№Ⅴ 皇帝、力、そして――
私は体を再生させ、目の前の黒髪女を見る。
(な――なにが起きたの!? リーパー!!! なんでこの距離で首が斬られる!?)
【いやぁ、待ってくれ。俺もなにがなんだか……動揺している】
奴は片膝をつき、鞘に納めた刀の柄を右手で、鞘を左手で握りしめる。
「――【
女が抜刀するのと同時にギュイン! と空気が唸った。
刃から発せられた白い斬撃が間合いの外に居る私の腹を掻っ捌く。
「……かはっ!?」
口から血が溢れる。
意味がわからない。なぜ、この距離で私が斬られるのか……。
「再生か……」
女は淡々と呟き、空へ飛んだ。
(飛行!?)
それから獅子豪は空を足場にして、縦横無尽に飛び周りはじめた。
(空を走ってる!?)
紅い残影しか目で追えない――!
ヒュン。
洗練された斬撃音と共に、私の胴体は地に落ちた。
(なにがなんだか……!!!)
体を再生させ、拳を打ち付けようとすると獅子豪は目の前から消えていた。
――気づいたら私の視界は細切れにされていた。
(審判の契約者より、さらに速い!?)
ありえない――
(落ち着いて……! 瞳に魔力を集めて動体視力にブーストを――)
足音だけが聞こえる。
姿が見えない。私が視線を動かす度、死角に入っている……!!!
「こ、の――!」
駄目だ、斬られる!
「ぐっ!?」
心臓が裂かれ死亡した。
「がっ!!?」
首を穿たれ死亡した。
距離を取ろうとすれば足を斬られ、目を抉られ、脳を真っ二つにされた。
死んだ、死んだ、死んだ――何度も何度も何度も何度も何度も――――死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死ッッ!!!!!!
「がああああああああああああっっ!!!?」
なんだコイツは、なんなんだコイツは!!!?
武器は刀と銃だけ。身体能力は契約者を遥かに超えている――! 一度の剣閃で二十の斬り傷を作り、地面を蹴れば一息でどんな距離も詰めていく――――
(これのどこが人間よ!?)
私は体を再生させ、立ち上がるが、
(膝――!)
右膝を斬られ、地に左膝を付く。同時に首から下が八十分割され、髪を掴まれ壁に投げ捨てられた。
「……厄介だな」
何一つ表情を曇らせず奴は言う。
私は体を再生させ、壁を背に立ち上がる。
――布石は打った。
奴の周りには私の
「いま、
それは、審判を相手にした時に使った技――
何百、何千と空へ地面へ散らばった私の体の部分部分を個別に再生させ、敵を包み込む不可避必殺の抱擁。
契約術――
「【“
ザァーーーーーーー!!!
独特な音を立て、再生する私の一部たち。
女は何食わぬ顔で、鞘に収まった刀を構える。
――居合いの構え。
紅き瞳の炎がゆったりと揺れ、少女の体に仰々しい王様のような恰好をした男の
「疑似契約術。【
奴の体が紅く染まり、体から紅蓮の風気が発せられる。
(契約術……!?)
紅く染まったオーラが私の欠片たちを全て
【あれは、流動体の
次の瞬間、
再生した肉、骨、無数の私の残骸の全てが――斬り落とされた。
「じょ、冗談でしょ……?」
再生した側から叩き斬られた……!? いやその前に、どうして“
【おいおい、アレは〈
リーパーがなにかを確信する。
【ようやくわかった。アイツの強さの秘密が】
(教えなさい!)
【アイツが付けているグローブ、シャツ、ズボン、靴。刀と鞘、よく見てみろ】
(え――)
私はリーパーの言う通り目を凝らして奴が身に着けている物を見る。
『ぅ……ぁ、がぁ』
『い、ぉ』
「あれは――」
グローブと靴からは
【ありゃ
(どういうこと?)
【間違いない。あの羽織っている学ランを除いて、奴の体を纏う物全て――契約者の体から作られたモンだ。契約者の体、遺体を媒介にして
(契約者の体から……?)
私の骨で作った武器が鋭い切れ味を誇ったように、契約者の体から作られた武器はなにかしらの力を発揮する。それと同じような理屈か?
(あ――!?)
そうだ。
〈節制〉の契約者だけ、丁寧に解体されていた。下に布まで敷いて……遺体を、利用するためかッ!!!
【し、信じられねぇ。マジで、一体どうやって……】
珍しくリーパーが笑いながらも冷や汗をかいている。
それほど異常なことと言うわけね。まぁ、詳しく説明されなくても相手が異常なことをしていることはわかる。
「私の能力に気づいたか。なら、もういいだろう?」
「……なにがよ」
「実力の差は歴然、戦う必要はない。大人しく殺されろ。お前はユーリシカを追っているようだが、多分、聖戦で勝つために追っているわけじゃ無い。復讐だろう? お前は、復讐者の眼をしている」
知ったようなことを……。
「安心するといい」
「あ゛ぁ?」
「ユーリシカはしっかりと、
(小娘ッ――!)
噛みしめた唇から血が零れる。
【奴自体は契約者じゃない。が、三つの
三体の契約者の体から――ちょっと待って、ということは……まだ一つ、見せてない業、〈正義〉の契約術が残ってるの?
「んぐっ!?」
私の喉が刀によって串刺しになり、貫かれた勢いのまま私は壁に貼りけられた。
私の喉越しに貫かれた壁にはヒビが大きく広がった。
「強い。今まで戦った契約者の中で一番、底が知れない。――いや、契約者の力だけじゃない。特殊な亡霊を連れている……なにか縛りを受けているのか? 潜在能力を一割も出せていないだろう。――危険だな。お前
ユーリシカはコイツと私を鉢合わせるために――いいや、それなら節制を置く意味がない。ユーリシカは私を契約者で囲んで潰すつもりだった! でも辞めたんだ、コイツに狙われていたから――コイツから逃げるために……!
【勘違いするなよ姫様、この女子は武具に頼ってるから強いわけじゃない。少なくとも、一体目の契約者は人の身で倒したんだ。つまり――】
「がっ――」
【コイツは、素の力で契約者を倒せる力を持っている……】
喉から空気が抜ける。
「お前が四人目……いや、節制を含めて五人目でよかった……お前が一人目だったら――」
奴は、目線を下げなくちゃ見えない少女は、静かにほほ笑んだ。
「
その笑みは、悪魔そのものだった。
「ど――けっ!!!」
私は右脚で奴の腹を蹴り飛ばす。衝撃で私の足が壊れながらも強引に蹴り飛ばした。
「かはっ!」
喉を治し、前を見る。
思い切り蹴ったのに手応えはほとんどない、まるで見えない壁に阻まれたような感覚だ。
【〈結界〉……皇帝の業だが
「ストックはあといくつある? 何百か? 何千か? 何万か? 何億か?」
背筋が凍る。
生物としての本能が、撤退を促してくる。
「いくらでも構わない。……無限回数再生しようと、殺しつくしてやる」
あんな小さな女が、
村娘にでも居そうな、平凡そうな女が、
まだ垢の抜けていない、“かわいい存在”から抜け出せていない女が、
――遥か高く、この城よりも大きく見える。
【悪いことは言わない。逃げろ姫様!】
(くそ――)
逃げるのが得策ね。でもなんだか――
「このまま一方的にやられるのは、ムカつくわ……! 冷や汗一つぐらい……かかせてやる」
――――――――――
~~~契約術【
紅い流動体の結界。よくイメージされる角ばった結界ではないため、汎用性に優れる。
結界を武器に纏って威力を高めることもできるし、空中に固定化して足場にもできる。本来の効果は『対象の拒絶』、自分が“いらない”と思った物質を弾くことができる。光情報を操作して姿を消すこともできるし、酸素などの必須要素のみを迎えて他を全て除外することも可能。リンゴだけ迎え入れて、みかんは弾く、みたいな細かい操作もできる。相手を結界で囲んで、相手を弾くようにプログラムして結界の中で圧死させることもできる。
だが浮陽の場合はあくまで疑似なので、本来の万能性はない。ただの固い流動体壁として見てくれて良し。ちなみに浮陽に殺された契約者の順番では二番目。
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