第4話 祭と災

異世界転移して約3ヶ月がたった。

 この3ヶ月ミナトは時々訪問するクリスの弟ルイから色々なことを知り学んだ。

 まずはこの国の広さだ。広すぎるこのエレモア王国の国土面積は日本より遥かに広い、そこが中央地区、東地区、西地区、南地区、北地区と別れている。主な交通手段は龍車や飛行龍など、地区ごとの移動には特集な転移魔法が施されたエレベーターのようなものがある。ミナトが今いるのは商業の盛んな北地区だ。今ミナトはその地区にある小さな八百屋で働いている。短期バイトのようなものだ。また、他には加護、権能、大権能、神能についても詳しく学んだ。どうやら精霊が深く関わっているようで、加護はまだ名前の無い微精霊が生まれてすぐの赤子に与えてくれるもので、権能は名前を得た精霊が与えるもの。大権能は大精霊と呼ばれる五大精霊が好んだものに与える。神能は天使及び神の地位の者が与える祝福との事だ。ちなみにルイも加護持ちだそうだ。基本加護や権能などの祝福は一人一つまでだそうだ。魔法などについても聞くだけ聞いたが、今の自分には必要ないだろうと詳しくまでは聞かなかった。この三ヶ月はとても平和で目立った事件もなく過ごせた。八百屋の店長はヴァル爺で、たまたま腰を悪くしてるところを助けたのだ。その際にここで働かせて欲しいとおねがしいした。

「いつも悪ぃな。重えぇもん持たせちまってよ。このからだと来たら、たくっ……年はとりたくねぇな。言うこと聞かなくなってく。」

「気にしないでください。俺的にはここで働かせてもらえてることでとても助かっているので。」

「ならいいんだがなぁ…」

「よし!今日はもう店仕舞いだ」

そう言いヴァル爺はどんどんと片付けを始める。

「あれ?まだ昼過ぎですけども……もう閉めるんですか?」

「うん?あぁ知らねぇのか。あれだよ……あぁと…この日は、遥か昔初代剣神様とその仲間が『無神』を倒した。それを祝す日なのさ…だから基本どこの店も昼過ぎには閉めて、祝いの準備さ…」

初代剣神……彼と何か関係はあるのだろうか

「なぁ、今の『剣神』て……」

「あぁ、言っとくが『剣神』は関係ないぞ…そもそも、剣の神能は血筋関係なく前任者が死ぬと突然誰かに宿る。初代と今の『剣神』には血筋も何も無いはずだぞ。」

「そっか…ならあいつの名前は?今の『剣神』の」

 剣神とは名乗っている彼にも名前はあるはずだ。この3ヶ月その名前がとても気になっていた

「名前?剣の神能をさずかった時点で名前はすててるとおもうぞ?だからあいつの名前は『剣神』だ。なんだったら捨てる以前に貰ってないかもな。」

 あいつ名前なんだ……自身の名前が『剣神』なんて違和感しかない。まぁ時間とともになれるのだろうとは思うが

「そうだ!あれだ。ちょうどいいや。ミナトや、祭り行ってこいや。あとの片付けは俺がしとくからよ。場所は中央地区だ。」

「いいんですか?でも…腰は……」

「大丈夫だ。あれだ、もし無理そうだったら片付けは諦めてミナト待つからよ」

 満面の笑みでこちらに親指を立てるヴァル爺の厚意を受け

「じァ行ってきます。」

「おう。楽しんでこいや」

 そう言ってその場を後に中央地区へ向かう。

「すげぇな……まだ着いてないのにこの賑わい……」

 さすが世界最大都市国家。人の数が違う。空には飛竜の塊が中央地区へ向かい、道という道を地竜が走る。そして……

「俺の移動手段である転移魔法は順番待ちしねぇと乗れねぇな…」

地区ごとに約12箇所では魔法陣足りないのではと思う程に大量の人が転移魔法陣に集まっている。

「おぉい!兄貴ー!」

 人の数に悩まされていると聞き馴染みのある声が聞こえてくる。その方向を振り返ると

「お!ルイじゃねぇか!」

 ルイが竜車に乗ってこちらへ向かってきていた

「へへ!俺わかってんぜ?祭り行くんだろ?」

「まさか、迎えに来てくれたのか?」

「そのまさかだぜ兄貴!さぁ早く後ろに乗ってくれや!」

 まさかの展開。飛竜に乗り中央地区へ向かうことに。

「すげぇ!はえぇ!」

「まぁ、うちの飛竜は特別だからな!もうすぐ着くぜ?」

ヒュ〜ぱぁん!

