第7話 桜餅は猪の風味〜どす恋を添えて〜

マントを靡かせ、猪の如く桜餅は途轍もないスピードで迫り来る。


避けられるかよッ‼︎と俺は瞬時に迫り来る存在に昨日の事をリフレイン、そして、刀をイメージする。手元に装備した初期装備を手にもう、目の前にいる桜餅は鬼の拳を撃ち込んでくる。そして俺は刀を下に振り下ろすッ!


「スキル発動、矛盾の血刀ハイリヒ・シュナイデン


スキルのオート発動!?まあいい、このまま!


「おいおい、鵼さん……じゃねえ姐さんがよぉ、避けろって言っただろう?」



「はっ!知るかよ!避けられねえもん!」

「ほう、初撃を避けたのは認めてやろう」



「だが……ざ〜んね〜ん、俺には盾があるんだな!おらよッ!」


[ガンッ!]

盾に弾かれ俺の真下に下ろした刀が遠くの石の地面に突き刺さる。


[ガッッ!!]


固有ユニークスキル!猪咄なる盲信打ビビビ・ビーティングボア!!!」

突進してきた低い姿勢、マントに隠れた鬼の手が下から俺の腹を吹っ飛ばす!


「どわぁぁぁ!!!!これマジで絶対買うゲームミスっただろぉぉぉぉ!!!」


という俺の嘆きも虚しく空に投げ飛ばされる。チュートリアルハードモード恐るべし。腹の首無し地蔵のタトゥーが嘲笑う。普通に痛えし……俺のHPのゲージが見えないところ現段階では死んでやり直しも出来そうにないな。どうすんのコレ?


「おいおい、サクサク……じゃねえサキト!お前まだまだ闘えるよなぁ!!」


嘘だろ……コイツ、俺の知ってるショタの概念をぶち壊してくる!普通に犯罪だぞソレはぁ!相撲取り体型のフィジカルに勝てる気がしねえぞ、まあ、倒す訳じゃねえし次こそしっかり避ければいいんだろうが……

緋依鷺も待ってるだろうしな!


「あぁ、喜んでなぁ!ご指導ご鞭撻、早急に頼む!」


どうにか体勢を立ち直し、再び前を見る。


「もう一回だ!固有ユニークスキル猪咄なる盲信撃ラララ・ランニグボア!!!!」


「次こそ!」


灰色の石の地面、塀、青い空、白い雲全てを俯瞰、客観視。次こそ、落ち着きを取り戻し冷静に来る猪をかわす。


「今だッ!」

すげえ!本っ当に体が思うがままに動く!激突手前で左後ろに後退、そして盾の初動を避け下からのアッパー、ビーティングボア、をギリギリでかわす!


「ふっ!よくやったな、」


「感謝だ!師匠!」

(相手は見た目11歳のNPCである。)


すると、ナレーションの声が聞こえる。


[チュートリアルクリア。猪咄なる桜餅〜避けの巻〜おめでとうございます。それでは次へ。]


「あ……これチュートリアル初回だった、」


戦闘の基本といえば攻撃と防御だが、ってあと2個だと?いや実際今のは避けるだけだったし簡単といえば簡単ではあったのだろうが。


[モーション練習攻撃編へ。]


マジか……


「それじゃ!次のヤツに交代だ!」

そして、へそピを光らせて例の桜餅は消え去った。完成してる相撲体型に物理的に輝く童顔が乗ってるって違和感だよな……ホラーというかモンスターだぜ……



さてさて、まあもしかしての話だが、ああいうのがもう一人いたりなんか、しねえよな?


すると、石のアーチ状の入り口から長い髪が見えてくる。目を奪われるような金色の髪と失明しそうな程の点滅する虹色の髪が見え隠れしてくる。さて、色は放っておいてまだマシか?もしかしたら可愛いキャラ?と、思ったのも束の間、非常に長い髪の下から白銀の白鳥の頭が見え隠れし始める。バレリーナ?まだ、まだ可能性は……


[ゴゴゴゴ  ゴゴゴゴ]

バイクの音?なんだ、コレは……


[ピシィ。]    [メキィッ!]


石の塀が割れたッ!?


