蓬髪巨躯のサポーター~A級ダンジョン配信者を助けた元最強、バズリ散らかす~
南雲麗
蓬髪巨躯のサポーター
二十一世紀半ば、世界は異世界からのダンジョン襲撃に見舞われた! 地は裂け、ビルは吹き飛び、すべての文明が消滅したかに見えた……だが、人類は死滅していなかった!
***
「……つまりキサマは、Sランクボスに挑みたい。そういうことだな?」
「そういうこと。だけど配信でバレるとカネモチに減点されちゃうから、こっそりやって欲しいのよ」
「よかろう。カメラに映らねばいいのだな」
ここはカサンドラ。ダンジョンに塗れし地球において、数少ない探索都市。
世界のどこかにあるという、カネモチ達による超安全都市・ガンダーラ。ダンジョンに挑む探索者どもは、カネモチからの
「……それにしても、だ。カネモチどもの歓心を買うためとはいえ、その薄布は恥ずかしくないのか?」
「逆よ。ここまでやらないとガンダーラなんて夢のまた夢なのよ」
蓬髪巨躯の男を前に、メリハリボディの娘が笑う。彼女を包むのは薄布が二枚のみ。文明ありし頃、ビキニと言われた水着だ。過激!
「……まあいい。我はガンダーラなどに興味はない。日銭と酒、強敵があればそれで構わん。報酬は」
「日銭と酒。ドロップ品からお気に入りがあればそれも。どう?」
「いいだろう。乗った。昨今は腑抜けた依頼が多かったからな。気合が入る」
「助かるわ。稀代のサポーターに護衛を頼める。光栄ね」
娘が、ただでさえ豊かな胸をさらに張る。およそ常人であれば興奮を隠せぬ光景。されど男は、ただ背を向けるのみ。
「用は済んだか? 我は行くぞ」
「あ、ちょっと!? 連絡手段は?」
「構わん。当該地で待つ。準備が整い次第、来い」
「ちょっとー!?」
男は去る。娘はただ、見送るのみだった。
***
……翌日!
「ヒャッハー! ビキニの探索配信者だぜーっ!」
カサンドラの郊外は、文明の痕跡残る荒野である! その荒野には探索者崩れの
「ちょっと! アタシは『ビキニスタイルのリナ』よ! 知っているならどきなさい!」
「おう、知っているぜ。A級配信者、ガンダーラの覚えもめでたい、過激系だろぉ?」
「俺たちで捕らえて、ダンジョンよりもヒイヒイ言わせてやるぜ!」
下衆! あまりにも下衆! ご覧あれ! これがPKどもだ!
「言ったわね……! これでも喰らいなさい! 炎竜!」
「ヴァオオオゥ!」
「げえ! A級スキル! そんな。ダンジョン以外じゃ、使用禁止では」
「自衛におけるスキルは、例外で許可よ。そんな事も知らないなんて、アンタたち三下未満でしょ。 焼き払いなさい!」
「う、うああああああっっっ!」
炎竜が下衆どもを無惨に焼き払う! 殲滅!
「ふう……。これだからヒャッハーどもは」
リナはつぶやきつつ、目的地――S級ボスの棲まうダンジョンへ向かう。その近くには、いつしかドローンが付き従っていた。やがて、当該地にたどり着く。そこにいたのは。
「想定よりは、だいぶ早かったな」
蓬髪巨躯。リナが、頼みとした男だった。
「当たり前でしょ。準備してきたんだから」
「それもそうか。行くぞ」
「行きましょう」
そういうことになった。
ダンジョンへ入ると、同時にドローンがリナの前面へと回る。配信開始の合図だ。リナがおどけたり、会話を交わしたり、時に過激なポージングをして視聴者――ガンダーラのカネモチどもの気を引く間。男はひたすら雑魚エネミーの掃討に取り組んでいた。無論、雑魚は雑魚にしか過ぎないのだが。弱敵!
そうして一時間も経つ頃。遂に二人は最深部へと到達した。薄暗くも開けた土地に、現れたダンジョンの支配者は――
『よく来たな』
声ではなく、波長が二人へと届く。岩と鉄によって造られし異界の生物――超大型、人間以上の大きさを持つゴーレムだった。それは、巨体にあるまじき俊敏さで距離を詰め――
CRASH!!!
ゴーレムの剛拳が、ダンジョンの大地を砕く。土塊が飛び、大地が爆ぜる。しかしリナは、身軽に飛び退いていた。蓬髪巨躯の男も、同様である。撮影範囲の外で、巧みに巻き添えを回避していた。
『リナちゅわ~~~~ん♥』
『いよっ! 日本一!』
『ナイスバスト! っ投げ銭』
見よ。撮影用ドローンがもう一つの機能を解放した。視聴者――ガンダーラに住むカネモチども――のコメントを、ダンジョンの壁に投影しているのだ。これによりコメントは可視化、反応が生まれる。コミュニケーションだ。
「いくわよ! こんな図体だけデカいボスなんて、なんとでもなるんだから!」
コメントに背中を押されたのか、リナが胸を張って身構える。バストが大きく波打ち、コメントは歓喜。それに気を良くしたのか、彼女は鼻歌のように呪文を唱え――
「風刃! ゴーレムなんて、バラバラにしてやるんだから!」
SLASH! 幾重もの風の刃が、ゴーレムの巨体を縦横無尽に斬り裂いていく! まさに見事な風の舞! これぞA級探索者! コメントも喝采! 投げ銭もこぞって投入される! まさに訪れるは我が世の春!
