魔法少女☆ちおりぃ

千織

北の大地での戦闘

 チオリは直前割を見つけ、じゃ◯んポイントが失効しないようにと急遽H市まで北上することに決めた。新幹線に飛び乗り、バック片手に身軽にゆく。


 最初に辿り着いたのは、新H北斗駅。名前がかっこいい。どれほど都会なのか。立派な駅の二階から外を見た。


 ゆるい山並みが続き、だだっ広い田畑とその向こうに住宅が見える。既視感。小説講座が開かれている街とほぼ同じ光景。致し方ない。致し方ないのだ。


 駅の表側に出てみる。歩いている人はいない。致し方ない。そういうものだ。ふと、奇妙な生物を発見する。


 ”ずーしーほっきー”


 ヤバい! なんかヤバい!


 チオリは「松尾のアニメ」が好きだ。同じ臭いがする。辺りを見回すと、隙間隙間に奴がいる。初めての北の大地の一歩目で心を鷲掴みにされた。


 早速の異形感に浮き足立っていると、ベンチに怪しい背中が見えた。まさか奴か!!


 近づいて見ると、思った以上にでかい。大人が横に座ると、奴の肩くらいまでしかない。そして腹が生々しい。

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https://kakuyomu.jp/users/katokaikou/news/16818093087769145535


 あまりのクオリティに思わず見入ってしまう。


 よく見ると……腹がうっすら動いている。


「貴様!! 生きているな!!」


 チオリは鞄から素早く変身ステッキを取り出した。


『ふはははは。よくわかったな! ワタシはずーしーほっきーになりすました、すーしーほっしー!』


 すーしーほっしー(以降SH)は、ベンチから立ち上がった。やはりでかい。2m50cmはある。


「遠野で鍛えた魔力をなめてると痛い目に遭うわよ!」


 チオリはステッキを振りかざした。


「テ◯マクマヤコン◯クマクマヤコン 魔法少女になーあれ☆ アビラ◯ンケンソワカー!!」


 チオリは紅白歌合戦ばりの衣装早着替えで、ハロウィンから1日遅れの、魔女っ娘☆ロリィタ☆ちおりぃに変身した。設定は早熟な小6である。まだこぶりだが胸もあり、この時点でアマカーには完全勝利をしている。

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https://kakuyomu.jp/users/katokaikou/news/16818093087755176656