「ヨォ、話は聞えちょー……われがサキトだな」



バイクの上の十字架に縛られて仮面を付けた男が現れた。ガッチガチに整った筋肉。正六角形の目。輝く左右ともに輝く虹色。左は点滅している。股間に白鳥の首のついているバレリーナ服。光る白銀の白鳥それを除き。その他の部分は肌色……手には手錠。頭には紙と同じように輝くクソデカリボン。右手には無数のLEDの取り付けられた魔法少女ステッキ。全ての指にはどこかで見た特級呪物エンゲージリング。顔には石で出来た古風な仮面。ステッキと同じ手にランタンシールドを携える。


あの桜餅と同じくしてHPバーと共にキャラネーム、蒲餅パンケーキ・パンク・詠句エイク


ば、バケモノだ……可能性は無かった。ヤツは低い広がる声で俺に話を続ける。



「………」

俺は今度こそ完全に言葉を失う。キャラデザの製作陣、病んでたのか?


「さて、始めようがね」


「……あ、ああ、攻撃モーションだな、、」

このまま十字架に縛られたままだったらありがたいのだが。


「ふっ、」

今コイツ鼻で笑ったよな……?


まあいい、

「それじゃあいくぞ!」


「スキル発d……」

「ちがー!!!われが学ぶべきはへの愛情の注ぎ方だぁ!!!」


「へ?」


「愛情?かみ?」


「お前は何を言ってるんだ」


「?」


「さっさと始めーぞ!攻撃モーションの時間だ。おらに一発でも入れてみぃ!そげしたらわれにはこのアフロのかつらをあぎょう!」


「わ、わかった、わかった……」

駄目だコイツ、調子が狂うとかじゃないペースに飲まれまくってる。これ以上踏み込むと戻って来れなくなる、なんて恐ろしいNPCを使ってるんだよ制作会社……コレ確か出雲弁だよな、変なタイミングで従兄弟に感謝する事になるとは、


気を取り直し刀を装備する。確か振れば勝手に発動してくれるはずだ。そうして俺は上から下に刀を振り下ろし、攻撃を始める。


「スキル発動、矛盾の血刀ハイリヒ・シュナイデン!」


「なんだとっ!!われがその気ならおらも行かしぇてもらーぞ!!!!」


「お前がやれって言ったんだろうがぁぁ!!!!」


「あらぁ///大胆」


「あらぁ///じゃねえよ!!!オラァッ!」


「そう簡単にやられーものかッ!」


すると腕の縛られる十字架を瞬時に破壊し、魔法少女のステッキを発光させる。点滅する虹の光に思わず目を瞑る。


「しまっ……」


「なんか光ったぞ?コレはどげな事だッ!?」


今頃になって気付いたことが一つある。コイツ、馬鹿だ……正真正銘の馬鹿だ。レベルが違う。筋肉馬鹿という感じではない。股間の白鳥がそう言っている。頭の中に直接語りかけてくる。この変態は紛れもなく馬鹿であると。


困惑している変態に俺は持っている刀を振り下ろす。


[チュートリアルクリア。馬と鹿と蒲餅と〜変態にはそれなりの攻撃を〜おめでとうございます。それでは次でラスト。頑張ってください]


「ひでえ、酷すぎる……この技術力とクオリティのゲームだっていうのに圧巻される所が現段階でNPCの混沌さだけとは……」


コレで3体目とかどうなるんだよ俺、、、


[チュートリアル3、防御の構え]


やはり俺の心情フル無視でナレーションは話を進める。コレでラスト、終わったら緋依鷺に会える……大した時間は経ってないのになんでこんなに疲れているのだろうか、そんな事も考えられずに俺は最後のステージに挑戦する。



「ヨォ、また会ったな」

師匠、帰ってきやがった……


「またあーたな、われぇ」

お前はさっきから居るな……


「終わった……」


「いやいや終わったってまあ、コレがラストだがな!まあ頑張れ!」


「という事で、おらを守ってね♡」


[チュートリアル、蒲餅を守れ〜猪咄からの防衛〜開始です!]


瞬時に背後に周ってきた蒲餅、コイツを守ればいいのか、目の前に30秒と表示されたタイマーが浮かび上がる。30秒間守り切ればクリア、か。あの突進してくる攻撃スタイルをどうやって対処しようか……


「誰が為に守るのか己の心に問うといい!固有ユニークスキル猪咄なる盲信撃ラララ・ランニグボア!!!!」


だからこの桜餅セリフだけはカッコいいんだよな……ヘそピ光らせ三度目となる突進技を繰り出す。後ろにいる蒲餅をどうにか遠ざけ、刀を装備し強く握る。そして、組み合わせでやってくるビーティングボア、を、防ぎ切れない……光がっ!目が、目がぁぁぁぁ


変態おまえっ!


