魔法少女ラブ&ピース

「きゃあっ!!」

「くっ……!!」


一緒に放った渾身のマジカル・ラブリー・レインボーが弾かれ、二人はせり上がった瓦礫の山に叩きつけられる。


「つまらないな…。お前たちの魔法はそんなものか…。」


怪人ディストピアは悠々と地面に降り立ち、面倒臭そうに首を鳴らした。



「そんな…私たちの融合魔法が通じないなんて…!一体どうしたら……!」

プリティ・ラブは悔しそうにステッキを握りしめた。


「フフ…その表情が見たかったのだ…。これで終わりとは言うまいな?私をもっと楽しませろ…。」


ディストピアはゆっくりとこちらに迫ってくる。



「……ひとつだけ、考えがあるわ。」

「まさか、プリティ・ピース…!あれを使うつもりなの…!?」

「そう、私の最終魔法『ウルトラ・ハピネス・シャイニング・レインボー』よ…!」

「でも…!それを使ったら…!」

「分かってる。私の魔力は全て尽きてしまう。だけどもう、これしか方法はないわ!」


プリティ・ピースは決意と共に立ち上がり、魔力をステッキに集中させ始めた。


「おっと…。もう奥の手が登場か?ならば私も出し惜しみはするまい…。」


ディストピアはそう言うと、黒い魔力の塊をそこら中にばら撒いた。それぞれの塊はもぞもぞと歪んで人の形となり、大量の敵兵を作り上げる。


「くそっ!こんな数…どうしろというの…?」

「私の『ウルトラ・ハピネス・シャイニング・レインボー』は、魔力が溜まるまでそれなりに時間がかかるわ。プリティ・ラブ、あなたはそれまで、魔法でやつらを足止めしてちょうだい!」


プリティ・ラブは小首を傾げた。

「いや、それだと私の魔力まで全部無くなっちゃうけど…。」


「やれ!お前たち!」

ディストピアが命令するや否や、敵兵たちは奇声を上げてプリティ・ラブに襲いかかってきた。


「危ない、プリティ・ラブ!!」


プリティ・ピースは魔力を充填しながら息を呑んだが、プリティ・ラブはどうやら無事らしい。


彼女は膝を軽く落として魔法のステッキを水平に構え、3人の敵兵に振り下ろされた刃を、全て受け止めている。

そのままステッキを反時計回りに翻しながら、腰を少し低くした状態で敵兵の腕の間に右脚を差し込み、一番左の敵Aが刃物を握っている右腕に踵落としを繰り出す。

その勢いを利用してステッキの右に付いたリング部分の装飾を中央の敵Bの首へ嵌め込んで引き寄せたかと思うと、そこを支点にして跳躍、倒れ込む敵Bの身体を敵の死角にしながら、Cの顔面にドロップキックを炸裂させた。

着地と同時にBの背中を踏みつけステッキを逆方向に引っ張り、Bの頭がゴキッと音を鳴らして動かなくなると、そのままリングを外して、痛む腕を抑えながら飛ばされた剣に手を伸ばすAの両目を素早くステッキの先で2回突いた。


「プリティ・ピース!ケガはない?時間はどのくらい必要なの!?」

「え…う、うん…あと2分ぐらい……?」


「フン…少しはやるようだな。ならば、これならどうだ?」

ディストピアが指を鳴らすと、残った敵兵の2体が猛獣に変化する。

猛獣たちはガオォ!と息を荒げながら、プリティ・ラブの左右から挟み打ちを仕掛けた。


「危ない!プリティ・ラブ!!」


プリティ・ピースは魔力充填の遅さに焦りながら叫んだが、プリティ・ラブは無事なようだ。


彼女は猛獣の牙が襲いかかる寸前、魔法のステッキを右膝の上で半分に折り、2匹の口腔にそれらを挟み込んで食い止める。

戸惑っている右の猛獣Aの頭上に組んだ両手を振り下ろしながら、右脚で下顎を蹴り上げた。折れて尖ったステッキの片端がAの上顎から脳天までを突き抜けると、口の中に身体を滑り込ませて顎を再び開かせる。

Aの口から吹き出した血は猛獣Bの顔面にビシャビシャと飛び散り、視界を妨げた。

慌てて顔を拭おうとするBがステッキの破片で開かされた口を動かせないでいると、プリティ・ラブはAの上顎からステッキのもう一片を引き抜き、Bの喉奥に向かって槍投げのごとく投擲して、Bはバタンと倒れた。


「プリティ・ピース!無事だった?魔力はまだ溜まらないの!?」

「…うん、まあ…あと1分50秒くらいかな……。」


「ええい、もう残りは全員でやってしまえ!」

ディストピアが叫ぶと、後ろで待機していた大量の敵兵たちが次々と姿を変えて走ってくる。


「危ない!プリティ・ラブ!!」


しかし、今度は彼女も苦戦したようだ。

魔法のステッキという鈍器を失ったプリティ・ラブは、30体の敵を全て拳でなぎ倒すのに2分もかかってしまった。



「プリティ・ラブ…。なんかそろそろ撃てそうな雰囲気出てきたけど…。」

プリティ・ピースはステッキの先に集まる魔力の塊で前が見えず、相棒を呼んだ。

キュィィン!という膨大な魔力音のせいでよく分からないが、奥の方で「すいませんでした」とか「もうしません」とか聞こえた気がする。


しばらく待機していると、不意に肩を叩かれた。

隣にはプリティ・ラブが戻ってきていて、ハァハァと息を乱しながら親指を突き立てている。


魔力を解除してみると、怪人ディストピアはヤ◯チャみたいな格好で地面にめり込んでいた。



「『天下に悪は栄えないっ!』」

「え?…あっ、え〜…『愛と平和の名の下に…!』」

「「『そう、二人はラブ&ピース!!!』」」



両手を高く掲げてキメポーズをとったプリティ・ラブは、誇らしげに見えた。

美しい上腕二頭筋をしていた。

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