「月に代わって折檻よ!!」


『いくらトーヌップ(遠野の元となったアイヌ語)の申し子とは言え、アウェイでは実力を出しきれまい』


「そんなの、やってみなくちゃわからないじゃない! くらえ! ドルチェ&河童ーナ水砲!!」※なぜか函館ではその香水をつけている人が多かった。


 チオリィのステッキから勢いよく水が噴射され、SHの腹の米 (北◯市のブランド米ふっくりん◯) を弾き飛ばしていく。


『米の価格高騰のご時世になんとけしからん攻撃法だ! 覚悟しろ! 秘技!!経験と勘だけが頼りの伝統的漁法”ほっき突き”!!』


 SHの右手が四つの爪に分かれた棒状になり、ちおりぃを一突きする。


「きゃああ!」


 ちおりぃは吹き飛ばされ、近くの郵便ポストに背中を打ちつけた。


「つ、強い! さすが”その大地に生まれた人”の意味をもつホッカイドウの異形! このままじゃ勝てない……!!」


『ふはははは。しばらく遠野を休んで、函館で創作をしたらどうだ? ほら、お前の先輩にもいるじゃないか。函館に骨をうずめた人』


「啄木のことかぁ!!」


 ちおりぃは叫んだ。


『お前も強がらず、函館の素晴らしさに抱かれろ』


「くっ!! 啄木先輩と私は違う!!」


 ちおりぃはまたも技を繰り出すが、SHはすっかり見切っていて軽々とよけた。


『はたらけどはたらけどなほわがくらし楽にならざりぢつと手を見る物価高騰』


 SHはそう言いながら口から毒霧を吐いた。


「ぐふっ!! 腐った魚の臭い!!」


 ちおりぃは片膝をついた。体が痺れ、目が霞んでくる。もうダメだ……。そう思った時だった。


「ちおりぃ! 諦めちゃダメ!」


「ア、アマカー!!」


 そこにいたのはグンマーに向かったはずのアマカーだった。


「あたしに内緒で北上するなんて水くさいじゃない! だからってあたしんちからH市が近いわけじゃないけど」


「うん、全然遠い……。でも、アマカー……私のために来てくれたの……?」


「ネトスカのチカラッ☆ でも変身ステッキは忘れてきたの! だからちおりぃが戦うしかないわ! 思い出して、必殺技を!」


「!! あ、あの技を……。できるかしら……」


「手加減して倒せる相手じゃないわ! 自分を信じて!」


『ふっ。絶壁女が増えたところで啄木の力を宿したワタシに敵うわけあるまい。とどめだ!』


 ふるさとの訛なつかし

 停車場の人ごみの中に

 そを聴きにゆく


『故郷の母を想い、東京での孤独を歌った詩だ。上野駅構内にはこの詩の歌碑がある。地元を離れた者たちの郷愁が詰まったこの詩に勝てるかな?!』


 SHは勝ち誇った笑みを浮かべた。


「……昔々、ある男が二人の童を見た……」


 ちおりぃは語り始めた。


 童ば座敷わらしだったのす。昔から続く旧家から出できたったのよ。その家で草を刈ってらどぎ、白い蛇が出できたんだど。殺しちゃなんねってわがっでらはずなのに、一匹二匹ど出るもんだがら、殺してしまっだらな、それから何十匹も蛇が出できて、殺しても殺してもまだまだわんさか出でくる出てくる。あっという間に蛇の死骸の山がでぎだんだず。


 ちおりぃが軽くステッキを振ると、ぱたぱたと白い紐が落ちる。紐はSHに向かってにょろにょろと動き、徐々に膨らんでいくと、二股、三股に分かれて蛇になっていった。SHの体に巻きつき、腹の米を食い始める。


『や、やめろ! 気持ち悪い!!』


 SHは必死に蛇を振り払う。SHの米は怪しい紫色を放ち始めた。蛇たちは米に含まれていた毒により、口から泡を吹き、ぼたぼたと地面に落ちて体を震わせた。


「……それから、蛇の死骸を埋めだ穴からきのこが生え始めだ……」


 見だこともねきのこだったが、家の者が食べだらばこれがうめきのこで、こったらうめきのこはじめでだつって、食うべ食うべどなっだのよ。最初は食うなど言ってだ者も、一口食べだらうめぇうめぇど、あっという間にきのこ汁をみな平げだ。したらばそれは毒きのこでな、全員死んでしまっだのよ。その屋敷で残ったのは、遊びさ行ってら女童ひとり。主人が死んだと聞いて、色んな人が来て、あれを貸しでら、これはおらのもんだど言って、屋敷の物は全部無ぐなった。童のおはじき一つも残らねがったず。


『うああ! やめろ! 貧乏怖い!!』


 啄木の力を宿したSHは、貧困のトラウマで震え始めた。足元の蛇がきのこに姿を変え、にょきにょきと巨大化していく。


『ひ、ひいいっ!!』


 怯えるSHにきのこが絡みつき口の中に無理矢理入っていく。


「毒をもって毒を制す!! この話のオチは、”占いが得意なアイツでも自分の運命はわからないもんだなぁ”という、教訓じゃないことの怖さを知れ!! ロリィタ座敷わらしポイズンアタック!!」


『うああああ!! ふるさとの山に向かひて言うことなしぃ……!!』


 SHは実体を失い、その魂はきのこに巻かれたまま異界に帰っていった。



「やったねちおりん!!」


 アマカーが歓喜の声をあげた。


「ありがとうアマカー。アマカーのおかげで、必殺技に挑戦することができたよ」


「ちおりんならできると思ってたよ。あーあ、あたしも下着を新調したから、変身したかったなぁ」


 アマカーは変身すると、むねあてとパンティ、ガーターベルトにトレンチコートという性癖丸出し露出狂系魔法少女になる。故にギャラリーがいないところでの戦闘に限定される。


「私も早く遠野に帰って、修行をがんばらなくちゃ」


「それにしても小学生でその乳はなくない? ねえ、なくない? 結果的に大きくなるにせよ、小学生の時くらいは平等であるべきだと思うんだよね。今のあたしより確実にあるよね。なんで? ねえなんで?」


 アマカーはぶつぶつ言っていたが、ちおりぃはアマカーには、絶壁と引き換えに得た魔力の強さを世界平和のために使ってほしいと思っていた。



(完)

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