第5話 しんかいひいろ

さて、昨日の事件から時間は経った。その翌日の今はお昼時、我らが別天裂斗くん。



彼と昼食を取っているのは長い艶やかな黒髪を後ろで結ぶ、細身の男子生徒。やけに顔立ちが整っているその生徒は日常的に女子と間違われるとか間違われないとか間違った生徒曰く、もうアイツは女子だとかなんとか…それはともか

く二人はよく、もう一人の男子生徒(今日は休みのヤツ、)と三人で昼食を取っているらい。いつもの青空の見えるテラス席で。




そしてそして、今、例の長髪の彼は何やら困惑

の表情を浮かべているみたいだ……






    「…………………ふぇ?」




俺が今、話したことを理解していないようだ。というか脳の処理が追いついていないようだ。


昼休み。こうなる事が分かったうえで俺は二階、食堂のテラス席にて同じクラスの男子。針槐緋依鷺シンカイヒイロ、に昨日の狂った放課後の記憶について語り出していた。我ながら、おかしいヤツではあるのだが。


白い校舎。午前中の授業終わり、昼下がり。暖かな春の日差しが、大窓から降り注ぐ。多くの生徒が出す生活の雑音が日常を示す。



「えーっと……ボクのチャーハン食べる?」



「どうしてそうなった?」



「いやー、なんかお腹空いてるのかなーって…」


それを言うなら疲れてるのかな?だ。


まあ、実際今は腹は減っているわけで


「まあ…いいや、気にしないでいいぜ。

       悪いな変な話しちまって。」


そうして、俺は学食の唐揚げを頬張る。


「何を、さきと君が変なのはいつものことさ。

というか、ソレ言われて気にならない人いない

と思うんだけどね。」


「ふぉ、ほうかぁ…(そ、そうかぁ…)」


「あれ?ってことは一緒に

 やれるのはまた延期じゃん…

  残念無念下手すりゃ再来年…」


その言葉を聞いて俺は唐揚げを一気に飲み込む。

「だあよなぁ、!本当に、、、」


生産数、極小数の最新VR MMOゲーム。

『トランジェント・

サンクチュアリ・オンライン』通称TSO。


近くのゲーム屋でギリギリ取り寄せだけは出来たものの放課後から発売の早い者勝ち予約無しの販売。あの店長じーさんもやってくれたもんだ。彼の言う通り特殊かつゲーム機本体に接続する精巧なパーツを作る為に長い時間が経かる。その癖してバイトをしてない俺でも値段は買えないほどの値でも無い。色々と話が破綻している。常に新作と呼ばれる謎の多いRPGだ。情報規制も相まってほんの少しの画像、映像、ストーリーすらも同じくして一切流通しない。"情報ゼロの神作品"。そして、俺はそれを耐え難い程に求めている。喉から?いや、鳩尾から見えざる手が勝手に這い出てくる程に!



まあ、隣にプレイヤーがいるから聞けばいいというのは俺の生き方に反するというものだ。


「とはいえ、話は詳しく聞かせてもらうよ。」



「おお、そうか。分かった。」



「友達としてね。」

笑顔で隣に座る彼は続ける。笑うと顔がマジで女子……


「だって、さきと君があんなに

欲しがってたTSOを買いに行く事すら出来ないほどの超超超緊急事態だったんだよ?

そんな事件。勿論、気になるさ!

そりゃあ聞かない訳にはいかないでしょ!」


超超超緊急事態だと?そこまで言うか?実際そうではあったが、というか想定内と言える範囲で想像以上に食いついてきおった……流石は俺の同志だ。前回の販売で先にコイツが入手したのは根に持ってないとは言わないが。俺もそこまで鬼ではない。


「まあ、放課後にでも詳しく話すよ。」


「わかった。楽しみに待ってるね!」


楽しみ、とは?まあ信じてもらえているのかどうかはともかく、話して整理をつけなければ俺も色々とどうにかなっちまいそうだ。昨日の中学生(?)じゃあないが。


そうして俺らは昼食を食べ終わり午後の授業に挑んだ。まあ、俺は寝るのだが。入学早々、午後の授業を睡眠で過ごすのが日課になってしまっているのには訳がある。というのはまた後々ということで……。



あの後、俺は小麦粉、ケチャップ、マヨネーズ

そしてジャガイモの入ったレジ袋を住宅街の車道の真ん中に残して、手には代わりにデストラクション・ナイトメアが召喚した刀を持ち、背中には彼女を背負って、帰宅した。お陰で全身筋肉痛。銃刀法違反という言葉が頭に出てこない程には精神的にも疲れていた。




[ガチャ。]


「おっかえりー!遅かったな〜兄ぃ!

