3の『㊙ 高原料亭::真赭まそほすすき』を訪ねます、よろしおすか?」と業務確認があり、「Yes、CEO!」と謹んでお約束させてもらいました。

 そして露払いの助と私は『忍者フンワリ君』にいつ再会出来るかなと期待に胸を膨らませながら安アパートへと戻ったのであります。


 プラン3、乞うご期待を!!


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㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 第二話 ㊙ ビーナスの森 鮎風遊 @yuuayukaze

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