第6話 バトルパートスタートだッ!(嘘です。)

「はあ〜、にしても昨日あんな事が

あったっていうのにいつも通りにしか見えない

のはなんか凄いな〜」


緋依鷺の理解力には驚かされるがここは長年の付き合い、というものが上手く働いてくれているのだろう。


「そりゃあきっと俺の頭の中が異世界にでも行ってるからじゃねえかな〜!」


まあ、いっつも面倒そうに学校に行って帰ってを繰り返してる俺だもんな!いつも通りに見えたとて大した問題ではない!そうだ!きっとそうだ!


「そっか。流石はさきと君!」


そうだ!……?うん、まあ自虐ネタの通じないヤツって居るよな!そして何処が流石なのかなぁ?とは思っても、


「はっはー!おだててもさっき買うって宣言しちまった1Lコーラしか出ねえよ!」


と、返す俺だった。無論、約束は守る!


コンビニに立ち寄り、約束の物を奢り、ついで緋依鷺の家からTSOとVRゲーム機本体。対応機器であるヘッドギアMASENを回収。そうして俺らは無事に家に到着した。本当に嬉しい限りだ。昨日は帰宅毎に碌でもないヤツに絡まれたからな、そして、死にかけた……帰宅がトラウマになるぜぇ。家の玄関の前で、俺は無意識に自身の横腹をさする。


[ガチャ。]


「只今ただいま〜緋依鷺も一緒ぉぁぉあ?」


玄関のドアを開けて、目の前に居たのは例の、というか問題の少女にして自称天使の少女。美しい白金の髪に海のような青い目を持ち、季節外れの夏服を身に纏う。そう、デストラクション・ナイトメアその人であった。やはり、うちに同年代の女子が居るという圧倒的な違和感。嬉しいんだか気まずいんだか……



「あっ………こんにちは?」



例の彼女はこちらを向くなり首を少し傾けて疑問系で挨拶を返す。


「うん、はじめまして、そしてこんにちは!」


隣の緋依鷺は何と思う素振りもなくいつもの調子だ。やはり読めないな……そうして俺は再び前を向く。



白金の少女は足を肩幅に広げて、腰に手を当て、ピンと伸びた人差し指を俺達に向かって指す。世にも不敵な笑みを浮かべて。あの出会い頭には想像もつかなかったような顔で口を開く。


本当に本当に笑顔で。強いて言わなくとも、正直に、心のままに言うなれば普通にウザいくらいの笑顔で。


「いや、こんにちは?違うなぁぁ、

違ってしまうんだなぁ……これがまた、

      

 そうっ!私の名はァ!D」


が、俺は残念な事にスルーする。名乗りは最後まで聞く派の皆様本当に本当にすまない。謝っても済まない事とは重々承知だが、俺にだってそんな時もある。そう、冷静沈着に淡々と思考を巡らせる俺。だが、実際は早くゲームをプレイしたくて心の内は一切たりとも落ち着いていない、俺である。早くやりたい!早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く……冷静な俺?


早くで他個紹介を済ませる。

「そう、こちらが例の悪夢の破壊者

デストラクション・ナイトメアさん、」


「あ、うん、改めてよろしくね。」


「ああ、宜しくたのむ、ぞ……」

後半に行くにつれ徐々に言葉が小さくなっていく。そして、くるりと後ろを向け、彼女は俺の部屋に戻っていった。遡の部屋に行く気は無いのか?いや、別に部屋に美少女が居る事に不満なんてものは無いのだが。さて、気を取り直して俺の部屋にでも向かうとするか!


[バンッ!!!]


「おかえりッ!兄ぃ!美少女見た?

お、ひいろも一緒なんだ、おひさです!」


次は遡が飛んで来た。次は母親か?

だなんて事は無いにしろ、とんでもない速度で

突っ込んで来やがる、俺の妹。なんだろう、すっごい元気だなあ……


「やあ久方振りだね、遡ちゃん。」


それにもまた、驚く素振りの見せない緋依鷺。

こいつはこいつで落ち着き過ぎだよな。年の功、ではない!しっかりと同い年である!


「デストrめんどい、

    アイツなら俺の部屋入ったけど?」


「ええ、また兄ぃの部屋にだとッ⁉︎

あの子目を離した隙にすぐどっか

行くんだから!」


猫か子供かよ。そして、何故か我が妹の支配下(?)に俺の救世主(結局何者かよく分からない人。、、、)が置かれているのかわからないのだが。


「そうか、……まあ、俺が呼んでくるよ。今日は色々悪いな緋依鷺。なんか付き合わせちまって、」


「親友に付き合う?そんなのボクの本望さ。」


コイツ……人が良すぎやしないか?