「うお!花火か!?」

「あれは舞扇華ませんかだぜ?桜国おうこくからこの日のために普段は開かない貿易港開いてもらって送ってもらってんだ。綺麗だろ?」

「あぁ、綺麗だ……」

 家族で見た花火を思い出す。懐かし。まさか異世界に来て懐かしさを思うことになるとは。

「さぁ、着いたぜ!」

「すげぇ人多いな!屋台も出てるし!祭りじぁん!祭り!」

「あ、これ姉貴から。これで楽しめってさ。」

「お金まで……俺あの人にそこまでなんかしたっけか…」

道案内から宿紹介さらにはお金まで、ここまでされることに心当たりがなくちょっと怖くなってくる。

「んじゃ行こうぜ兄貴!」

「そうだな。」

賑わう祭り。こういう光景は見ていて心地よいものがある。この時間がいつまでも続けばいいのに。昔もそう思うことがあった。

「あれ!あれ行こうぜ?兄貴!」

 人がわんさか集まっている所を指さすルイ

そこには射的なるものをする人達が

「射的か…いいぜ?」

「おっちゃん頼むわ!」

 銃を受け取り的を狙う。

「あれ?でねぇ……」

「ん?あんちゃん初めてか?魔力こめねぇと弾は出ねぇぞ?」

「魔力を込める……?」

 ここに来て3ヶ月…魔力を使うことなんて一切なかった。そもそも異世界人である自分に魔力があるのか

「兄貴。こうするんだよ!体の中の魔力をイメージして腕を流し銃に送るイメージ!そうすればできっから!」

「イメージして流す……」

 パン!

「うお!?」

 弾がでた。それは自身に魔力があるということになる。

「おぉ!あんちゃん1等だぜ?すげぇな!本日1人目だぜ!」

 カランカランとベルなるものを鳴らし、景品だろうものを持ってくる。

「剣?」

「おう。剣だ!『剣神』様の祝いだからな!ちなみに切れ味は本物だ!なんたって名のある鍛冶師に作らせたからな!」

満足げな表情をするオヤジから剣を受け取る。さすが本剣。普段握ってた竹刀とは重みが違う。ずっしりする。

「まぁ、部屋にでも飾るかな。」

 剣を振ることは無いだろう

「兄貴!俺と勝負しようぜ?三本勝負!」

「ん?いいぜ?ぜってぇ勝つ」

 結果、三-0で負け

 1等はたまたまらしい。いや普通そうか

「………負けた…」

「ま、実力の差ってやつだ!気にすんなって兄貴!」

 年下に慰められることにさらに悲しみを覚える

「まぁいいや。ほかの屋台回ろうぜ。」

 気を取り直し屋台を回る2人

「きゃ!」

 足に何かがぶつかった

「お、ごめんごめん…大丈夫?」

 倒れ込む女の子に手を差し伸べると

「私の……ワシュ……」

 女の子の目線の先は自分の足に

 ふと見ると

 そこには服にベッタリと着いているアイスのようなものが

「あぁ………悪いな。俺の足が君のを食べちゃった…」

 某漫画の一度は言ってみたいセリフ

 まさかここに来て言えるとは

「…………」

 女の子は無言で涙をうかべている。

「これ、あげるから新しいの買うといいよ。自分で買える?」

「お兄さんが買って……」

「だってよ?兄貴」

 さっきまで黙ってたはずのルイがにやけ顔で言ってくるのに対し若干イラッときたが

「じぁ、一緒に行こっか」

「うん。」

 女の子の手を引いて目的の場所へ向かう事に

 その時突然

 ズゥゥゥゥーン

凄い爆発音が都市に響き渡った

「なんだ!?」

 ここら辺で起きた爆発音ではない。一体どこから

「こちら王都放送局。ただいま北地区で大きな爆発が起きました。原因をただいま確認中です。なお、中央地区への被害はまだ見られておりません。国民の皆様はそのまま待機していてください。北地区の方は助けが来るまで待機もしくは逃げれる方は中央地区まで逃げてください。繰り返し……---」

「放送が……」

 ザーーーーーーー

「あぁーあー、こちらえーと?なんだっけ?そうそう魔罪組織『無』の雇われものカルマともうしまぁす。突然ではありますがぁ、組織の命令ですので………北地区を潰させていただきまぁす。いやぁ悪いねぇ。ま、許してくれよな?仕事だからさ。はははは〜!」

魔罪組織『無』この3ヶ月では聞いた事のない名前

「まぁた、変な組織ができたんかぁ?」

青筋を立て腕を組むルイ

「魔罪組織て…なんなんだ?」

「さぁな…俺も初めて聞く名前だ。まぁ他どこぞのチンピラに決まってる。」

 チンピラであればいいのだが。そんなことよりも

「そんなことより、俺北地区行かなきゃならねぇ!」

「はぁ?兄貴、今行くのは得策じァねぇぜ?それにまたいつ爆発してもおかしくねぇ…そもそも兄貴は…」

 ルイの言いたいことは分かる。俺はこの3ヶ月魔力の使い方なんてものは学んでないし戦える力もない。この世界の常識で考えればそんなのは死に急ぎ野郎のやることだ。でも

「でも、俺に親切にしてくれたヴァル爺が北地区にいんだよ!あの爺さん腰悪いから俺が行かなきゃ!もし何かあったら……....!」

 ルイはそれを聞いて少し沈黙したのち

「…わかった。兄貴行ってくれ。俺は立場上ここの人たちをここに留めておかなきゃならねぇ。代わりの人が来たらすぐ向かう。だから…」

 みなまでは言わせない

「あぁ、ぜったいに無事でいるよ!ありがとう。俺のわがまま聞いてもらって……」

 そういい北地区へ駆け出すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

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異端なる貴方に贈る異世界人生~“Beginning and End”~ @harunagie

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