第22話「嫌いではないのだが」
「……すまない、少し強引だったか」
「え……」
言葉に詰まるステラに、ノックスは寂しげな笑みを浮かべて体を少し離した。
答えの出せない自分を気遣ってくれたのだろう。ステラはその優しさに、ギュッと胸を締め付けられた。
ノックスは悪くない。気持ちが中途半端なまま彼と婚約を結んでしまった自分だ。
ステラは距離を取ろうとするノックスの腕を掴んだ。
「い、嫌なとこはない! 本気で嫌だと思ってたら払い除けることくらいはできます!」
「ステラ……」
「俺はこんな見た目だけどちゃんと男だし、それなりに鍛えてるし、今みたいに迫られても思い切り突き飛ばせるし、貴方が王子だからって遠慮してるとかはないです! た、ただ……」
「ただ?」
「……俺にとって、貴方は憧れというか……そういう気持ちが強いから、いきなり恋愛感情にシフトできてないというか……」
「憧れ……? 君が、俺に?」
キョトンとした顔をするノックスに、ステラは恥ずかしそうに小さく頷いた。
「そ、そうですよ。ずっと、ずっと前から……俺は貴方のこと、好きなんですよ。でも、それはあくまで憧れで、貴方のようになりたいと思っていたというか……」
前世の自分が好きだったキャラクター。
誠実で、自分の心に迷いのない生き方に強く憧れを抱いた。それを本人に言うのは恥ずかしく、ステラが知るはずのないことまで話してしまいそうで、憧れという言葉に気持ちを詰めるしかできない。
「と、とにかく……嫌いとかそういうマイナスな感情は持っていないということだけは分かってほしい、です」
「……ステラ」
「た、ただ! 結婚となるとまた別というか……気持ちの整理というか、俺は貴族ではあるけど堅苦しいのは苦手だし、王族になる覚悟とかそういうのもすぐには出来ないし!」
「……そうか。そこまで考えてくれているんだな」
ノックスはクスッと笑みを零し、ステラの肩をそっと抱きしめた。
本気で自分との未来を考えているからこそ、悩んでいる。それが分かっただけで、今は十分だ。
「俺は王位を継ぐことはないが、王国の騎士だ。そう簡単に投げ出せるものではない。確かに俺と結婚することで君に余計な重圧を掛けてしまうこともあるだろう」
「……はい」
「だが、君の自由を奪う気はない。それだけは約束する。君の夢も当然応援するよ」
「あ、ありがとうございます……」
「だから、前向きに考えてくれると嬉しい。今回はステラが俺に憧れていたということが聞けただけで満足だよ」
いつも一方的に気持ちをぶつけてくるノックスだが、それを嫌だと感じたことはない。むしろちゃんと答えを出せずに中途半端な対応をしている自分自身の方に嫌気がするくらいだ。
ステラは真っ直ぐ見つめる彼の瞳に、きゅっと胸を締め付けられる。
いつか彼の気持ちに、素直に応えられる日が来るのだろうか。
【BL】男ですが乙女ゲームの世界に転生したら美少年になっていたので女装していたら王子様に求婚されました。 のがみさんちのはろさん @nogamin150
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