第4話 エレの策略
エレの傷だらけの身体を、僕は、抱きしめた。
魔法の私用になる。だけど、癒してあげたかったんだ。
これで、心にできた傷も、癒せれば良いのに。魔法は、そういう事できないんだ。
ほんと、世界って意地悪だよね。
「ちゅきなの」
「うん。僕も好きだよ。愛してる」
「エレ、じゅっと、ちゅきでいるからね?」
「……今、君が、僕に結婚とか言えば、僕は、良いって答えるよ?」
「弱みにちゅけこむなんてしないの。エレは、まっちょうめんから、フォルにちゅきで、結婚したいっていわちゅんだから」
そうして欲しかったのに。けど、この子は特に、僕がそうして逃げる事を嫌う。僕が、後悔して欲しくないと言って。
そういうとこが、好きなんだけどね。
「……」
「ふみゃ⁉︎」
やられたらやり返しておかないと。エレは調子に乗りやすい子だから。
って事で、流したての、エレの首筋にちゅっと、キスを。
「ふぇふぇふぇ」
なんか絵面がまずいな。これ、僕が、幼女を……違うから。エレは、成人してるから。
「いつか、僕の初めてを全て君にあげるよ」
「ふみゅぅぅぅぅぅ‼︎⁉︎」
「あっ……やりすぎたか」
エレがのぼせた。流石に、耳元で囁くのはやりすぎだったかな。
先にエレを上らせて
「一緒にいるの。こっちで座ってるの」
「分かった。エレ、これで少しは理解できた?男に軽々しくこんな事しちゃだめだって」
「性別ないくせに」
負け惜しみみたいにエレが言ってる。それは否定しないけど。実際、黄金系の神獣って、性別なくてさ。どっちよりの体つきになるとかはあるけど、そういう器官はないんだ。
僕みたいに、ここまで中性的なのは逆に珍しいらしい。僕の兄達は百七十センチ越えだし、幼馴染の男の黄金蝶も。それに、主様は微妙だけど、体つきもがっしりしていて、僕は、頑張って筋肉つけようとしてもなにも変わんなかったのに。
「……フォル、可愛い?」
何この可愛い生き物。僕が身体を洗っていると、泡で遊び始めてる。しかも、どうやったか知らないけど、泡で身体を包んでる。
「エレ、それ他の男に見せちゃだめだよ?」
「……ふみゅ」
あれ?おかしいな。前にこの手の事で可愛いって言った時よりも喜んでるんだけど。
「……お背中洗うの」
「ありがと」
こういう時はやらせるに限るんだ。やらせないと拗ねて、最悪口聞かなくなるから。
「ふみゅふみゅ。ぎゅぅってちゅるの。それでちゅって」
「石鹸つくからだめだよ。やるなら流してからにしないと」
「……フォル。わざと言ってる?」
「さっきのは流石に大人気なかったからね。そのお詫び」
「さいちょのちぇかいで考えれば、おないどち……神獣って成長おちょいんだった。多分、おないどち?」
それ絶対違うやつでしょ。明らかに僕が年上だったと気づいてたよね。
まぁ、実際そうなんだけど。この子と一緒にいると、ぼんやりではあるけど色々思い出せる。
この子とほんとに初めて会った時、この子はまだ……エレって、魔力に囚われて時間なんてないって言って……
「多分、同じくらいかと」
うん。認めたくない。けど、多分そうなんだよね。この子と僕は、そう変わりない。
「エレ、あの時から、ちゅきなの。いけにえっておとちゃれて、暗い暗いばちょでちゅごちてた時、フォルが、側にいてくれたから」
「そっか。そうだったんだね。ぼんやりだけど、あの時、ずっと、君の手を握っていた。離れてしまわないようにって」
「うん。ちなみに、ゼロは同じばちょで育ったの。ちっちゃい時から、エレを守ってくれたの。エレの血は俺だけのとか、動機がふじゅぅだったけど」
ぶれないなあの子。まさか、最初から、エレの血が目当てだったとは。
聖月は、吸血種なんだ。恐らく、エレは、聖月に襲わそうになるのが日常茶飯事だっただろう。
「あそこから出れたあと、ゼロにちょー怒られたの。心配かけんなって。エレの、心配ちてくれたの、ゼロだけだったんだ。この見た目で、みんな、エレをおちょれてたから」
「……」
「身体ながちぇたから、ちゅってちて良いの」
「どこが良い?背中を洗ってくれた礼だ。どこでも好きなとこを選ぶと良い」
……そうきたか。
「てくてくてく」とか声に出して、前に回ったと思うと、まさかの抱っこ要請。
抱っこしてあげると、首筋にキスをしてから、頬擦り。ご機嫌のご様子。
「エレ、君って成人の儀はどうしたの?」
「フォルと一緒にちろって言われた。ちゅいでに、結婚式もとか、ギューにぃが」
成人の儀。ここでは、まず、家族と盃を交わす。お酒じゃなくても良い。飲めない子もいるから。
それから、数日間に渡って本格的に儀式を始めるんだ。最低でも十日間かかる、僕らの聖地のどこかにある水を持って帰る。その水を使って、魔法を使う。
「成人の儀をやらないと、結婚できないから、主様に頼むか。今ならやれそうだし」
僕がやってないのは、面倒だからとかじゃなくて、暇がなかったんだ。
成人の儀を受けられる年齢になる前から、ギュゼルとして働いていたから。
「ふみゅ⁉︎そ、そんな事が⁉︎」
「うん。って、髪びしょ濡れじゃん」
もう成人の儀を余裕で行える歳だというのに。ほんとに手のかかる子。
「ぷるぷるちゅれば乾くの」
「乾かないから。大人しく拭かれてな」
「みゅ」
「……エレ、ずっと気になってたんだけど、君って、いまだにまともに喋れないの?」
「……ちらない。このちゅがたになったら、こうなったなんて、ちらない。ゼロはふちゅうにおはなちできるのにとかちらない」
魔法で姿を固定していて、そうなるっけか?
