コメディ・アラカルト

野志浪

祭壇の反省会

「我々はかつて、天空人と呼ばれる民族の戦士でした。しかし、ゴーランドに敗北し、この姿に変えられてしまったのです。」

コウモリの1匹がそう言った。


「ですが、あなたたち光の戦士なら、必ずヤツを討ち取ることができるでしょう。」

「この世界を混沌から救い出すことができるのは、あなた方だけなのです!」

残りのコウモリたちも口々に激励の言葉を述べる。


戦士レオンと赤魔道士のモーガンは、2000年前に繋がっているというワープホールを見つめた。


「これが…最後の戦いってわけだな。」

「ああ。長かったこの旅路も、ようやく終わりを迎えようとしている。勝つか負けるか…2つに1つだ。」


不安そうに固唾をのんでいるモンクのルークを、モンクのレイが冗談めかして笑いとばす。


「おいおい、ルーク。まさかビビってんのか?俺たちが負けるわけねえだろ?」

「…ビビってなんかいないさ。ただ、世界の命運が俺たちの手に委ねられていると思うと、少し慎重にもなるだろ。」


レオンがサーベルを担いだ。

「そんなのは、最初っから同じだろ?それでも俺たちは、ここまでやって来れたんだ。変わらねえさ。最初も最後もな。」


4人はワープホールの前に整列する。


「じゃ、行ってくるぜ。」

「皆さん、お気を付けて…!」


光の戦士たちは1人ずつホールの中に飛び込んでいく。最後に残ったレオンが、振り向きざまに言った。


「お前らも、元の姿に戻れたらいいな。」


シュン!という音とともに、祭壇に静けさが訪れ、5匹のコウモリたちだけが残された…。










20分後。










「うぃ〜…ス…。」

「あれ、もう帰ってきたんですか?僕ら、まだ元の姿に戻れてませんけど…。」


4人の戦士たちは、ぞろぞろとワープホールから戻ってくる。

全員何も答えないので見守っていると、彼らは祭壇の前に座って会議を始めた。



「…サーベルで勝てるとか言ったやつ誰だ?」

「誰も言ってねえよ!お前が『こいつさえあれば俺は負けねえ…』とか言って、新調しないでずっと使ってんだろ!もう諦めてエクスカリバー探しにいけよ!」

「どこにあったんだそんなもん!もう1周するか?おお??」


レオンとレイの口論を、モーガンが諌める。


「落ち着け2人とも。レイ、装備の話をするなら、お前も酷いぞ?あれだけ町やダンジョンで価値のある物を手に入れたのに、なんでいつもパンツと指輪だけで戦おうとするんだ。」

「モンクは全裸に近いほどステータスが上がるんだよ!」

「おかしいと思っていたんだ。モンクしか装備できないヌンチャクが序盤の町でしか手に入らず、『攻撃特化』とほざいておきながら、ゴミみたいな火力と引き換えに防御まで捨てる戦闘スタイルは看過できない。」

「だから途中でヌンチャク捨てたろ!そしてお前、俺だけを責めるなよ!モンクは2人とも同じだ!」


矛先を分散させられたルークは、申し訳なさそうにしながら、冷静にボス戦を振り返った。


「今更ジョブの話をしたって仕方ないだろ。それよりも、全体攻撃の対策を考えないと絶対に勝てないと思う。」

「その話はするなっ!」

目を背けるモーガンを、レオンが追及する。

「いや、逃がさねえぞモーガン。モンクが2人もいる筋肉パーティにおいて、唯一魔法職と呼べるお前が、下手に物理職のセンスもあるせいで中途半端にしか魔法を覚えられない…。おかげでうちには、全体回復を使えるやつが一人もいないんだ…。」

「中途半端なのはお前もだろうレオン。先頭で盾役に徹していればいいものを、強化イベントでちょっぴり魔法に手を出せるようになったところで使い道がない。強化するなら防御を強化しろ!どうせ一番ボカスカ殴られるのはお前なんだから。」

