№Ⅷ 子守歌

 


――私とケープは帝国の港町まで逃げ切った。


 

 その後、すぐに行動を開始する。

 とりあえずの目的は船の製作。この町にも船はあったが、ケープの故郷がある〈アルフレア大陸〉に行くには性能が心もとなかった。


 私は手始めに港町の全ての人間を眷属化。徹底して情報統制を行う。

 元船員たちにはケープの作業を手伝わせ、私はひとしきり仕事を終えた後、町はずれの小屋に身を隠した。木の床に尻をつき、壁に背を預ける。



「――疲れた……」



【お疲れさま】


 ここにはリーパーと私、二人きりだ。

 すごく静かだ……こんなに静かな空間、久しぶりかもしれない。


【どうだ姫様、今日はもう眠らないか? オレと契約したあの日から一睡もしてないだろ?】


「契約者に睡眠は必要?」


【脳は必要なくとも心を休める時は誰にだって必要さ】


 同意だ。

 体は正直、まだ動ける。でも私は確かに言った、“疲れた”と。


――心の叫びだ。心が休みたがっている。


【親の死、初めての殺し、部下の死亡。色んなモンを経験して、まだ整理できていない。その状態じゃ今後に響く】


「わかった。わかったから……」


 潮の音が聞こえる。

 紅茶が飲みたい。それかアレだ――〈タピオカミルクティー〉、また飲みたい。


 未来ではきっと、あの甘い飲み物を私ぐらいの歳の子たちが何の気負いも無く飲んでいるのだろう。未来には野蛮な兵器が多いが、優しい物もある。


 考えたこともなかったな、もし、自分がこの時代に生まれてなかったらなんて……。


「リーパー」


【なんだ?】


「未来って、楽しいと思う?」


【どうかな。時代によって、境遇によって、それぞれ悩みはあるものさ。どんな時代だって楽しめる奴は居るし、楽しめない奴も居る】


「そっか」


――きっと私は後者ね。


「ねぇリーパー」


【どうした?】


「歌をうたって。子守歌。なんだか、眠ろうとしても眠れないの」


【なんだ姫様。今日は甘えん坊だな、リクエストはあるか?】


「そうね。任せるわ。私、貴方あなたの声は嫌いじゃないもの。多分、どんな歌でも好きになるわ」


 静かに目を瞑った。

 隣にはリーパーが座っている。霊体のはずなのに、なぜか彼の体温を感じる……。


 私が喋るのを辞めると、リーパーは温かい声で歌いだした。



【しーにがみさん、しにがみさん。今宵はどちらで踊ろうか♪】



 なんだろう。どこか、懐かしい声だ。

 聞いたことのある、声……どこだ? どこだっけ。


 父上と母上の声が聞こえる。口の中にクッキーと紅茶の味が広がる。鼻に香る薔薇の匂い――

 



【たましいひとーついかがかな……♪】




 そうだ、この声は――





「……おーい、グリム」


【リーパー、起きろ】


「――ん?」


 パチ。と瞼をあける。

 隣には欠伸をするリーパー、小屋の扉を開き、ケープとヒュルルが私たちの顔を覗いていた。


「ずっと気を張ってろとは言わないが、契約者と亡霊どっちも寝るのはどうかと思うぞ?」


「あら、ごめんなさい……」


【リーパー。お前らしくもない、寝ている契約者を放置するなんて――】


【わりぃわりぃ、つい、な。それで、船はどのくらい完成に近づいた?】


「ああ。予定よりも大分だいぶ早くできそうだ。前に一度作ったことあるからかな、あとグリムの眷属の助けもあったし」


 私は立ち上がり、ググッと背筋を伸ばす。

 首をコキコキと鳴らし、シャーリーではなくグリムの顔を作る。



「今日中に仕上げるわよ。明日には次の大陸を目指す」



 ――――――――――

【あとがき】

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私を犯した罪は大きい ~奴隷王女の復讐記~ 空松蓮司 @karakarakara

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