第21話「恥ずかしくて言いにくいんだが」




 それから元の世界の話で盛り上がっているところでジェイクが迎えに来たので、ステラは今度は屋敷に招待すると約束した。

 この世界に来て初めて好きな漫画やアニメの話が出来たことに大満足したステラは満面の笑みで帰宅すると、玄関の扉を開けてすぐにノックスが立っていた。


「へ」

「おかえり、ステラ。遅くなると聞いたから待たせてもらったよ」

「き、今日来られるとは聞いてなかったのですが」

「ああ、少し時間が空いたから顔が見たいと思ってね。それより、何か良いことでもあったのかな?」


 話しながら客間に案内し、ノックスは二人掛けのソファに腰を下ろした。ステラは向かいの椅子に座ろうとしたが、ノックスがポンポンと叩いて隣に座るように無言で促す。

 恥ずかしいが、笑顔で待っているノックスの期待を裏切るのも心が痛む。ステラは少しだけ距離を置いて隣に座ったが、秒でその距離を詰められてしまった。


「てゆうか、俺まだ着替えてないんだけど」

「もう少しその格好の君を見ていたいんだけど駄目か?」

「制服好きなんですか」

「だってもうすぐで卒業だろう? 俺はまだ制服姿の君をちゃんと見ていないんだ。今のうちに目に焼き付けておきたいじゃないか」

「確かに制服姿の俺は可愛いけど……」


 当たり前のように言うステラにノックスはクスッと小さく笑みを零し、肩を抱き寄せた。

 あまりにも自然な動作にステラは一瞬気付かなかった。今までで一番距離が近い。ノックスの体温を感じられる距離に、顔が一気に熱くなるのが分かる。


「それで? 今日は何があったんだ?」

「え? ああ、実は本屋で知り合ったことメッチャ話が盛り上がってさ」


 異世界から来たことや聖女だということは伏せて、好きな作家と知り合えたということにして話した。


「俺、あんなに話が盛り上がったの初めてでさぁ。いやぁ楽しかったなぁ」

「……そうか」

「俺さ、こんなだからあんま友達いなくてさ、特に女友達なんて出来たことなかったから嬉しかったー」

「ステラ」

「結構昔の作品とかも知ってる子だったから余計に盛り上がっちゃって、時間があったらいくらでも話が出来たのになぁ」

「ステラ」


 強めの口調で名前を呼ばれ、ステラはハッと我に返った。

 変なことは言っていないはず。そう思いながらノックスの顔を見ると、何やら面白くないという表情をしていた。


「君の交友関係に口を出すつもりはないが、そんなに楽しそうに話されると妬けてしまう」

「え、あ、あー」

「それに俺は、プロポーズは受けてもらえたが君の気持ちを聞いてはいない」

「お、おーん」

「無理強いはしたくない。しかし俺だって不安なる。もしかして俺が王子だから仕方なく受けてくれただけなのか?」

「そ、そんなことは、ないけど……」

「じゃあ、君は俺のことをどう思ってる?」


 前世の推しです、とは当然言えない。ステラは真っ直ぐ見つめるノックスの目を見れず、顔を伏せた。

 婚約者という形にはなったが、ステラはまだ少し迷っていた。

 間違いなく彼のことは好きだ。しかし、それが愛情なのかと言われたら素直に首を縦に触れない。

 ステラにとってノックスは、前世で好きだったキャラクター。数あるキャラクターの中で一番夢中になった相手ではあるが、結婚相手となると話は変わる。

 一緒にいてドキドキもする。好きだと言われて嬉しいとも思う。だが、ノックスと同じ感情で好きだと返せるのか、ステラにはそれが分からない。


 これが全くゲームと関係の無い、完全な初対面であれば素直に気持ちを返せていたかもしれない。

 前世の記憶がなければ、余計に悩んだりしなかったかもしれない。

 好きだという気持ちが確かにあるのに、それを言葉にすることがこんなにも難しいだなんて、ステラは思いもしなかった。



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