最終話 エピローグ
四月も終わり、明日からはゴールデンウィークという時期だった。
夕方のショッピングセンターは学校や仕事帰りの客でにぎわっていた。
そのショッピングセンターに入っているハンバーガーショップで、高校生の男女が会話をしていた。
高校の制服の紺色のブレザーで、少年は三年生の青色のネクタイ。
もう一人の少女は一年生の赤いリボンをつけていた。
二人は最近のことについて互いのことを話していた。
「もう周りはみんな本格的に受験勉強でさ。なのに俺はこんな時期なのにまだ進路に迷ってる。いい加減に決めなきゃやばいのに」
「そっか。三年生は大変だね」
「進学か就職かまだ迷っててさ。進学なら本格的に受験勉強にしなきゃいけないし」
「えー、誠也なら大学目指せるよ」
誠也、と呼ばれた少年は自分の将来のことについてこう話した。
「でも俺、早く働きたいかも。父さんを母さんのこと支えたいっていうか。妹のこともあったし、ほら、二年前に俺もあんな騒ぎ起こしちゃったからね。だからら早く安心させたい。もう心配かけないようにって」
「そっか。誠也の家も事情あるもんね」
「真夜は部活どうだ?」
真夜、と呼ばれた少女はこう話した。
「そろそろ本格的に練習始まるんだ。新入部員も結構多いみたいだし、忙しくなりそうかな」
「そうか。でもよかったな。高校でやっと本格的に水泳部に入れて。真夜ならきっと大会とかも出れると思うぞ」
「そうかなー。自信ないけど。私にそこまでできるかな」
「大丈夫だって。中学の時もジムで水泳やってたんだろ。きっとそれが水泳部で役に立つぞ」
そんな会話をする高校一年生になった真夜と高校三年生になった誠也がいたのである。
誠也は父方の実家に身を寄せることになり、北海道に引っ越すと町から出て行った。
あれから2年。保護観察処分にてようやくその期間も終わり、無事に元の生活が送れることになり、この春。誠也は家族と共にこの町に戻ってきた。
そしてこの町に戻ってきたものの、以前ここで通っていた高校とは別の高校に転校してきたのである。
今の誠也はあの時よりもさらに背が伸びて、筋肉もつき、立派な大人の男性の体格になった。それでいて美少年というのはさらに成長していわゆる美男子になっていた。
十六歳からの二年後とはこんなにも成長するのだ。
そして真夜もまたあの時よりも背が伸びた。ショートだった髪はあれから伸びで黒髪ストレートの綺麗な髪になっていた。胸も膨らみ、一層女性らしい体つきになった。
引きこもりだったひ弱な身体は水泳により鍛えられた。
「この町に戻ってきてさ、久しぶりに真夜に会ったらすっげー見た目変わっててびっくりした。あの子供だった真夜が立派な女子高生のお姉さんにって」
「子供だったとは何よー。でも、そういう誠也だってあの頃よりもずっとイケメンになったじゃない。私と同じうちの高校の新入生がかっこいいって言ってたよ」
真夜は誠也とは高校入学以前から知り合っており、離れ離れになってもお互いたまに連絡をしていて、誠也がこの町に戻ってくることになり、高校生になって正式な交際を始めた。
高校に入学したばかりの真夜には、すでにイケメンな彼氏がいるというのは周囲から羨ましがられている。
誠也が転校してきた高校は、ちょうど真夜と同じ学校だった。
真夜がそこを選んだのは、その高校には立派な温水プールがあり、一年中水泳部が活動できる活発な学校だったからだ。
水泳部も本格的な活動をする大会出場率も高く、本格的に水泳をやりたい真夜にとってまさにぴったりな学校だった。
「俺も今進路のことで悩んで大変だけどさ、そういう真夜はどうなんだ? 部活は順調か?」
「今は基礎ってところ。でも、うちの学校のプール広いし、練習楽しいよ」
「水泳部って大変だろうし、毎日体力使うだろうな」
「でも、誠也のおかげだよ。おかげで私、やりたいこと見つかったから。水泳をもっとやりたいって思ったし、だから水泳部のある学校に入れてよかった」