「アハッ! S級ボスってのは触れ込みだけなのかしら?」
リナは高笑い! 勝利を謳歌!
「……」
しかし視界の外。ゴーレムは再起しつつあった。そもそもゴーレムとは、『核』をもって動くモンスターである。いかに斬り刻もうと、核さえ残れば再起はいくらでも可能だ。そして。
『風の刃、見事。だが死ね』
再起の途中、急ごしらえの拳が動く。その軌道は、リナの頭部――
CRAAAASH!!!
『!!!!!』
コメント勢が、戦慄した。大地が、先刻よりも強く弾けた。打ち下ろしの拳が、大地を大きくえぐる。リナは? その拳を前に、無惨に五体を爆散させてしまったのか? 否! リナは壁際にいた。爆散寸前で蓬髪巨躯の男が掻っ攫い、壁を背に保護せしめていたのだ。
「あ、ありがと……」
リナが、勝ち気な表情を崩して呟く。コメント勢からはブーイング。しかし巨躯の男には関係なかった。彼は娘を壁に押し付けると、そのまま復活せしゴーレムと対峙した。目と思しき空洞は紅く染まり、先刻よりも肉が削ぎ落とされたような図体をしていた。それを見て、男は呟く。
「一の核は裂いていたか。見事」
『あ!? なんだよテメー!』
『リナちゃん見せろ!』
『引っ込め!』
コメントからの罵声が、後を絶たない。しかし男は平然としていた。腰を落とし、ゴーレムと対峙。男は再び、誰に言うでもなく呟いた。
「ハイゴーレムは、二つの核を持つ」
ゴーレムが、迫る。
『そこを退け、男。さもなくば、死を』
波長が届く。されど男は、腰を落として呟いた。
「一の核は浅い。だが、二の核は深い」
『なに言ってだテメー!』
『どけ! もしくは死ね!』
ゴーレムの殺意も、コメントからの暴言も、彼の前には意味を為さない。
「故に、強い一撃でえぐる必要がある」
『死ね!』
ゴーレムが、凄まじい速度で迫る。男は腰を落とした。そして、次の瞬間――
『かっ……』
ゴーレムが、崩れ落ちた。男を飲み込むどころか、ものの一撃で打ち砕かれた。それを成し得た男の手には。
「人間で言う、心臓の位置。されど行うは難し」
炎のように赤い石。恐らくは核があった。
『!???!?!?』
『なにが起きた!?』
『一撃!?』
これにはコメント勢も戦慄を見せた。しかしその中に一つ、異彩があった。
『もしや、この男は』
『知ってるのか、◯電!』
その異彩に、男も動く。ここで初めて、彼はコメントの記されし壁を見た。
『ダンジョン勃興期。むしろその新たな世界と噛み合った者が幾人かいた。その内の一人に。あらゆるモンスターよりも、圧倒的なまでに強かった男がいた。その男の名は』
「タケルだ。藤原武流。久方ぶりに、名乗った」
男は、心底迷惑そうに己が名を告げた。コメントの群れが、盛り上がる。壁一面に文字が流れた。
しかし男は、それらを一瞥たりともしなかった。むしろ興味なさげに、ポツリと呟く。
「ガンダーラになど、興味はない。我が求めるのは酒と、敵だ。持て」
彼はリナに核を渡す。
「ちょっと、これはアンタが」
「構わん、興味がない」
彼はスタスタと、来た道へと向かっていった。
***
数日後。
「何故突っ返しに来た。売れば、ガンダーラへの道程。その十分の一ほどは賄えるぞ」
「アタシの持つべき物じゃないからよ!」
カサンドラの一角に、言い争う声があった。否、怒ってるのは一方のみか。武流のもとを、リナが訪れていたのだ。
「固い娘だ」
「アタシの流儀じゃないのよ!」
「ならば、誰ぞに渡してしまえばいい」
「アンタに突っ返すの! こっちのドロップ品も! アレ以来おちおちダンジョンにも行けやしない! アンタ目当てのコメントが、わんさか湧くのよ!」
リナがまくしたてる。武流は頭を抱えた。迂闊な行動に出たばかりに、若い娘を追い込んでしまったらしい。
「仕方がない。出るぞ」
「え」
「我目当てが居るのだろう? 我が出れば解決する。そういうことだ」
「ちょ、ちょっと! アタシはボスを自力で」
「だがS級には届かない」
「むーっ! だから準備が必要なんだってば!」
蓬髪巨躯のサポーターと、気鋭の探索者。二人の物語は、始まったばかり――
蓬髪巨躯のサポーター~A級ダンジョン配信者を助けた元最強、バズリ散らかす~ 南雲麗 @nagumo_rei
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