№Ⅵ 白紙
契約者は魔術師の頂点である。
そして、
【姫様!】
(わかってる! でもここでおとなしく退くのは
私は散らばった私の
「これは……」
奴の眉が動いた。
再生した私の血によって床は赤く染まり、壁も、天井までも血液で真っ赤に染まる。
奴の足は血の海に入っているが、奴の足は濡れていない。結界でカバーしているようだ。だが――
(私の血肉が散らばったこの部屋はもう、私の領域なのよ……どれだけ高速で動こうが、私の腹の中からは逃がさない!!!)
契約術【
これはただの前準備、本命はこの先、血によって広がった再生範囲を利用する連続技――
「契約術、【
天井の血を再生させ、さらなる血を作り、それを繰り返して地面に血の槍を降らせる契約術。
私が手を合わせると同時に、天井から伸びた血流が獅子豪に降り注ぐ――
「【
獅子豪の体から赤いオーラ――結界が発せられ、血の槍は止められる。
(やっぱり威力が足りないわね。なら――)
私は奴に向けて中指を立てる。
同時に血で出来た竜が私の足元から生えてくる。外殻は血、中身は骨。血の再生方向を指示することによって骨ごと動かすことができる。
「
完成したこの竜の名は、
――契約術
「【
私が指を鳴らすと血の竜は奴に向かっていく。
「……再生する方向を操作して血の竜を作ったのか。やはり優秀な魂が付いている」
真っ向から竜と戦いはしないだろう。
「そんな大技、くらってやる義理はない」
獅子豪は足に思い切り力を入れた。
私はその動作を見て、静かに笑う。
「いいえ、喰らってもらうわ」
「…………!?」
動こうとした奴の足を結界ごと無数の腕が止める。
血の海で隠れた地面から生やした私の腕たちだ。
(足元の血はただの目隠し、足に腕を絡ませるためのね)
足元は血と腕で沈み、正面には実体のない血竜の攻撃。
――少女の汗が一滴、血の海に零れた。
「やるね」
キン。と鞘を滑る刀の音がした。と思うと奴の足元の地面に無数の切れ込みが入り地面が崩れた。
血液と奴が下の階に流れ落ちる。
(ちっ! 地面を裂いて逃げたか。でもこれで、)
【逃げる時間は稼げたな】
窓は小さい。この体のまま通るのは不可能。壁を壊すのは時間のロスがある。
「リーパー!」
私は首をねじ切り、リーパーを体に憑依させて頭を外へ投げさせようとする――
「とら~~~んす☆フォー・メー・しょ~~ん~~~~」
さっきまでと打って変わった高い
(なに、今の変な音……)
【気にするな! 投げるぞ!!!】
リーパーが操る首なし死体によって私の首は窓から天空へ投げられた。
空を漂う私に生首。
――ゴッ!!!
背後で城壁が崩れる音がした……と思うと、
(え――)
目前に、女の足があった。
「逃がさない」
小さな足が私を城の方へ蹴り飛ばす。
鼻が割れる。
私の顔面は脳が潰れないぐらいの威力で蹴り飛ばされ、崩れている壁からさっき戦っていた部屋まで戻された。
「がはっ!!?」
首が地面を転がる。
私は体を再生させ、部屋の中央に立つ。
「一体なにが――」
足音を立てず、奴は目の前に舞い降りた。私は正面に立つ、奴の姿を見て目を丸くする。
「なっ……!?」
――その姿は私の知っている
「ジャスティス☆フヨウ、見参……」
右半身は黒く染まり、首には赤いマフラー。
顔の右半分を覆うようにビリビリのマスクが装着されている。不完全だと一目でわかる異形さ。
【はじめて見るな、アレが〈正義〉の契約術……!】
私は砕かれた地面、壁を見て、獅子豪が飛び跳ねた軌道を確認する。
(一つ下の階から全ての障害を突き破って跳躍したのか!?)