普通に惚れるぞ?実際男女から共に告白を

受ける存在であるゆえ、冗談には出来ないのが怖いところだ。やっとの事で俺は部屋に入る。


[ガチャ。]


ドアを開け、目に入るのは言うまでもなく例の少女である。あの顔を崩す事なく言葉を放つ。


「Wellcome to ダークサイド。

  混沌なるカオスへようこそ。」


「おい、聞き覚えのあるセリフだな、混沌もカオスも同じ意味だぞそれ!そしてだな……俺の部屋は全くもって混沌的でもダークサイドでもねえよぉ!?」

これでも整理は出来ているつもりだ!前までは教科書が消失したり消しゴムを落とした瞬間に神隠しに遭ったりと大変だったからな!


「ふっ、バレたか……」

何故、してやったり、みたいな顔をしてるのかな?


「ま、俺の友達だし、緊張することは無いからな!緋依鷺はなんか、すごくいいヤツだ!」

語彙力無くなるくらい!(それは前からです。)


「何っ⁉︎私の心を読んだだとッ⁉︎」


嗚呼、名状し難い厨二病の様な病が、悪化してやがるぅ……これが昨日俺を二度も助けてくれた存在だとはどうも思えないものだ。まるで、本当に悪夢であったかのように。目を覚ました頃には俺の傷は跡形も無く消え去っていた。


「まあ、それでは、妹御と戯れてくる!」


「おう、そうか、」


想像以上に馴染んでいたようで良かった。俺なんかといるよりも多分妹の方が人付き合いは上手い。その方が彼女にもいいだろう。そうして少女は軽やかなスキップ混じりに俺の横を通り過ぎる。



「昨日は、本当にありがとうな。」

と俺は呟く。


「っ何かっ⁉︎」


「あ、いや、なんでもないよ」


「そうか、それでは、学友とせいぜい楽しむがよい!」


「はっ、何様だ!」


「分からない?うむ、分からない!でも、もうさきとが見つけてくれた、だからきっと私は天使」


そんな会話を挟んだ後、緋依鷺を部屋に招き入れ、遂に待ちに待ったTSOのプレイを始める。友達が来て対面で会話出来ないVRゲームを?とでも違和感を持った方も多いだろう。だが、このゲームはちょいとそこらの物とは格が違う。まあ、そこら辺はやってからのお楽しみだ。俺もどういうものだか実際よく知らないわけで……それでよく、あれまで楽しみに出来たことを我ながら飽きれるものだ。



VRダイブヘッドギア、『MASEN』の対応ゲーム。『トランジェント・サンクチュアリ・オンライン』通称TSO。過度の情報規制によりキャラクター情報からストーリー、シナリオ、制作関係者。その全てが謎に包まれた存在。一体どうしたらそんな物を販売出来るのやら。それはともかくとしての数少ない情報と言えばコントローラーが不要だとかなんとか……確か某テンドーの新作ゲーム機が発売したのが、、、よし、考えるのは辞めようゲーム始める前に心の何処かにダメージが入って立ち直れなくなる!



「これをこうするんだっけ?」


「そうそう、MASENの後ろのところに

凹んだとこあるでしょ?そこの穴に

この付属のパーツを入れて、」


と、サイバーめいたヘルメットの様な

ゲーム機の後頭部を軽く叩き、差し込み部分に

付属パーツを挿し込む。これだけでコントローラーが不要になるとは驚きだ。思考を読み取る機械だかなんだかがもう作られてる世の時点では些か大した事と言う程でもないのかも知れないだけれど。


光沢の無い黒に蛍光の水色で縁取られたサイコロのような部品。角には金と銀の混じった様な色の装飾が施されている。なんというかゲームのレアアイテムそのもの、みたいなのデザインだ。



「ほらほら、被った被った〜!」

見惚れていると緋依鷺が急かしてくる。


「おーけーおーけー、それじゃ!ゲームの中でまた!」



起動音。[ウィーーン]


dive・copeダイブ・コープ


MASENを被り、俺はそう言葉を口にする。

世界が変わる。目の前が、俺の部屋から

緋依鷺から。白い世界。何処までも広い世界。

街中からあの大地へ飛ぶ様に。意識が……



     [チリーン。]



目の前にウィンドウが出てくる。没入感が売りのVRゲームなだけはある。それどころか、思うがままに体が動く!本当にゲームの中に入り込んだかのような感覚。コントローラー無し……流石だ。ウィンドウには選択肢が映し出される。



     《プレイヤーネーム》

     〔入力してください。〕

     《キャラクター生成》


     《ジョブ》


     《初期装備》


     《二つ名》



さて、結論から言わせてもらおう。

めっっっちゃ迷う!どうしよっ!

