№Ⅶ 敗走

 白煙が部屋を漂い、同時に複数の足音が駆け上がって来た。


『グリム様!』

『ご無事ですかぁ!!?』


 テレスとバルフッドの声……!


【逃げるぞ姫様!】

「わかって――」


 ぐ。

 奴に背を向けた瞬間、背中を貫かれ、胸から刃が生えてきた。



「契約者は殺す。逃がしはしない……!」



 コイツ……本当に――


「ごふっ!? ――しつこい……!」


『グリム様ッ!!!』


 ガッ!!! 

 眷属たちが肉の壁となって私から獅子豪を引き離した。刀が腹から抜け、血がどっぷりと吹き出る。

 私は獅子豪へ向かっていった眷属たちの方を向いた。


「テレス! バルフッド!」


 眷属たちの体には手榴弾を取り付けたホルダーが巻き付けてあった。


(ばか――!)



――自爆特攻。



 決死の突撃だ。




『姫様……仇討ちは頼みましたぞ! 我が妻と子と、そして! アリシア様の仇を――』




 テレスは無慈悲な斬撃によって肉片へと変わった。だがピンの抜かれた手榴弾は炸裂し、結界に阻まれながらも獅子豪を後退させた。


「鬱陶しい……」


 獅子豪は目の前の光景に息を呑む。



「――哀れな眷属め!」



 眼前には手榴弾を身に着けた無数の眷属――


『我々はっ――!」


『ヘルベレムの騎士ッ!!!』


『グリム王家、最後の灯を――守るためならばっ!!!!!!』


 巨大な炸裂音と共に地面が崩れ、壁が破壊され、獅子豪は爆風によって城の外へとはじき出された。


「みんな――」

【ちっ! しっかりしろ姫様!!!】


 リーパーが怒鳴り声を上げ、私に顔を近づける。


【アンタは世界を壊してでもユーリシカを殺すんだろ!? だったらこの程度で怯んでるんじゃねぇ!】


「リーパー……」


【白であることを望むなら白であれ、黒を選んだんなら黒を貫け! どっちつかずの灰色が一番つまらないんだ。退屈させるなよ、グリム!】


 私はリーパーの怒号を聞き、顔を引き締め直す。



「逃げるわ!」

【応ともよ!】



 私は壁を突き破り外へ飛び出す。

 私を見送り、眷属が次から次へと断頭台へ登るようにあの女へ立ち向かっていった。


 私は空を舞い、地面にヒビを作りながら着地。



「グリム! 乗れ!」



 背後から眷属馬に乗ったケープが私の腕を引っ張り上げて馬の背に乗せた。

 私は血液垂れ流れる城を振り返る。城からは銃声、爆発音、その他諸々悲痛な音が鳴り響いていた。


「あれだけの数だ、充分な足止めになるさ」


 馬は来た道を戻り、森の間を突っ切る。


【眷属は――全滅だな】


「まー、気にしなくていい。アレは予想外、規格外だ。存在を知れただけ価値がある」


「……ケープ。あの特攻は貴方あなたの作戦?」


 私が聞くと、ケープがめんどくさそうに声を捻り出した。


「王国出身の奴らがオレに頼んできたんだ。“姫様を助けに行く。そのために爆弾をありったけくれ”ってな」


「え?」


「眷属と契約者は繋がっている。主人の危機はすぐにわかるのさ」


 テレス。

 王国の皆――


(必ず、報いる……)


【これからどうする? ぼくらが生み出した兵器たちも眷属と一緒に墓に入った。また一から眷属と道具を作る?】


 獅子豪 浮陽。

 アイツのせいで、積み上げた全てを壊された。


 だからと言って自暴自棄になることに意味はない。

 確実に、ユーリシカの首を取るための手を打つ。例え遠回りになったとしても――


「口振りからしてアイツの目的は契約者の打倒だから、獅子豪あの女の存在で聖戦は膠着状態に入る。ユーリシカもしばらくは動けないはずよ」


【時間はできるな。のんびりやり直すか?】


「一度立て直すのは確定だけど、そこまで長い時間はかけられない。時間をかけすぎたら獅子豪がユーリシカを殺してしまうわ」


「そりゃ好都合だろ? なんの労力もかけず復讐を果たせるじゃないか」


「ふざけるな!」


 私の怒号でケープが「えぇ!?」と背中を揺らした。


「私以外の誰かにアイツが殺されたら、それはもう寿命で死んだのと変わらない。、アイツを殺すことに意味があるの」


 今の状態では獅子豪にも、帝国にも勝てない。

 やはりまずは――



「審判に掛けられた私の制約を外そう。全快なら誰が相手でも負ける気はしない」



【そりゃ無理だって言わなかったか?】


って言ったでしょ?」


【ん?】


「私が“制約はずっとかかるのか”と聞いたら、貴方は『多分』って返した。つまり、方法はなくはないってことでしょう?」


 眷属馬が森の中を駆け抜ける。

 リーパーは困ったような顔をして、私の問いに答える。


【〈月〉の鎮魂アルカナ、〈ラフトムーン〉……アイツなら契約者の能力次第で婆さんの制約を外せるかもしれない……個人的に苦手だから会いたくないけど】


 ラフトムーン……


「会いに行くわよ」


【そう簡単に見つかるか? 契約者同士は引かれ合う、なんて設定は無いんだぞ?】


「〈月〉か。前に噂を聞いたことある」


「どこで?」


「オレの故郷、別大陸だ。そこの士官学校で月の契約術らしき痕跡があったとか何とか、今は亡き節制の契約者がオレをスカウトしに来た時に言ってたな」


 別大陸……この辺りの港町にある船じゃ、私が聞いたこともない大陸まで行くなんて不可能ね。


「ケープ、船は作れる?」


「作れないことはないが時間がかかるぞ。十日は確実に。部品ごとに本から出して、組み立てないとならないからな。魔力の消費量も半端じゃない」


「いいわ。私はその間に適当な村でも襲って眷属を作ってる。眷属に船の製造と操縦を手伝わせて準備ができたら大陸を移動して〈月〉の契約者を見つけ出し捕縛・脅迫して私の制約を取り除かせる。そしてここへ戻ってきてユーリシカを殺す」


「オレは賛成」


【なんだかなー、個人的には話が間延びしてつまらんなぁ……】


【お前はラフトに会いたくないだけだ。どっちみち賛成3、反対1で決定】


 現状、あの女……獅子豪 浮陽には勝てない。

 だけど恐らく、それは帝国も同じ。


 獅子豪という巨大な力を認識したことで、ユーリシカは姿を消すことになるでしょう。闇雲にユーリシカを探せばまた獅子豪に会うかもしれない。そうなれば今度こそ終わり。今は退くしかない。


 間違いなく、局面は静かになる。だけど静かな夜の後に大嵐が来るように、このが終わったら、きっと――




 ――――――――――

【あとがき】

『面白い!』

『続きが気になる!』

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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!

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