         あれ?買い物は?」


「ああ…そうだな…今日は疲れたよ…

           なんか全体的に…」


[パタン]


家に到着直後、気を失うようにして俺は倒れ込む。上に覆い被さるように白金の少女、もまた同じように玄関で……


翌日の朝、つまり今日の朝、俺は今日、母、妹共々が休みという事でそして何故か何の質問も無く。


「面倒は見とくから学校行ってらっしゃい!

放課後も帰ってくるのはゆっくりでいいよ!

うん、違うな〜あっ!そうだ!

帰ってくるのは午後7時以降でね!」と、


朝の、おはようございます、の代わりに俺に顔をあわせるなり言ってきやがった。学校近くの部活無所属、ゲーム趣味(スマホゲーはあまり…)の人間に外を歩き回れと?ポ⚪︎モンG⚪︎?うむ、なかなかに拷問。


物分かりが良過ぎるっていうのは助かる反面案外怖い者なんだけども。それにあやかって俺は放課後、緋依鷺と共に話しがてら近くの例のゲーム屋、玩戯屋アソバセやに足を運ぶ事にした。いつ見ても新しくも古くも見えない店。



[ウィーン]


「よぉ、いらっしゃい!」


店長のじーさんこと、看做星像かんなせいぞうは両手を広げて元気な笑顔で俺ら二人を迎える。もう70代後半の白髪で小柄、その割に背筋のピンとしたじーさん。どうやら筋トレを欠かさない事が日課だとか。優しい顔をしていて、現役高校生の俺たちよりも握力が余裕で高い……


「ああ、どうも、」


「こんにちは〜!」


挨拶を済ませるとショーケースの後ろから眼鏡を掛けたおにーさんが現れた。


「やあっ!元気かな?

今日も別の女の子と、

一緒とはなかなかじゃないか」


「あ〜!お隣さん!(名前なんだっけ…)」


昨日通りすがった、大学生のお隣さん。ん?


「あ、コイツ男です。」


「あ、マジ?男?」


「マジマジ…」  「なんか、ごめんね…」


と、初対面にはいつも紹介。緋依鷺も割とこの店来てるはずなんだが、最近は来てなかったのか?このにーさん入って来たの一ヶ月前だったか、


「で、さきと君、お隣さんというのは?」


「この新入りのバイトじゃよ。」


「新入りバイトの時佩善ときはかぜん

大学生です!よろしく!」


「はいっ!よろしくお願いします!」


「さてさてぇ、

新入りの挨拶が常連のひいろ殿に終わった

ところで裂斗、お前さん、TSOじゃが…」


ごくり……唾と飲み込む。まだこの店に置いてある、という可能性はゼロでは無い。さんざん

諦めていた様なものだがここに来たのには時間潰し以外にも訳がある。その可能性こそがそのわけだ。


「なんと!……」


「なんと?」


「な〜んとなんとッ!!!」


このじーさん元気だよな、


「なんとぉ?」

うぜえ、焦らしてきやがった、


「………あれ?どうじゃったか…」


「… …は?」


年入ってボケたか?と、見せかけてのレジの下に置いてある箱の中から何かを取り出し、ニヤリとこちらを向いて微笑する。そしてわざとらしくこう、俺に聞く。


「おおっ!あったあった!はて?

お前さん、買うか?このTSO、をm…」

だが、俺はその問いの全容を言い終わらせる

事なく即答する。

「じーちゃん、ちょーっと待ってろ。

今から刹那で金、取ってくる。」


おっとぉ…厨二病の時のワードセンスが出た…

テンション高くなるよな、こういう時は!


まあいい、さっさと行って帰って買って帰ってあれ?まだ5時だな…まあ、問題は無いだろう。早く帰ってバケモノに襲われるわけでもあるまいし。俺の部屋のドアを破壊するヤツを除いての話だが。



[ガチャ。]



「只今ただいま〜金、金……」


ドアを開けてコンマ1秒で俺の何故か部屋から現れる妹。反応速度鬼なの?クロックアップ常時発動出来る人?


「あっ!兄ぃ!帰宅早過ぎ!

部屋には立ち入り禁止なんだから!」


帰宅早過ぎは割といつもの事なんだが、


少しくらいなら相手をしてやろう(ノリ気)


「ほう、俺を通さないと言うか。」


仁王立ちにサイドテールの妹。顔だけはめっっっちゃ笑顔なんだけど。そうして、俺の言葉を聞くなり定型分を発する。ついでに一人芝居も。


「ふっ!ああそうだとも!玄関を通りたくば

私を通してからぐへぇッッ!!不意打ちとは

卑怯なっ!おのれっ!このっ!はっ!