あれれぇ、なんかあるな?自動生成ランダム


せーつめいしよう!

(情報量を増やしてくぜ!)

こういう時に俺、別天裂斗はギャンブル思考

に入るのである!本っ当にどうしようもねえな……このゲームの形式はオープンワールド。キャラ生成等と軽いチュートリアルのクリアさえ終われば初期スポーンの街で緋依鷺には会えるだろう。そういう事でさてさてさーて、

あポチっとな。指を前に、


▶︎〔自動生成〕


ふっ……やっちまった。呆気ないな。



 [自動生成、受託しました。]


なにっ!?アナウンス音声が……魔法少女プリンシブル敵側唯一の変身者にして俺の最推しキャラクター、ディス・ヴァイオレーションの声優さんだとっ⁉︎と驚いて浮き足立っているところで本当に足元が浮いて何やら幾何学的な魔法陣が浮かび上がり始める。あくまでもゲームの中とはいえ凄い臨場感だ。この世界での体が構成されていく。青い焔のような長髪、凝固した血の色の様な赤い吊り目。長い尖った八重歯。みたいな吸血鬼いでたち。服装もまた西洋のダークな貴族、そのもの黒の地に金と銀の刺繍が施されている。


【プレイヤーネーム】〔サキト〕

【キャラクター】  〔吸血鬼〕

【ジョブ】     〔聖職者〕

【初期装備】    〔天羽々斬剣アメノハバキリノツルギ

【二つ名】     〔命の解放者〕


あああああ……神引きをした気がする。言葉に言い表せない感情が腹の底から噴火の如く熱をもって暴れ出す。


「ッしゃぁぁぁぁ!!!」


俺の雄叫びを無視してヴァイオレーション(ナレーションです。)はチュートリアルへと話を進める。



[再生完了。チュートリアルに移ります。]


そして、ウィンドウが消え、白い空間が捩れて消失する。次に現れたのは、いわゆる中世の騎士たちの訓練場であった。吸血鬼には最高のロケーション。石造りの塀に遠くに見える塔。やはり城の片隅そのものだ。目の前にあるアーチ状の入り口から、誰かが入ってくる。




それは、その少年は11歳くらいの男の子。体型としては年齢に見合わない、相撲取りのような姿。桜色の髪で髷を結っている。

とてつもない垂れ目の右目は輝く虹色、左目はゲーミングPCの様にビカビカと輝く。

白いまわし一丁の服装。

右手は鬼の手、左手に盾。腹にはへそピと首無し地蔵のタトゥー、背中に羽織るのは白いマント……将来が有望な奇怪な生物が現れた。



さて、いつ買うゲームを間違えた?


「おお?やっと来たかあんちゃん、名乗りな!」


目の前にHPバーと大道明院サクラという表示が入る、コイツの名前か?


その不審めいたヤツ、いや年下に見えるNPCふしんしゃは声変わりのしていない高い声でセリフを放つ


「さ、サキトだす。」噛んだ……

すると、次に首なし地蔵桜餅は右手の鬼の手を開いては閉じ開いては閉じを繰り返した後、こちらを向く。

「よし、サキトダス……じゃなくてサキト!チュートリアルの幕開けだ!5、4、3、2、1」


ナレーションの声は平常運行の如く、


        「ゼロ!」


[チュートリアルを開始します。]と。



そして続けて、

[バトルスタートです!]と。



「サキト、これからぁ!チュートリアル兼、適正審査を始める!でごわす!」



「まずは避けから!固有ユニークスキル猪咄なる盲信撃ラララ・ランニングボア!!!!」


[シュンッ!!!!]

左手の盾を前に右の鬼の手で拳を作り瞬時に迫ってくる。


は、早いッ⁉︎チュートリアルかよ本当に⁉︎思わず俺は右手の刀を装備する。こんなの避けられるかよッ!本能的にその武器を……


「スキル発動、矛盾の血刀ハイリヒ・シュナイデン



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