第24話 エピローグ

 男が一人、ヒト型の魔物と相対している。

 振り下ろされた斧の一撃を紙一重で避け、魔法剣で斬りつけるが傷は浅い。即座に再生する皮膚は攻撃の無意味さを知らしめている。奥歯を噛み締め、男は走りだす。逃げて、逃げて、逃げ回って……。


「あの、す、スケダさんはいつも逃げ回っているん、ですよう?」

「そうですね。魔物ランクを上げましたし、最低でも一か月はこのままでしょう」

「た、大変ですよう……」


 片目を隠した黒髪巨乳美女の疑問に、金髪オッドアイの美形が答えた。言わずと知れた、セティレと孤児院長のイチョウだ。


「スケダくーん! 頑張って生きてー!!」

「その応援は合っているの……?」

「うんっ! だって不死身のスケダくんだもんっ」

「蘇ったのはあのダンジョン限定でしょお?……いえ、どうなのかしら。魂が二つなら……くふふ、やっぱり面白い男だわあ」


 その隣で声高々に声援を送る金髪碧眼悪魔美女と、いつも通り浮遊してゆるふわにころころ笑う龍ロリ。ユウヒメとルルルアである。


「ウォオオオオオオ!!! オレは!! 生きるッ!!!!」


 コバエのように逃げ回るスケダは、逃走姿だけやたらと様になっていた。

 場所は魔界コロッセオ。状況、修行中。いつもの院長による鬼訓練であった。

 

 迷宮ダンジョン事変より数日。

 セティレの物語が幕を下ろし、そういえば「キズナクロス」とか覚えたけど一切使わなかったなと微妙な疑問を持ちながら孤児院に帰ったスケダ。院長に報告をし、しっかり身体を休めた後、普通に訓練が始まった。ちょっとよくわからなかったが、スケダに拒否権はないので当たり前に戦い始めた。相手は人間の数倍大きいヒト型ミノタウロス。牛頭で、凶悪な顔つきをしている。


 特徴は一つ、今までと異なり明らかに武術を嗜んでいる。それも斧と銃だ。重ねて言う。斧と、銃だ。


「ギャアア!! クソお前銃はねえだろ馬鹿が!! マッチョの癖に遠距離攻撃してくんじゃねえよ馬鹿野郎!!!!!」


 どう考えても近接戦オンリーな顔つきで普通に銃を撃ってくる。しかも結構ちゃんと狙って足を撃とうとしてくるのだ。笑えない。


「セティレだったら銃はどう対処するかしらあ?」

「へぅ、わ、私はその……反射魔術か夢想術で銃をお菓子に変えますよう」

「くふふ、楽しそうねえ」

「そう言うルルルアさんは、どうなんですよう?」

「わたくしなら近寄って殴るわあ」

「思ったより原始的ですよう!?」

「はいはーい、お姉ちゃんはこっそり近寄って奪っちゃうかな!」

「ユウヒメ様ではあの程度相手になるわけないじゃないですか……」


 和気あいあいと観客席で話をする仲間たちと師匠に対し、スケダは必死だった。

 今日もまた、死にかけながら仲間の背を追いかける。


「へっ」


 一人不敵に笑みを浮かべ、銃弾を弾いてミノタウロスへ向き直る。

 ダイスケが言うのだ。「往くぜ相棒。――俺たちは二人なら、無敵だ」と。


「相棒じゃねえが、いいぜ。――お前を信じてやるッ!」


 駆け出し、超高出力の魔法剣を作り出す。銃を避け、斧を避け、魔物の胸に剣を突き刺した。その動き、まさに稲妻の如く。


「みろ?」

「は?」


 ミノタウロスは首を傾げた。スケダは疑問符を浮かべた。ダイスケは「あばよ、相棒……。花くらい手向けてやるぜ」と、天を仰ぎ背を向けて言っていた。


「こんのぉダイスケてめえええええええ!!!!!!」


 スケダは激高した。そしてミノタウロスにお手玉された。


「クソ! この野郎!! 絶対!! オレが! いつかぁ!!! ぶっ倒してやるからなぁああああ!!!!!」


 絶叫するスケダを、観客席の皆が生温かい目で見ていた。

 院長は「頑張ってください」と微笑み、ユウヒメは「弟くん可愛いなぁ♡」とうっとりし、ルルルアは「ずっと待っていてあげるわよお」と楽しげに笑みを浮かべ。

 セティレだけは少しばかり困った顔で「が、頑張ってくださいようっ」と心配そうにしていた。さすがは常識人である。

 

 今日もスケダの戦い(職業訓練)は続く。

 最強のダンジョン攻略者を目指して。最高のチヤホヤ栄光エンドを目指して。未だ色のない、夢と未来を求めて。

 

 駆け出しダンジョン探索者スケダの戦いは、まだ始まったばかりだ!!

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選職無職のダンジョン攻略 with 自称姉&ストーカー龍ロリ&物語狂い系目隠れ乙女 坂水雨木(さかみあまき) @sakami_amaki

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