えいっ!ファイヤー!」


ん?ファイヤー?


「アイスストーム!

ダイヤキュート!ブレインダムド!ジュゲム!ばよえ~ん!」


「………」


何故か聞き覚えのある連鎖音を唱え出す。コイツはコイツでゲーム好き……そして、俺は今何も攻撃も某パズルゲームもしてないっつーの。


あられも無い中傷はやってられねえ!俺はセリフは最後まで聞く派だ。


「遡、お前、なんか楽しそうだな、」


「で、何用かな?」


「金だよ金、」


「ごめんなさい、私の家、お金は無いよ、

もうこれ以上は払えないんです、どうかどうk」


前言撤回、誰がセリフは最後まで聞くって?

時間の無駄は避けたいんだよ。じぶんで絡んでおいて、、、


「まあいい、よし、分かった。

お前を倒して部屋から金を回収する。

悪いな、時間が無えんだ。しかも

友達待たせてるんだわ。」


「はいはい、この謎。解けてしまった。ふっ!

さながらアイスの如く。分かりましたよ兄ぃ!

♪予想通り?計算通り!何もかもがシナリオ

通りぃ!そんな貴方にこの通り。ヘイ!」


なに?急に歌い出しやがった⁉︎

そうして「ヘイ!」のタイミングで

俺に財布を手渡す。


「すっげえな…金ぴったり…」

やはりコイツ、物分かりが良過ぎる…怖ええ…


「ほらほらぁ、行ってらっしゃ〜い!」


さて、あの騒がしい悪夢の破壊者は

部屋の奥で何をやっているのだか、

それともまだ寝てるのか?確かに

二人に任せておけば間違いは無いのだが。


次は自転車で玩戯屋に向かう.


[ウィーン]

自動ドアー


「よし、帰って来たぞ!」


「すまんな、今さっきちょうどな…」


「はいはい、まだあるな」

このじーさんのやり口…やり口って

程でもない恒例行事だ。


「チッ、バレたか…あいよ、」


「はい、金。」


「へいへい、毎度あり〜、

(遡ちゃんに電話しといてよかったわい…)」


「何はともあれ、

       TSO、ゲットだぜ!」


嗚呼、某マサラ人が懐かしい……


「やったー!これでボクもプレイできる!」


「ん、まだやってなかったん?」


「そうだよ、さきと君が始めるの

待ってたからね。」


なんて、いいヤツなんだ、俺のダチは…


「お、お前…いいヤツだな…

   家、帰ったらやろうな…

あとジュース奢るよ、昼飯代の残りでな、」


「え、じゃあ。1Lコーラで」


「げ、絶妙に高えな…まあいいわ。」

こういう時には遠慮しない緋依鷺。


「やった!これでチャラね!」


「そんじゃあ、じーさんまた!

あと、時佩さんも!ば〜い!」


「へい、ば〜い!」


と、無事に TSOの回収を終え、帰宅時間には

まだ早い事に気づく、まだ後二時間はあるな。

ゲーム屋戻ってもなあ、あの調子だと普通に俺は部屋に入る事は出来ないだろう。悪夢の破壊者は今頃俺の家で何をやっているんだか。


「暗くなって来たね〜、そういえばだけど

不審者情報出たの知ってる?ここら辺で。

あの大学生のおにーさんと話してたら

そんな事聞いてさ。」


「え゛?俺かもソレ…」


確かに帰り何人かと通りすがったんだけど、

そうなるかぁ……


「そんなまさか〜、さきと君が?

情報としてはなんか、女子高生をおんぶして

すごく長い刀持ってて、道に急に現れて……」


「あ、俺だわソレ…」

詳しく話す。という約束のもと、

共に帰っているわけで今頃になって

昨日の話をする。


「あ、そういうこと!だから不審者…

って普通にやばない⁉︎何?ロボットって?

ええええ???」


「うわっ!急に驚きやがって!」


「そりゃ驚くでしょ!だって何なの?

は?怪物?異空間?刀?」


「ああ…そうだが、そうだよな…ははは…

っし、緋依鷺、急だが家に来れるか?

これはお前の言った通りに超超超緊急事態なん

だよ、俺にとってはな。」


「勿論さ!暇人同士の同志が

困ってるんだからね!まあ、彼も今日休み

じゃなかったら尚よかったんだけどね〜。」

最早何が勿論なのか分からない俺の友達。


「そうだよなぁ…」

いつもの三人組の休みのアイツ、

そんな彼のことを考えながら俺たちは

家へと向かう。明日は休日だ。



無論、デストラクション・ナイトメアと妹のの

待ち受ける我が家へと。

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