威圧感が段違いに広がる。
紅い光が変身した右眼から溢れていた。
「正義は、悪が強大であるほど力を増す。私が人間だと言うだけで、相手が契約者だと言うだけで、正義は私に力を与えてくれる。私こそ、正義のヒーロー……この力を、貴様ら化物が持つなんておかしいとは思わないかな?」
「正義のヒーロー? 冗談でしょう? 力で相手を支配する。そんなもの、正義であるはずがないわ」
まずい。
そう思った時には頭を引っ張られ、部屋の中心に叩きつけられていた。
「っ――!!!」
声にならない叫びが頭を回った。
「――化物が、人の道理を
再生する暇もなく、天空より降ってきた奴の刀に貫かれる。
「が――」
私は再生しながら刃を掻い潜り、奴の背後に立った。
「はぁ……! はぁ……!」
――もう
「仮定を考えているだろう?」
「――!?」
私の心を見透かしたように女は言う。
「もし、たとえば、こうだったら、せめて――そういう言葉を使った時、誰しも足を止める。戦いの最中に夢想に浸れば思考は停止する」
奴は、淡々と私の心を折る言葉を口にする。
「諦めろ。私はまだ、余力を残してる……」
(ハッタリ――)
――じゃない。と奴の目が訴えかけている。
(呑まれる……圧倒的な力。誰よりも濃い、殺意……)
憎しみを向けることはあっても、憎しみを向けられることはなかった。
これが――
(“憎まれる”、ということ……)
コツン、コツン。と足音が大きく聞こえてくる。
怖い。怖い。
命乞いは絶対に通じない。そんな相手じゃない。家族だろうが友人だろうが、それが復讐の対象なら彼女は必ず殺す。
――見える。彼女の背後に立つ、女の姿……〈シャーリー=フォン=グリム〉の姿が、獅子豪浮陽に重なる。
(怖い――)
死が迫ってきている。
「あ、」
気が付くと頭の中から思考が消えていた。
【おい……しっかりしろ姫様!】
死ぬ。
私は死ぬ。
「死から遠いゆえに、死に直面した時、化物は脆い」
【逃げるぞ!
契約者になってからはじめて感じる――死の恐怖。
コイツから逃げるのは不可能だ。
手札はもう、全て切った。
膝が震える、声が出ない――
(ここで終わるのか? こんなどこの誰とも知らない奴の手で――!)
「死ね」
嫌だ。
私にはまだ、成すべきことが――――
「――――〈
男の声が響いた。
(この声は……)
かつん、かつん。
〈獅子豪 浮陽〉が開けた床の穴から鉄の塊が投げ込まれた。前にケープが使った爆弾〈手榴弾〉に似ているが、形状は円柱に近い。その物体は私と獅子豪の間に転がる。
「爆薬か……?」
――白煙。
「煙だと!?」
【スモークグレネードか! ナイスだ、ヒュルルの契約者!!!】
全てを白紙に戻すように、白い煙が部屋に充満した。
下の階で、逆さまの女を連れた気だるそうな男が呟く。
「悪いが、もうちょい長生きしてもらうぞ。オレの未来の嫁のためになぁ……」
――――――――――
~~~契約術【
簡単に言うと変身。某ライダーのやつである。
変身する際は必ず『とら~~~んす☆フォー・メー・しょ~~ん~~~~』と言いカッコいいポーズを取らなくてはならない、そして変身した後にはオリジナルのヒーロー名を言わなくてはいけない。浮陽の場合は『ジャスティス☆フヨウ』。ちなみに浮陽は根が真面目なため、この条件を知った時は冷や汗をかき、ヒーロー名に三日三晩悩み、口上台詞とオリジナルポーズの練習の際には顔を真っ赤に染めていた。慣れた今ではノリノリな模様。
変身した後は全身がスーツに覆われる……が、浮陽の場合は疑似なので不完全な状態になる。スーツもビリビリで半身だけなのでかなり怖い見た目(しかももう半身はただの女の子というギャップ)。
効果は身体能力強化、ヒーロー武器と必殺技の作成(浮陽の場合はヒーロー武器は無し)。
能力の強化量は相手との“種の差”、“状況の差”、“体格差”と自分の“純粋な感情”によって決まる。窮地に追い込まれるほど力が上昇し、体が変貌する。最終形態は怪物のような外見になる。“正義の行く末は化物”という皮肉。
一つ目の種の差、というのは相手が蟻ならほとんど効果が無くて、相手が熊のような人間より強い種だと能力が強化されるということ。契約者は人間とは別カテゴリーであり、人間から見て契約者は上位種なので『私が人間だと言うだけで、相手が契約者だと言うだけで、正義は私に力を与えてくれる』というセリフに繋がる。
正義の契約者は浮陽に真っ先に狩られた。相性が悪かった、ドンマイ。
~~~契約術【
室内限定技。基本的にシャーリーは室内の方が強い。
続く【
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