第一章 邂逅

惚れ性なのも考えものー①



 それからは色々大変だった。


 教員に、警察に、家族に。


 怒涛の様に詰問されたが、一貫として暴漢に襲われた説を押して押しまくった。


 で、事実となった。


 多少の辻つも合わない私の供述だったが、あのモサイさんも話を合わせてくれたおかげでどうにかなったらしい。サンキューモサイさん。


 しかし、流石金持ち学校。


 平凡で社会的地位の低い人間より、優秀で社会的地位の高い人間を守る為なら手段は選ばないぜ。(少年漫画風)


 まあ表沙汰にしても潰されるのは私の方だったろうしね。結果的に良し。


 あーだこーだと憤慨する家族を宥めつつ、高校2年生の大事なクラス替え直後の貴重な時間を療養に費やした。


 費やす中、姉小路先輩と会ってしんみりしたり、モサイさんに謝られたり、原因となったらしい天條君の家の人が来たり、療養と言う割にはそこそこ大変な療養ライフを送った。



 そして、



「またか…」



 今日も今日とて雑用ですよとほほ。



 溜息を吐きながら本をヨイショと持ち直す。


 あの事件から約1ヶ月ちょっと経って、現在6月上旬。


 何だかんだ傷が化膿したりして入院が延びちゃって、桜の時期はとっくに過ぎ、紫陽花が咲き誇る季節になっていた。


 療養後の久々のクラスは変わってなくてホッとはしたけど、いない間に日直まるまる飛ばしていたせいで、1週間単位で一気に日直の仕事が回ってきましたけどね。


 仕方ないんだけどさ、もう1人の日直どうしたんだよ。クラス替え直後もいなかったけど、事件以降も日直どころかクラスにも来てないとか言ってたし、どういうこっちゃ。



「そう怒らないで唐堂さん」


「でも…」



 くすくすと笑って私の手伝いをしてくれる隣のワンレン美少女は、水城みなしろさん。


 お家は歴史のある名家であり、水城さんはそこのお嬢様。


 楚楚として上品な雰囲気もさることながら、頭も良くって更に面倒見も良いときている。


 しかも個性的クラスを纏め上げる学級委員でもあり、先生からの信頼も厚いスーパー美少女。


 属性盛り過ぎじゃない?1設定ぐらい欲しい、切実に。



「ていうか綴でいいよ」


「本当?じゃあ綴も清維きよいって呼んで?」


「了解、よろしくね清維」


「うんよろしく」



 ふふっと笑う清は笑い方も上品。私ならガハハだな。



「…それにしても今度日直の人にちゃんと言わなきゃ」



 そうそう、ご多忙の清維が手伝わないといけないなんて、私の相方(日直当番)は何しているのかね。


 私の言葉に物事をハッキリと言いそうな清維が、



「んー…そうね」



 妙に口篭った。


 え、そんなにヤバい人なの?



「綴は…あんまり関わったことないんだっけ?」


「?関わりって?」


「ほら、噂とか聞かない?」


「あー噂」



 知ったか振りするが、頭にはハテナマークが沢山。



「気にしないなら言っても大丈夫だと思うけど、もし不安だったら私も一緒に言うから」



 そんなに怖い人なの?ヤのつく人なの?


 適当に返事してしまったせいで、清維はそのまま話を進めていく。



「怖そうに見えるけど噂ほどじゃないのよ」


「へ、へえ…」



 知りませんでしたー!テヘッ!と言いづらくなっちゃったよ。



「家が家だから怖がられることも多いけど、親しい人には優しいところもあるの…」



 清維の白い頬が少しだけ朱を帯びる。


 何となし庇う感じなのは何故…?おや。


 ピーン!と頭の中で何かが閃いた。



「ふんふん優しいところが好きっと」


「そう優しくって、」



 清維のバラバラと持っていた本が廊下に落ちて行く。



「…」


「…」



 ハッとなった清維は慌てて本を拾い上げて「ち、違うわ!幼馴染だからちょっと贔屓目に見ちゃってるだけで…」とワタワタとしている。あら可愛い。



「もう揶揄わないで」


「ふはは!ごめんごめん」



 プンプンしながら一歩先に行く清に慌ててついていく。


 スーパー美少女清維が好きになる男ねえ…。


 まあ同じクラスだから嫌でも会うことあるだろうし、後で他の友達に聞こう。



 そういえば幼馴染か。


 最近話ししたなあ。



『綴可愛い』



 あの日のことを思い出す。


 桜の花びらが室内に舞う中で、赤い着物の少女が佇む。


 キリッと睨みつける薄茶色の瞳、火傷のような跡、赤いビーズ。


 我が儘で可愛いらしい一面と、純粋な振りして心を抉る悪魔な一面。



………結局名前教えてもらえなかったな。


 ちょっとしんみり。



–––けれど。



「清維?」


「…」



 目的の場所である図書室の扉の前に止まる。


 

「なんかあった?」


「え、いや」


「開けづらい?私開けるよ」


「ま、待って綴っ」



 躊躇う清維を置いて、器用に本を持ちながら扉を横に開けた。



–––何かを思い出した瞬間って。



「また、お前か」


「私がやったなんていつ言ったのかしら」


「しらばっくれるなよ」



 出会っちゃうもんですよねー。



 室内の中央。男子数名と、着物の。



「あ、」


「あ」



 私と黒髪がふわりと揺れた。あの周辺きっといい匂いがする。変態か、私は。



「へ、と」


「綴!」



 間抜けな声とともに着物の少女が爆走してこっちに来る。


 でも、



「きゃ」


「ちょっと!」



 着物の少女が床につまづきかける。慌てて本を投げ出して、彼女を受け止めた。



 あ、いい匂い。



「だ、大丈夫」


「うん大丈夫。ありがとう、綴」



 160ピッタリの私に対し、ギリ150センチあるかないかの着物の少女が凭れてくる。


 長い黒髪を左右に分けた彼女は、私を見上げて微笑んだ。



 ドッキューン!バッキューン!ドドーン!と心臓ががなる。



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過つは彼の性、許すは我の心 五色ゆうり @291_cae

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