ゴーストバスターズ

生物兵器ロイコクロリド。


とある小国の科学者が開発したとされる危険極まりない人工ウイルスは、事実上この大きな戦争を終わらせる最後のきっかけとなったが、その犠牲となった街には今も感染しゾンビと化した住人たちが、人肉という餌を求めて彷徨っていた。


日光を浴びると死滅するゾンビたちを一掃することは、全ての建物を破壊すれば簡単だ。しかし、植民地となったこの場所を保存するためには地道な掃討作業が必要であったのだ。


そして今、軍から派遣された特殊エージェントの2人が、この街最後の任務に奔走していた…!





…ドン!ドン!


「ヒィ!先輩!いきなり撃たないでください!!」

「…クソっ、ネズミだったか。」


パーシーはネズミに当たってもいない弾痕を確認しながら、キリリとした眉で銃を下ろした。


「ボビー、お前はいちいちビビるんじゃない。」

「だって無理ですよぉ…。僕、ホントにオバケだけはダメなんですって…。」

「オバケじゃない、ゾンビだ。…いいか、お前は俺よりも強い。自分に自信を持て。戦場で『狂戦士』と恐れられた真の実力を見せてみろ。」

「そんなこと言われたって……。」


震えながら縮こまるボビーの肩を強く抱き、パーシーは前方を指差した。


「大丈夫だ。この奥の部屋が最後…。そこに敵が残っていなければ、もうこの街の安全は約束される。一緒に生きて、祖国に帰ろう。」

「先輩……。」


目に涙を溜めるボビーを勇気づけ、パーシーはいよいよ、『腐者の砦』と呼ばれたゾンビ屋敷の最後の扉を開いた……。







……普通に1体いた。






「ギャー!!もう無理ですやん!!」

「焦るなボビー!俺が仕留めるっ!」


ドン!とパーシーが銃を撃ち鳴らしたが、弾はまたしても外れてしまい、ゾンビは「ア…」と小声で呟きながら更に奥の部屋へと逃げ込んだ。


「クソっ!やっぱり戦場で『仰天児』と恐れられた俺のカスみたいなエイムじゃ当たらねえ!ボビー、お前がしっかりしなきゃダメなんだ!」

「……………フッ……。」

「…ボビー?ど…どうした…?」



ボビーは両腕をダランと垂らしたまま、何やら怪しげな笑みを浮かべていた。


明らかに様子がおかしい。



「こんな屋敷……丸ごと消してしまえばいいんだ…。ハハ…そうだよ…簡単なことじゃないか…。」



まずい。

ボビーは恐怖心を越えて一周し、錯乱状態に陥っているのだ。



「やめろボビー!任務で建造物の破壊は禁止されている!」

「うるせえ!弾外しまくってモノ壊してんのはあんただろ!」

「そりゃそうだ!すまん!!」

「ウラァァァ!!」


ボビーは狂戦士状態のまま、部屋中に向けてマシンガンをぶっ放した。


「ギャー!危ねえ!やめてくれ!!」



パーシーは今入ってきた扉を封じられ、あたふたと奥の部屋へ駆け込んだ。


「…うおっ!ビックリしたっ!…オメェはなんでまだいるんだよ!!」

「……ア…?」

「ア?じゃねえ!お前も早く逃げろ!」


何故かまだドアの隙間から様子を窺っていたゾンビの腕を引き、パーシーは反対側の扉から廊下に飛び出す。


そのまま息をつく暇もなく2人が物陰に隠れると、鳴り響いていた銃声がパタリと止んだ。



ギィ…と、静かにボビーのいた部屋の扉が開き、そこからゆらゆらと肩を揺らしながら、狂戦士は廊下に現れた。


「……どこ行ったァ…?」



戦慄、走る……。


一刻も早く、この屋敷を脱出しなければ。



しかし、もと来た道はあのバケモノによって制圧されている。


「おい、ゾンビー!」

「……ア?」

「お前だよ!他に出口はないのか?」


ゾンビーは暫く頭を捻って考えていたが、やがて「アッ」と閃いたように人差し指を立てた。


「何?反対側だと…?そ、そうか!確か軍から渡された見取り図によると、緊急用の避難口があったはずだ。でかしたゾンビー!」


ゾンビーは褒められて少し嬉しかったのか、上機嫌で通路を先導しはじめる。



音を立てず、かつ迅速に。


入り組んだ構造の階段を確認しながら1階に下りると、その最奥には外へ繋がるらしい扉が建て付けられていた。


「よし…!こんなやべえところ、さっさとおさらばしようぜ!」


しかし、先ほどからゾンビーがドアノブをガチャガチャやっているのだが、開く気配がない。



「………。」

「……………………ア」

「アッ、鍵ない?鍵がないのね?」


ゾンビーは必死に自分のポケットの中をまさぐりだした。

次々とティッシュや砂が出てくる。


「おい!頼む、急いでくれ!こんなところで死にたくない………今は飴ちゃん要らん!!」



そのとき、上階からおぞましい声が響いた。



「誰かいるなァ…。ふーん…?この下、出口あるんだァ……。」



絶体絶命である。



だが僥倖、ゾンビーは急にポンと手を打ち、再び扉の前に立った。



ガラッ。



「………………………ア」

「アッ、引き戸だったのね?珍しっ!それは……許す!!」



こうして2人は爽やかな風吹く屋外へ脱出することに成功した。





パーシーは駆けた。

ただひたすらに、振り返らず。



思えば長くて短い任務だった。


軍人として祖国を守りたい…。

その一心で厳しい訓練にも耐えた。



「ハハ、お前が軍人に?笑わせるぜ」

「お前もう銃やめろ危ないから」

「あのね、私の従兄弟が食洗機の営業マン探してるんだけど…」



同僚から投げられた心ない言葉も、今となっては自分を憎しみから叩き上げた踏み台に思えた。


見るがいい、あの鬱屈としていたゴーストシティも、もはや雲一つない晴れ空の下で、元の世界を取り戻そうとしている。



「フッ…笑えるよな。本当に恐ろしいのは、ゴーストじゃなくて人間だったなんてよ…。なあ、ゾンビー……。」



振り返ると、彼は日光の下でドロドロに溶けていた。



「ゾンビーーー!!!!」













アッ、終わりです

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コメディ・アラカルト 野志浪 @yashirou

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