高校三年生の誠也にとっては受験か就職か本格的に進路を決めなければならない時期だ。
そして真夜もまたこれからは部活が忙しくなる。
「そうだ、ゴールデンウィークには遊びに行かないか? これからは忙しくなるなら遊べる時には遊んでおかないと」
「また昔みたいに?」
「はは、高校生なんだからあの頃よりもっと行動範囲広がっただろ? なんなら真夜の友達も誘ってさ」
「じゃあ小波にも聞いてみるね」
あれから二年の月日が流れて小波も真夜と同じ高校に入学した。
二年前、中学二年生で小波と仲良くなってから、あれからずっと二人は一緒にいる。
真夜の影響で小波も水泳に興味を持ち、今では同じ部活の仲間だ。今ではすっかり親友だ。
こうして話していると、あの時に行ったのと同じこのハンバーガーショップのこの店でのことを思い出す。
二年前と店内はあまり変わらないが、今の時間帯は同じく学校帰りの学生が自分達のようにおしゃべりで盛り上がってる。自分達もまさに学校帰りの学生だ。
楽しそうに店内でハンバーガーを食べたり友人とトークする学生を見て、真夜はふと思った。
「私達、二年前は死にたいとか考えてたんだよね。嘘みたいだよね、今がこんなに幸せなのに」
「なんだよ突然。そんな黒歴史思い出させるなよ」
二人にとって、二年前のことはあまり思い出したくない記憶もあるが、夏休み前に出会って過ごした時期の思い出もある。
「あの河原にいた時、もしもあの時に誠也に出会わなかったら、私はあそこで終わりだったかもしれないし、生きていても希望もなくんてずっとあのままだっただったのかもね」
あの夏の日々、あそこから真夜の人生は大きく変わった。
もしも誠也に会わなかったら、自分の人生はあそこで終わっていたのかもしれないと。
「俺も真夜に会わなかったらあのまま間違いを起こしたんだろうな」
誠也もまた、真夜に出会ったことで、あの事件は未遂で終わった。
「俺ももう二度とあんなことしたくないな。結局、ただ周りに迷惑かけただけだったし」
もちろん誠也のやったことは許されることではない。あと少しで他人を巻き込む大惨事にもなりかねなかった。
しかし、真夜が止めたことで、そこまでの事態にならずに済んだ。
あれから二年が経って普通の生活に戻ることができた
「でも、あの時の誠也だって、家のこと抱えてて大変だったし。きっと私達、子供だったんだね。でも、それならこれからはちゃんと大人になっていかなきゃ」
過去の失敗はなかったことにはできない。しかし、それにより得たものもある。
人はこうして成長していく。これは生きているからこそその後の人生が続くのだ。
「人生って一度絶望してもやり直せるんだって思った。誠也だってあんなことがあっても、生きてたから罪を償うこともできたし、そこから再スタートだってできた。私もだよ。あのまま学校に行けなかったらと思うけど、生きてたからこそまた立ち上がることができた」
そのおかげで人生の生き甲斐を見つけ、こうして今は水泳部のある高校で充実させている。
あの時に人生が終わらなかったからこそ、切り開けた道だった。
「きっと、俺と真夜が出会うことも運命だったのかもな。俺達が死のうとしてたけど、再び生きるチャンスを与えられたっていうことだ」
誠也も真夜も、互いに出会ったからこそ、あそこから抜け出すことができた。
今こうして生きていられるのもお互いのおかげだったともいえる。
「きっと私達、お互いが生きる為に出会えたんだよ。だからこれからも一緒に思い出たくさん作っていこうね」
「ああ、俺も真夜に出会えてよかった」
生きるとは何か。希望とは何か。絶望に陥った人生からどう立ち上がるか。未来はどう切り開くのか。それは人間においてそれぞれ様々な形がある。
それを見つけていくのも、人が生きるということだろう。
「生きてるって凄いことだよね」
真夜はそう呟いた。
了
あなたと私の七月 雪幡蒼 @yutomoru2
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