「ふっ、すまんな」


はっら立つぅ……もう一回かよ、、、


時の経つこと1時間(そんな経ってない体感時間です。)約3回にわたる魔法少女ステッキによる妨害を突破した後、俺はどうにかチュートリアルを踏破した。


タイマーの数字がゼロになったタイミングで


[チュートリアル〜誰が為に守るのか、その答えは和洋のスイーツに〜クリア、おめでとうございます!]


「お疲れ様だな!さあ、冒険へ!」

師匠がこちらを向き別れの挨拶を告げる。


「また、会おうな!」


「ああ、ありがとうな!(また会うのかな……)」



やっと解放された。


風景が石造りの演習場から中世の西欧のような街の中へと変わっていく。急に景色が変わるのはなんかあまり慣れないな。そして俺は辺りを見渡す。まあ、いわゆる始まりの町って感じだ。よくある異世界ファンタジー系のゲームか。嫌いじゃないな。暫く感傷に浸っていると一人の男が近づいてきた。もしかして緋依鷺か?


というか、そのまんま見た目変わってない……男が女か分からない中性的な顔立ち、髪型も同じだし。分かりやすくて何よりだが。


「あれ?サキト……あ、ごめんなさい人違いかも……」


確かに、見た目が違いすぎるよな。


「いや、緋依鷺、俺であってるよ。さきとだ」


「ええっ?ホントに?なんか凄くモンスターみたいな見た目だけど……」


「それに比べて緋依鷺はそのまんまだな」


「いやあどうもキャラ作りが面倒かったからそのまんまにしちゃってね、」


「そ、そうかぁ……」

まあ、かくして俺もランダム生成だが。緋依鷺のプレイヤーネームは安直な事に名前から取ってのヒーロー。本名を知ってる身としてもまた分かりやすくて一緒にやってて迷子になる事はなさそうだな。


「それにしてもこっち来るまでにゆっくりだったけど珍しくキャラ作り凝ってた感じ?」


「まさか、この俺がキャラ作りでランダムを押すことなんて……というか、え?普通にチュートリアルやってただけだけど、」


「チュートリアル?」


「あ、うん、チュートリアル」

この感じもしかしてチュートリアルって存在しない?いやまさか、ゲームだぞ?思ったままに体が動くとはいえ無いなんて事あるか?というかそれって俺だけあの変態達の相手をしてたって事か……?


「もしかして無かった?」


「うん、」


「ええ……」


「流石兄ぃ、よく分からんところに迷い込む。そして、一体何があったらこんな格好に!?」


「うむ!流石はこの悪夢の破壊者が見込んだだけはある!ヴァンパイア、かっこいい!」


「ええ……」

な、なんか居るんだが?疲れて幻聴と幻覚が?


「もう来ちゃったの二人ともっ!?」


「だって兄ぃが来るのが遅いからさ⭐︎しゃーないしゃーない」


「天使を待たせるとは、良いご身分だな!この私ならば契約によって瞬時にこの世界の存在を消し去る事も可能なのだぞ!」

この図々しさ、間違いない、俺の幻覚でも幻聴でもない、本物だ……


「……ええ、すみません?」

なんかコイツらに謝るのに抵抗しか生まれないのは何故だろうか、つかなんで二人は居るんだよ本当に⁉︎遡がMASEN持ってるのは一緒に買いに行った記憶あるし知ってたけどさ、うちに三台も無かったよな!?しかもTSO買ってなかったはずだよな!?一体何が起こってるんだ……?


「で、なんで二人がここに居るんだ?」


「いや、ね?何でだろ」


「分からない?うむ、分からない」

女子二人組は顔を見合わせて分からないと繰り返す。


「そんな感じで二人ともよく分かってないみたいで、」

緋依鷺はなんか冷静過ぎるな……


「は、はあ」


「一応聞くがコレってTSOで合ってるよな?」


「うん、そうだけど……多分」

自信のなさそうに答える。


「た、多分ってなんだよ多分って!?」


「ほら、ここ風景が不安定過ぎるんだよね、さっきから」


「え?」


聞き返したのも束の間、周囲の景色は溶ける様に消え去り、次には俺の住む街へと変わっていく。見覚えのある街。モデルとしての俺達の街ということじゃない記憶からそのまま引っ張ってきたかな様なそんな風景が俺たちを囲む。


そして空から声が聞こえる。

[メンバーが揃いました。それでは紅天白夜の討伐を開始します。]と。




「は、はぁぁぁぁ!??????」

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械廻機譚はキミジカケ 玄花 @Y-fuula

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