わたしのXX衝動
翡翠
⠀ ⠀ ⠀
部屋の窓を開けると、
空がすっぽりと
この街で起きている連続殺人事件が、私の生活に及ぼす影響など考えたこともない。ニュースや新聞の見出しを読む程度のものだ。
「今夜も…ここで誰かが殺されてたり…」
そんな漠然とした不安が一瞬、頭を
この町で起きている連続殺人事件は、どれも共通点を持つ。深夜に、ナイフで首を切られ命を奪われる。
被害者、残忍な傷跡、そして犯人の残した小さな手がかりだけが、警察を
暫くして、意識が遠のく感覚に襲われ、気がつけば、暗い別の場所に立っている。
そして通りをゆっくりと確かめるように進む。情景がぼやけ、なぜ歩いているのかも分からない。
街灯のない小道を歩きながら、視界の端に映る、夜道を独り歩く影、背の低い男性。
少し緊張した足取りで歩く。
私の視線がそれを捉えた瞬間、身体が勝手に動き出す。自分が自分ではなくなったような恐ろしい感覚に襲われる。
「見つけた…」
言葉の端々に溢れる笑み。それが、私の存在を、全てを、乗っ取っていく。足音が無音になるようにそっと後を追う。
彼はわたしに気づかない。足取りが急に止まる瞬間を待って、私は刃を持ち手を伸ばし、後ろからその首に掛ける。
その瞬間、彼が震えるのが指先を通してひしひしと触感として残る。恐怖に染まる肉体の拒絶反応が、わたしに幸福を与えた。
命が失われる瞬間に見る絶望が、私の中のもう一人のわたしを歓喜に導く。
彼の体がゆっくりと崩れ落ちていくのを見ながら、私は
気がついた時には、薄明になり、自室に戻っていた。先程の情景が、夢のようにぼんやりとしたまま。
手は鮮やかな血潮に染まる。見知らぬ、いや間違いなくわたしが下した跡。その生々しい匂いが、
「そんなはずは…」
混乱が頭を掻き乱した。私はただの傍観者だったはずだ。殺意など抱くはずもないごく普通の人間。
しかし、今、目の前にある現実が私に真実を告げている。私がやったのだと、もう一人のわたしが告げた。
頭の中に、耳に触れる囁きが響く。それは私の声ではない、わたしの声。
「今夜も会えるよ」
その声に呼応するように、私の口角が、意識とは別の意志で、吊り上がるように微笑んだ。
わたしのXX衝動 翡翠 @hisui_may5
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