第3話 二人を想う


「ほんとに良いの?ここ高いよ?」


 エレは、僕が泣いた後から、警戒はしていたけど、なんていうか、僕を守らないとって思ったらしくて。普通に街を歩けるようになったんだ。


 それで、遊び歩いた後、デューゼが、高級宿をとってくれて、今はそこにいる。


「主様からお詫びだと。この状況、知らなかったようでな」


 主様から……後で連絡しとくか。家具の手配もあるし。


「それと、たまには遊びにこいと」

「それはめなの!」

「主様に会うの嫌か?」

「おちごといちょがちいから」


 そういえば、気にしてなかったけど、エレはまだ滑舌悪いみたい。


 エレは発育が遅くて。でも、そこが可愛くて、あえてなにも教えないという教育をしてきたのだけど。


「……じぃー」

「どうしたの?」

「エレ、フォルの制服期待ちてた」

「……あー、うん。あったねー。そんなの」


 言い訳して良いかな。着るのが面倒だったわけじゃないんだ。

 制服って、注文しないとなんだよ。辺境に異動になってから、それが原因で着てなかったんだ。フュリーナは律儀に注文していたけど。


「双子宮なら都に近いから、今度注文するよ」

「……じぃー」

「……すいませんでした」


 こういうのは謝るが勝ちだよ。密告されて、始末書を書かされる前に。


「……第五研究所」

「そこって、君らがいた」

「あそこいた時も来てなかっただろ!」

「それは、主様の影として働いていただけだから。今みたいに、このシステム内で働いてなかったから」

「言い訳きんちなのー!」


 なんで制服姿に興味あるの。


「都にいるなら、制服はあちたにでも買えるの」

「買えないぞ」

「とくちゅな素材ちゅかってちゅくってても、しゅぐにわたちぇるようにあるはじゅなの」


 詳しいね。僕らの制服は、エレの言う通り特殊な素材でできてるんだ。


「女性用ならあるな」

「……デューゼだって、特注しないとないんじゃないの?そんな巨体を扱っているとは聞かないから」

「……ブラックフォル」


 なんか変な名前ついてる。


 そうなんだ。僕の制服は、サイズがなくて。だから、いつも注文してもすぐには届かない。


 ……ここの平均身長って、百七十くらいなんだ。


「フュリーナよりも低いから、女性用でも良いんじゃぁ……」

「……(にこっ)」

「……」


 やめたからなのもしないでおこう。もし、このまま続けていたら、デューゼの弟に、秘密でもばらしてあげようかなとか考えてたけど。


「フォルって、普通に性格悪いよな」

「自覚はあるよ。基本僕の兄全員そうだから」

「エルグにぃ……そうだな」

「みゅ?エルグにぃは優しいよ?」


 ほんと純粋すぎ。


「……デューゼにぃ」

「おっ、どうした?エレ嬢」

「フォルの従兄だから、ちつもんでちゅ」

「なんだ?なんでも答えてやろう」


 デューゼって、子供は苦手って言ってたんだけど。エレとゼロは可愛がるよ。


 ……なんかもやもやする。


「どうちたら、フォルが結婚ちてくれる気になるんでちゅか?」

「しれはな、契約書を書かせるのと同じ手法だ」

「その手があったか。出さないにしても、それを使って」


 教育まともに受けていないのに、どこでこんなずる賢くなったかと思えば、人から得た知識か。


 あの花、少し、お仕置きが必要かもしれないね。


 エレは、花を通して世界の様々なとこを視る事ができるんだ。その悪用がこれだよ。世界を見て、それでこんな知らなくて良い知識ばかりついて。


「契約書?なぁに?」


 前言撤回。エレは純粋。一緒に視ているはずなのに、こうも知識に偏りが出るとは。


「契約書っていうのは」

「デューゼ、余計な事教えないで。ルノに、賭け事して大負けした事バラすよ」

「なんで知ってん……主様か」

「残念。けど、惜しいね。僕は、主様と同等の権利を持っているから。主様以外は見れない資料だって、見る事ができるんだ」


 少し、ギュリエンと神獣の事を説明しようか。


 神獣は、幾つもの組織に分かれてる。その中でも、最も古くからあり、全ての神獣の情報を見る事ができる特殊な家系が存在するんだ。全て見る事ができるのは、本家だけだけど。


