怪物的作品、と呼びたくなるダークで熾烈な物語

 とんでもないパワーに満ちた作品でした。読んでいて圧倒されます。

 作品の完成度もさることながら、エピソードの中から滲み出る情念の強さや、『倫理』を踏み越えた先にある人間の業の深さなどが、強烈に読む者の脳を揺らしてきます。

 物語は、人里離れた土地で屋敷に暮らす『私』の一人称で始まります。小説家として成功しているものの、なぜかその土地を離れられず、人に姿を見られることも拒否している主人公。そして彼女の傍では「直視することを避けたくなる『何か』」がいることがほのめかされる。

 この設定だけを見ると、ホラーに詳しい読者ならH・P・ラヴクラフトの『ダンウィッチの怪』を思い出すことでしょう。「ウィルバー・ウェイトリーの双子みたいなのがいるのかな?」と思いながら読み進めさせられます。


 そして、突きつけられます。
 そういう化け物の話だったら、どれだけ平和だったことか、と。


 第二話から語られるストーリーは、目を覆いたくなるほどの残酷さを持ちます。でもその一方で、それを遊戯として楽しむ残酷な兄妹が出現するなど、『メルヘン』のような不思議と寓話的な味わいも醸し出してくれるのです。

 もちろん、この物語はただの嗜虐趣味で終わるようなものではなく、そこから二転三転と思わぬ方向に展開し、読者を常に驚かせてくれます。

 とても緻密に練り込まれた設定と、その先でのひねりの効いた展開。こうした作品を次々と発表する作者様のことを、手放しで称賛したいと思います。


 ……ちなみに、この作品は前作『失われた記憶』と関連を感じさせられる箇所が多々存在しています。どちらから先に読んでも問題はないですが、この作品を読み終えた後は是非とも『失われた記憶』の方も手に取ってみることをオススメします。

 「あ、この物語は前作で語られていた『あのエピソード』のことなのかな」とか「このキャラは、前作のあのキャラと関連があるのかな」と、色々と想像を廻らされるのも、より作品の楽しさを増してくれることは間違いないでしょう。