「強化イベントは俺のせいじゃねえだろ!あのバハムート野郎、けったいな試練をやらせてきたくせに、終わっても何もくれねえと思ってたら、後で勝手にジョブチェンジさせられてたことに気付いたんだよ…。その場で説明しろよ!『おたく、少し魔法使えるようにしときましたよ』って。そしたら、そんとき文句言えたのによ!」


白熱する議論に再びルークが割って入り、話題を変える。


「なあレイ。本当はこんなこと言いたくないんだが、やっぱりお前だけレベルが足りてないんだよ。中盤でコールドスリープしてた分が響いてるんだ。」

「例の事件をコールドスリープとか言うなよ!あのな、その話をするなら文句を言いたいのは俺の方だ。ある日コカトリスに俺だけ石化されて、起きたらもうボスが1体倒されてたんだ。目が覚めた後、お前らの大きな背中を見て、俺は思ったよ。『ああ…こいつら、俺がいなくてもボスを倒せるまでに成長したんだな…』って……。じゃ、ねえんだよ!なぜ治さねえ?よくもまあ、俺の石像を担いだままダンジョンを練り歩いたな!メンタルが怖えんだよ!」

「その説明はもうしただろ。店に売ってる『金の針』ってアイテムが何か分からなくて、治す方法が見つからなかったんだ。教会に連れていっても、『いや、死んではいないので…』とか言われて門前払いだったし、モーガンは石化解除の魔法使えないし…。」

「俺の方に責任を転嫁させるな。モンクなんて魔法の代わりに文句しか唱えられないハズレ職のくせして。」

「ちょっと上手いこと言った顔するな!ジョブの話はやめろって言っただろ!唯一まともなジョブのレオンさえこの有様なんだから、原因はそこじゃないんだよ!」

「この有様とはなんだ!サーベルのことか!これだってな、お前…元々はお前らモンクが悪いんだぞ!2人が装備屋でお揃いのパンツと指輪しか買わねえから無駄に金が余って、ダンジョンの隅々までトレジャーハントする必要がなかったんだ!あーあ、探せばどっかに落ちてたかもなあ!エクスカリバー!」

「その辺に落ちてる代物じゃないだろ!なんだよ、すぐモンクのせいにするよこの戦士…。」

「被害妄想はやめろ。ちゃんと赤魔道士にも責任を押し付けてるだろ!」

「フォローになっていない。…今、押し付けてると言ったか?」

「聞き間違いだそれは。俺は何も悪くねえ…。」


レオンは何か思い至ったように立ち上がった。


「そうだよ…!思えば俺はなんも悪くねえ!だいたい、最初のジョブ選ぶときに、誰だって戦士は前衛に敷いとくよな?デフォルト画面で推奨されてるのも、戦士とシーフと白黒魔道士だ。モンクと赤魔道士なんて、2周目以降のネタジョブじゃねえか。」


そう言って、彼はポケットからPSPを取り出す。


「待てっ!何をするつもりだ!」

「ゴーランドが2000年の時を遡るというのなら、俺は2000分のプレイ時間を遡ってやる…。最初のパーティ選択からやり直しだ…。」

「早まるな!まだレベル上げすれば何とかなる!」

「うるせえよ!じゃあ誰か全体回復覚えろよ!」

それを聞いて、3人は黙り込んでしまう。


「じゃあな。お前らと過ごした30時間……」


最後に、レオンが微笑んだ。


「攻略wikiの検索に使えば良かったぜ…!」



ポチッ。



レオンはタイトル画面に戻り、ニューゲームを選択したままwikiを検索する。


えーっと…次の面子はシーフと白黒魔道士でいいとして……エクスカリバーはマジでどこにあったんだ…。



しかし、『ジョブ一覧』と書かれたタブが目に入り、気になって開いてしまう。そこには衝撃の事実が…!



・シーフ

魔法は少し覚えますが、MPが全然上がらないので、ほぼ使えません。


・白魔道士

全体回復が使えますが、行動が遅く、体力も低いので自分がすぐ死にます。


・黒魔道士

魔法が強力ですが、ボス戦ではデバフ攻撃が効かず、有効なバフスキルは赤魔道士でも覚えます。





その後ゴーランドを打倒し、世界を救ったのは、サーベルの戦士と器用貧乏の赤魔道士、お揃いパンツのモンク2人だったという。

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