 ギュリエンは、その、本家の当主を主にした組織のための国。


 主様は、王みたいなもので、その下で働くのが僕ら。


 それで、ここからは、ベレンジェアと、双子姫、それに、その本家以外は知らない事。


 僕は、主様と同等の権限を与えられている。主様不在の際は、代理を務める事になっている。主様の影だ。


 そして、もう一人。ううん、一組というべきか。主様同等の権限を与えられている。それは


「もう一個ちつもんでちゅ。主様権限で、結婚できまちぇんか?」

「できませんか?」


 この二人、エレとゼロだ。


 エレは、神獣と同等の歴史を持つ、聖星の純潔。

 ゼロは、同じく神獣と同等の歴史を持つ、聖月の純潔。


 この二人は、主様同等の権限を与えられている。


 なぜかって?それは、エレとゼロは、僕と契約をしているから。


 転生後に結婚していないから、契約だけが残ってる状態だけど。


「そんなにして欲しいならさ、少しくらい、僕をその気にさせるような事をしてみれば?」


 そんな事しなくても、そのうちしてあげるんだけど。でも、そう言ったら、可愛い事してくれるかもしれないから。


「ちゅき」

「好き」

「そんなんじゃときめかないよ。聞き慣れてるし」

「……ふぇぇぇぇん」

「えっ、なんで泣くの⁉︎」

「自分より魅力的な人に奪われるかもって思った」


 ゼロが説明してくれる。こういう時のゼロはほんとに助かるよ。


「それはないよ、エレ。僕は、君ら二人しか興味ないから」

「……」

「エレは成長しても、胸が成長しないから、胸が大きい魅力的な人いれば分からないと言ってる」

「この可愛さに勝つものがあるとでも?」

「それは分かる。俺の妹の可愛さに勝るものなんてどこにもねぇからな」


 ゼロ、普通は妹にそんな事しないんだよ。さっきから、ずっと、触りたい放題してるけど。


「……」

「エレ、おりこう、ちゃんと、待て、ちゅるの」


 ああ、この子は、僕にその覚悟がないから。この子を、御巫にする覚悟が。


「待ちゅの」


 こんなに、僕を想う子を、いつまでも待たせるんだ。いつまで、はぐらかすつもりなんだ。


 僕は、いつまで、二人に期待ばかりさせるんだ。


 十年以上、この子らは、僕だけを待ってくれたのに。


「……でもね、おりこう違うから、大人しく待てないの」

「……っ⁉︎」


 今までずっと、こんなに積極的になれるなんて思ってなかった。

 こんなふうに、誰かに自分の唇が奪われるなんて思ってなかった。この子ら以外は、ここまで近づかせなかったから。


 僕、今どんな顔をしてるんだろう。顔が熱い。


「……ふぇ」


 なんで、やった方が、こんな顔を真っ赤にしてるんだよ。真っ赤な顔で、僕の事を見つめて、なにがしたいわけ?


「……デューゼにぃ、え、エレ、デューゼにぃと、一緒にねむねむちゅるの」

「ゼロはどうするんだ?」

「……」


 ああああああああぁ。ほんとなんなの⁉︎今日のこの二人は!


 ゼロが、僕の頬にキスをして、デューゼの方に行った。顔真っ赤にして。


 なにがしたいんだよ!十年以上、ほっといたのは、悪かったけどさぁ。


「……」


 しかも、二人とも、デューゼについてくし。一人にしないでよ。

 こんな事しておいて。


「……」


 落ち着けるように、主様に連絡するか。


『どうした?異動願いか?』

「違うよ。双子宮の現状について報告」


 僕は、双子宮の状態を主様に話した。


『分かった。家具はカタログを送る。選んだらまた連絡を』

「……あとさ、指輪を三つ欲しいんだ」

『とうとう決めたか?』

「エレとゼロが失くして落ち込んでたからってだけだよ!」

『……何かあったのか?顔真っ赤にして』

「〜〜〜っ。もう切るから!」


 記憶の事とか、聞きたい事はあったけど、一方的に通話を切った。


 全然落ち着かない。風呂でも……えっ?


「……お風呂だけ、一緒に入りたいの」


 エレ一人で、来たんだけど。


「ゼロは?」

「ひみちゅなの」

「良いの?勝手にいなくなって」

「ゼロは気にちてないの」

「……そう。僕もちょうど入ろうと思ってたし」


 なんでこんなタイミングで⁉︎落ち着こうと思ってたのに!


「……むぅ。エレの初めての意味あるちゅぅなのに」

「平然としてないから!平気なわけないから!意中の相手にあんな事されて平気な男なんていないから!」

「……フォル?だいじょぉぶ?エレ的にはうれちいけど。ゼロが」

「ゼロは別口。君とゼロはセット」


 エレが一番厄介だよ。この子といると、振り回されてばかりなんだ。


「……お洋服脱いだの」

「……傷、まだ治って……これ」


 新しい。また……


 いくら転生しているとは言っても、人格形成に大事な年齢はあるんだ。その時が原因で、この子は何かあると、自分で自分を傷つけるようになった。


 そのトラウマを、乗り越える事は簡単じゃない。僕だって、できていないから。


 でも、傷ついて欲しくない。そう思う事はだめじゃないよね?


「……エレ、やっぱり、一人で」

「だめだよ。一緒に入るんだ」


 皮肉な事に、僕を落ち着かせたのは、その傷だった。

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