最後にあなたを少々

春夏秋冬 万花

最後にあなたを少々

 あなたの髪をゆっくりと撫で下ろし、中指が鎖骨に触れる。

「完璧な造形だ……」

 思わず吐息多めの声がこぼれた。

 だって、だって、そのくらい美しいのだ。白く透き通るような人工肌、一つ一つがまるで芸術品のように思える、黄金比の下に作られたボディパーツ、そしてその集合体の全身は息を飲む。見ているだけで惚れ惚れしてしまう、艶やかな黒髪。細部までこだわり抜いて作った顔の繊細なパーツたち。

 今でこそ、その輝きは失われてしまったけれど、最高傑作と呼んで良いほど美しく、あなたの全盛期を再現できた。

 最初はAIに頼ってみたりもしたけれど、全然、全く、これっぽっちもあなたの輝きには及ばなかったのだ。だから本来、得意とする分野からかけ離れたこっちのフィールドに来て、二十年以上の時をかけてあなたの黄金期を追い求め続けた。

 誰か技術のある人間に頼むのも嫌だったし、当然考えられなかった。あなたの美しさ、心の在り方、趣味趣向を理解できる人間なんて、他にいないのだから。

 そして今日、念願のその極地に至った。ここまで来れば、やることはあと一つ。究極的に美しい、あなたの身体にあなた自身を入れることだ。

 ついぞ、AI――ヘルマ何てやつが人間の一生を監視し、評価を下して適性に応じて人生の全てを決める社会に辟易していたが、こういう時に役に立つ訳である。

 言わば全世界の人間の情報――指紋や血液をはじめとする遺伝子情報から声帯、行動や趣味趣向、話し方、クセなど全てをアイツは握っている。そうではないと適性に応じて、人の取るべき方向に口出し何てできない。

 だから、死ぬほど骨は折れたものの、アイツの心臓部へ潜り込み、最愛のあなたのデータを盗み取って来た。元々ハッキングといった分野の方が得意だったし、究極美のあなたを作る過程で十分、アイツの構造を把握して対処策を練る時間があった。

「最後にあなたのエッセンスを少し加えたら完成だ」

 この二十年で電子ドール作りなんていうものが副業どころか、本業と言っても過言ではないくらいの収益を生んでしまったが、ただただ、俺は全盛期のあなたを迎えたかっただけなのだ。

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最後にあなたを少々 春夏秋冬 万花 @hitotose_banka_

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