「……ねむねむも一緒」
「デューゼが帰ってこないって心配するよ?」
「……共犯なの。ゼロねかちちゅけてもらって、エレだけ来たの」
わぁ、エレってこういう事思いつくんだぁ。って、これ絶対、デューゼの入れ知恵だ。あの巨体、僕の可愛いエレに余計な事を
「フォルって、時々顔にでるよね。今、デューゼにぃに怒ってる」
「ん?なんの事?」
「……エレは、フォルの匂いの近くでねむねむできれば良いの」
させてあげるよ。存分にね。もし、逃げようとしても、今日はもう、逃す気失せちゃったから。
だから、エレも逃げないでね。とは、言えないけど。
「お洋服可愛い?」
「可愛いよ」
「さっき、悪い顔ちてたの」
「……」
「でもでも、そういうフォルもちゅきだよ?」
「僕が、君のいやがりそうな事しても?」
戸惑う姿が見たかったのに。なんの迷いもなく、こくこくと頷いたよ。
「……フォルの方こそ、どんなエレでもちゅきでいてくれるの?」
「そんなの当たり前だよ」
「エレが、あのいっちゅもエレ達を邪魔する管理システム以上の処理能力をもちゅ魔法具ちゅくったとちても?」
管理システムとは、僕らの祖である黄金鳥が作った伝説上の魔法機械。実際存在してるんだけど、知られてないんだ。
知ってるのは、ごく一部。
それを超える処理能力を持つ魔法具や魔法機械の製作は不可能と言われてるんだ。
「……作ったの?」
意図しないとこで戸惑う姿を見れたよ。あわわわわと戸惑う姿が可愛い。
やってる事に目を向けなければだけど。
「エレ」
「あわわ」
「作ったんだね?」
「あわわ」
もう、肯定してるんだよ。この反応は。隠せると思ってるんだろうか。
「そんなの作れるわけないか。試しで行ったんだよね」
「……ふぅ。ばれなかったの」
自分で墓穴掘ってるのに気づいてない。エレって、なんでも話しそうで、時々心配になる。
「なんのためにそんな処理能力の魔法具なんか作ったの?」
「エレのおてちゅだい」
エレは生まれつき、処理能力が著しく低い。だから、それを補う方法を考えるのは良いけど、そこまでやる必要性ってあるのか。それは、疑問だ。
「君ってほっとくと、悪い人に攫われそうだよ」
「フォルがいるから、そんな事ないの」
もう少し危機感を持て。なんて言っても意味ないだろうね。成長すれば、物事を覚えて、そういう危機感が身につくなんて淡い期待、この子にしても裏切られるだけだ。
昔からずっと。
赤の姫で危険な目に遭ってながら、見た事ない魔法具を触る癖は治んなかったし。
えっと、赤の姫は攻撃型魔法具と言えば良いのかな。かなり危険な魔法具で、エレとゼロは、うっかり起動して、命を狙われた。
あの時は、号泣して……これ以上はやめよっか。
「だからって、怪しい人について行っちゃだめだよ。魔法具だって、便利なだけじゃないから。赤の姫の事だってあっただろ。魔法具は危険で魅惑的なものなんだ」
治らない。効果ない。さっき言っていたのは、一つだけ大前提があるんだ。それは、僕の前である事らしい。
ゼロに聞くと、エレは、赤の姫の件の後、魔法具を警戒するようになったらしいから。
「エレとゼロがフォルに求婚した時なの。あの時はすごくちゅきって思ったの」
結婚とか言うんだから、覚えてるに決まってるか。
「もう寝る時間だから寝な」
「むにゅぅ。ちゅごうが悪いと、そうやって。ねむねむだから良いけど」
なにも知らないようで、色々と知っている。ほんとに厄介だよ。
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