ハロウィンに何やってんの?
家猫のノラ
第1話
今年のハロウィンは、コスプレイヤーさんたちも暖かくて楽だろうな、そう思っていた。
つい今朝までは。
「クッソ。なんでこんな寒いんだよ」
昨日の夜は流石にエアコンは切っていたが、半袖短パンで寝た。最悪だ。寒気が止まらない。体温を測ると、案の定38.0もある。無遅刻無欠席だったのに、悔しさを噛みしめながら、俺は眠った。日めくりカレンダーには10月30日と書かれている。
風邪を引いた時は寝るに限るというのが俺の信条だ。布団にくるまり、ひたすら眠る、泥のように眠る。何度か起きてポカリを飲み、その度に少しづつ回復しているのが分かった。スマホは最初のうち通知が来ていたが、何にしたって返信できる体調ではなかったので無視してしまった。一人のクラスメイトのことを思い浮かべて、彼女のわけなどないし、こんな杞憂は傲慢だが、彼女じゃなければいいなと思う。彼女だったら、すごく嬉しくて、申し訳ない。それもいつの間にか止んだ。
次の日、俺は完全に回復していた。やはり風邪は寝て直すものだ。たった一日だけだが、なんとなくなつかしい感じになってしまう制服に袖を通し、こんなに重かったっけと思いながらリュックサックを背負った。そしてスマホ。が、なかった。いつも挿している充電コードの先にスマホがないのだ。スマホは机とベッドの間の隙間に落ちていた。そして充電は切れている。最悪だ。俺はしかたなくスマホを置いていくことにする。
『…も始まり、やっと秋らしい気温になったと言えるでしょうか…』
朝はゆっくり観れないからこのお姉さんが夜にやる一週間天気予報、毎日やってくれないかな、いつものようにそう思いながら家を飛び出した。
「おはよう」
なんとなく休んだ次の日の学校というのは緊張してしまう。少しだけぎこちなく俺はクラスメイトたちに声をかけた。
「あぁ、
なんだろう。クラスメイトもどこかそわそわとしている感じがする。俺が休んでいる昨日の間に何かあったのだろうか。直接聞いて、はぐらかされたら怖いなと、勇気が出ずに聞くことが出来なかった。
昼休みにはもともと予定されていたように、みんながお菓子を持ち寄ってのハロウィンパーティーが始まった。そう、このために何がなんでも風邪を治したかったんだ。俺はポテチをパーティー開けした。
高校生らしい催しでワクワクしてしまう。クラスメイト全員がお菓子を囲みながら喋り、写真を撮り、笑っている。しかしやはりどこか浮ついているのだ。それはまぁテンションの上がるものだからいつもと違うのは分かるがそうではない。みんな別のことを考える瞬間があるような。とても繊細に息をしているような空気。
「てゆーか流石に開けすぎたか」
俺は机の上に散乱したお菓子を見て、とてもお昼休憩だけで食べられる量ではないなと思った。
「他のクラスのやつらも呼ぶ?」
「「「ダメ!!」」」
俺のちょっとした提案は、クラスメイトのほぼ全員に、問答無用で却下された。クラスメイトたちは、すごく慌てている感じで、そう言った後は口元を抑えて気まずそうに俯いた。そして無理矢理にでもお菓子を食べきってやると口に詰め込んだ。
やっぱり、何かあるんだ。俺は、疑問と不安を抱えながら、ポテチを食べる。
一番大きな声を出した
ハロウィンとはいえ授業はいつもと変わらない、変な被り物や正解者にお菓子、ぐらいは期待したものなのだが。寝すぎたせいで体内時計がそうとう狂っている。あくびを噛み殺しながら、6限を耐え抜き、放課だ。月曜日から水曜部までは7限だが、木曜日と金曜日は6限だから楽で助かる。
俺は図書館に向かい、昨日までが期限の本を返した。司書の先生に一言詫びを入れると「返却期限は一週間よ」と言われてしまった。昨日は休んでいたんです、と言い訳したくなったが、見苦しいかと止めた。そして、漫画コーナーに新しく入って来た単行本をチェックして、読み漁っているうちに、うとうととしてきてしまった。居眠りしつつ、結局図書館を出たのは最終下校時間だった。
下駄箱から靴を出し、かかとをひっかけて、日の暮れた外を見る。10月の終わりともなるとすっかり秋だな。本当に気を付けないと。
「わっ!!」
「わぁぁあ!?!?」
昇降口から出ると、突然女子生徒が飛び出して驚かせてきた。板倉さんだ。
板倉さんは長めのポニーテールを揺らしていた。赤いネイルはハロウィン仕様なのだろうか、何にしたって似合っている。鼻先も赤い、きっと寒さのせいだ。
「驚いてやんの」
「油断した」
昨日の風邪と同じように、全くの油断だった。照れ隠しが、バレていないといいなと思いながら、後頭部の髪をいじった。
「板倉さんは、部活?」
「ううん、雨で足止め食らってたの」
彼女は空を指した。確かに小雨が降っていた。頬も赤い、きっと寒さのせいだ。
「今日、朝めちゃくちゃ晴れてたじゃん。だから傘いらないかなって思ったの」
「あ、俺持ってるよ」
「え、ホント!!用意いいなぁ」
「俺一週間の天気予報はちゃんと見るからさ」
俺は傘を取り出した。彼女は、その傘を奪っていった。そして昇降口の軒下から一歩出たところでさし、その下でいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「あめ!!」
「そうだよ、降ってるから。傘、返してよ」
後頭部の髪をいじる。俺も赤い。きっと寒さのせいだ。これから、人肌の恋しくなる季節だ。
「ハッピーハロウィン」
彼女は制服のポケットから、チュッパチャップスのコーラ味を取り出して、こちらに手を伸ばした。
「ふっちゃやだよ」
家に帰ると、充電器に挿しておいたスマホに通知が溜まっている。やはり、彼女、板倉さんだったのか。
自室の日めくりカレンダーが破られていた。
二枚の紙が、ゴミ箱の中に捨てられている。
ハロウィンに何やってんの? 家猫のノラ @ienekononora0116
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます