第4話 から紅と絡繰は、、、

それは俺たちの前に今、立っている。いや、今舞っている。近くの一軒家なんかの屋根より上を。大きな紅翼に白い虎の形。明らかな紅白の、傀儡。その形を取った機械。金眼の巨獣。炎と金属。その二つを象徴するかの様な怪物。機械にしてはあまりにも生物めいている。だが、俺の知るものとして、



表すのなら……日曜日の朝。御苦労な事に画面の中で働いてる。よりによっての特撮のアレだ。その合体する前の姿。語彙力は知らない。逆になんと言えばいいのだか。前に舞う紅の羽に白い虎の体を持つロボットの姿は。



「はは、こんな所でお目に掛かるとはな…」




街中に、夜の住宅街の道のど真ん中にロボットが、浮いている。見て分かる通りに此方に向かってくる様に。テレビ越しなんかとは感じ方も違う。間違いなく恐怖だ。まあ、どう見ても正義のヒーローの乗り物だ。そう、どうしても、作り話の中の正義のヒーローのそれだ。その筈なのに、俺は今、冷や汗が止まらない。あの大地でバケモノに遭遇した時と同じ感触が心臓を掴む。そして、鳴り響き耳に突き刺す音。これで、三度目となるあの音。



 [ガチャリ。]  [チリーン]



再びやって来たあの大地、今は血の様に染まる紅い空。目が覚める程の白い地面。だが、あの時とは違う。あの大地に植物が生えている。まだ、背の低い草木が、白い大地の上に微かに現れている。




俺と同じようにして、驚きと困惑の表情を隣の彼女は浮かべる。俺達の反応を見ているであろう、その機械から楽しそうな笑い声が聞こえる。あの、着物を着た少女の声だ。やはり相手にするべきで無かったという事実を今を持って実感する。。。




俺は無意識にポケットに手をやり、あの鍵と白いドアを探す。………無い。返さないといけなかったのに。そして、無ければ此処から帰る事が

出来ないというのに。何処かに落としてしまったのだろうか。俺は、隣をぎこちなく向いて。




「ご、ごめん…」と、

うん、本当に、本当にごめんなさい。記憶が戻ったらしっかり謝ります。


「?」


白金の彼女は首を傾げる。


そして、俺は続けて


「一体、しかもなんか格好いいロボットが目の前に立ってるし…俺、買い物して帰るだけのはずだったんだが?」


と言葉を漏らす。


現実リアルってここまで現実離れしてたか?俺の普遍の日常が崩れ始めている。確かに、不確定性にランダムに確実に。不意に無意識に壊れかけている。


相も変わらず楽しげな声を浮かべる少女。そうして、俺に問いを投げかける。



「ふっふっふ、かっこいいか?

      そうじゃろそうじゃろ

       さて、今は何年かのう?」


独り言が聴こえてた……ハズカシ



「あ?西暦、2027年だが?」



俺は金属製の虎に言葉を返す。



「ふむ、そうならば何年じゃ?ひゃく、

にひゃく、せん、せんにひゃく……

再会には災禍が憑き物、永かったのう、ふふふふふ」



「だからさっきから独りで何を?

出来ることならもう帰りたいんだが。

ほら、俺の隣の子もこんな感じたがらさ……」



少し震えた声で言葉を返す。デストラクション・ナイトメア、あの意気揚々と名乗った彼女は目を見開いて驚きと困惑の表情で固まっている。意外な事に、落ち着いている自分自身に今、違和感を覚えている。だが、このまま出来ることならば、慌てること無く穏便に済ませておきたい。ありがたい事に、昼間のバケモノとは違い会話は出来るようだ。


俺の言葉にはこんな返事が返ってきた。




 「なあに、気にする事はない、

    宴の時間と言ったまでじゃ。」



「ほうれ、舞え。」


     「待っていたのはこの儂じゃ」


「次は手前らの番じゃ。


         「磐石な用意無くとも

      容易でなくとも孔雀のように。」



 「楽しませるがよい。」


         「この、わしをッ!」


 「そうれ。ふふっ!」

                    」





 「ふふッ、あはははっ!ふふふふっ!」




前言撤回、前言の全言を撤回。話は、通じないみたいだ。え、これってゲームオーバー?負けイベ?無理じゃん、戦闘力5もないよ、俺、


そうは言っても彼女はそのロボットはその翼から紅の羽を飛ばす。分かる事は殺しに来ている。という事、それだけだ。巨大な紅の羽が此方に向かって飛んで来る。さながら鳥が獲物を狙う時のように。俺たちの体を突き刺すように。絡繰仕掛けの怪物は、


質問の次は刃物かよッ!


「おいっ!」


固まったまま動かない、隣の少女を見て声を掛ける。


「……わっ!?」


思考が停止していたようで、急な反応に動きがちぐはぐになる。そして発する、次の一言。


「は、走れぇぇぇっ!!!」


腕を引っ張り地を駆ける。



「ッうわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



予想通りに追尾してくる羽から無我夢中に逃げる。背後の地面に突き刺さる音がする。顔の横の空気を切り裂く。腹の横を斬る。服、そして皮膚を斬る。血が、流れる。焼かれたような激痛が身体を焦がす。一瞬で血は固まり、痛みと斬られた火傷の跡が残る。擦り傷とはいえ、強い痛みが身体に広がる。



「グッ……痛ぇ…」


紅色の羽は再び、あの翼の元に戻る。俺に引っ張られている少女には幸い当たっていないみたいだ。足を止めて腹を押さえながら声を出す。血は瞬時に凝固し、流血は止まる。



「一体何者なんだ、キミは!」



「ははっ!解ったところで、解は出ぬ、

無意味な開口はこの邂逅に無要じゃよ。

この絡繰は紅点白夜。そして、わしは…

わしは、無色界苦締貪ムシキカイクタイトンじゃよ。

名乗らせたからには、のう?」


一瞬前のあの楽しそうな狂った声とは違い、次は余りにも落ち着き過ぎた変え。調子が狂う。痛みを堪えて俺は応える。



「俺は、別天裂斗、コイツは

デストラクション・ナイトメアだ。」


「ただのデストラクション・ナイトメア違う。

悪夢の破壊者、デストラクション・ナイトメア!」


真横に切腹未遂喰らった奴がいるのに元気な訂正だな。神よ、命の恩人の称号を剥奪する事は赦されるのだろうか、的な感情だ。今の俺は。


「だそうだ…」


あの時、とは言ってもほんの数時間前の話になるのだが。彼女に何らかの力があるのは事実だ。彼女ならこの場をどうにか出来るのだろうか。記憶を失っている、それはこの時において、


「名乗りは感謝しよう。じゃが、儂は楽しませろと。そう言っておるじゃろ?ふっ、ふふふ……ははッ!楽しませて、くれないと、のう?」



こちら側から見えずとも恍惚の表情が目に浮かぶ。何かに魅入られる様に何かを魅入る様に微かな笑い声と狂気を震わせる。俺なんかでは何も出来ない。脆弱な俺は白金の少女に問いかける。我ながら本当に嫌なものだ。



「どうにか、出来そうか?」



「うむ、無理そ……」


「だよな、ごめんな」










「無理?なんで?

私にはまだやれるでしょ?だって

この世界でまた、救うって

決めてしまったのだから、、、」



そう言って急に口の動きが止まる隣の彼女。頭を下に向け、身体の動きが静止する。首を音も無く降ろし、白金の髪がさらりと垂れる。その前髪の下からは深海のような虚ろな目が覗く。

青い宝石だったような目は今、



そして、虎の中の少女は笑い出す。


 「なんじゃ?どうした女子おなごよ?わしはもう、

   どうにかなりそうなんじゃ。生命を」


 「楽しまねば…快楽を…ソレが無いと。

        あははッははははッ!」

                   


「狂わねば生きてはいけぬ、あの世では!」

                    」


余りにも高低差のあるテンションに

此方の気も崩れてくる。


再びあの紅い羽が宙を舞う。白い金属製の虎、その本体からは狂った様な紅い笑い声が鳴り響く。隣の彼女は何かを呟く。無を発する。口を広げて、



「       」



彼女は何か、言葉を放とうとしている。

俺にその言葉は届かない


「どうした?」


次は、聞こえる。小さな、震える声で自身に言い聞かせるように。



「…そうね、そうするしか無いわね、

もう…私がやる、災禍の紅白、螢惑けいわくの…うん、何度目になるのかな、分からないや」


隣の少女は初めて見た時の様なあの哀愁の空気を纏う。目も当てられない様な空虚な空気は涙を流す事無く泣く泣く無情に情熱に、心からの力を込める。



「ほう…螢惑にいわく?いい迷惑じゃ。刻々と常、日々ドクドクと流るる時と紅い血に。何の障害が起きぬとでも?生涯を

賭博に賭けても、地を幾度幾年も

駆け抜けても、白々しく。」


「応えるのならば、其れは無い。

さてさて、わしは今のう、

生きている事を感じたいのじゃよ。

これ以上狂ってしまう、その前に。」


「………そうカ、…なラ、死ネ、」


体を下げ、足を曲げ、


「なっ!?」


隣の少女は瞬時に飛翔した。羽が生えているかの如く。空を舞う。あの絡繰時掛けの白い虎。紅い羽を持つあの紅天白夜と呼ばれる機体に。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


生身で殴りにかかる。拳を前に巨大な金属の虎に、少女は殴りかかる。それに、呼応するかの様に無表情な虎は再び、動き出す。その拳を破壊するかのように爪を立て、空を切り裂く。



少女は避け、そして体を捻り腹部へと渾身の蹴りを入れる。頑強な無色の装甲に、それでも傷が付く様子は無い。あの、バケモノを……


そして、彼女は再び隣に戻って此方を向く。


虎の中からまたも、楽しげな声がする。


「おおっ!解ってくれたか!

わしは嬉しいぞ!死を持って生の享受を

破壊して!それでこそのこの人生じゃ!

約1000年間も外に幽閉されておっては

気が狂うわぁ。あははっ!」


1000年、外に幽閉?外じゃ自由も同然じゃないのか?一体、この少女には何があったんだ?

表情を変えることの無い、白い、虎の下には今、どんな顔が隠れている?


隣の少女は朦朧とした意識の中で

       再度言葉を発する。


片言と…

「わたしハ、なにモ、分からなイ、解りたくも

無イ、折角記憶は消してもらえたの二、なんデ、

私たちノ、邪魔をすル?」


今、何も無かった彼女の手には一振りの切先からかなごまで全体が青く鈍く黒光して、刀が大太刀が収まっている。

バケモノを刺した時に持っていたであろう刀。

あの時の俺を彼女と共に助けてくれた刀。

二重になっている二又の蒼い刀身。

その青の中におびただしい量のが赤黒く刻まれている。柄も鞘も無いその刀は。

あの時には見えていなかったあの刀は。彼女の手元から溢れる程の力を発する。それが周囲を、悲哀を越えて、浸透し包み込む。まるで、感情が気化したかの様に広く深くこの紅い空の様に濃く溶けていく。無理矢理を繕い貫いた様な笑顔を浮かべ、


「さきト、後ろ二、さがっテ、私ハ、天使ダ……」


彼女は俺に言う。


俺は茫然と、圧倒される。数秒まで隣に立ち尽くしていた少女に。


「あ、ああ……」短く答え、背後に下がる。


彼女は、デストラクション・ナイトメアは

言葉を放つ。天と地を裂くように。

息を吸い込み─



「っふぅ─────」




壊悪滅夢ヴァンダライズレイハツ威罪薙イザナギハライ」




────────横薙ぎ──────────





その一太刀は、巨大な岩石を消し飛ばす程の速さと力を解放する。岩石?それでは軽く余りにも脆い。






[──────────────────]




斬られた空気は前方に飛ぶ。切先から手の甲、腕、肩、腰、足、身体の全ての力を込めて。


[コォォォォォォォォォォ!!!!!]



太刀筋は止められる事無く

静寂に力強く音を立て白虎へ向かう。


「なんつう力だよ、はは……」


嵐の様な風が巻き起こる。純白の、地面が抉れる、この広大な大地の端よりも遠くまで空間が削れていく。


「なっ、なんじゃと⁉︎」


一振りの刹那、紅空に舞った白虎は削られていく空間に呼び戻され、動きが鈍くなる。遠く広がる太刀筋に引かれ、どうにか突き放そうとするも、


壊悪夢滅ヴァンダライズムジョウカサネ雩黎仮羅クリカラ巫導フドウ


悪夢の破壊者は、間髪入れる事すら無く、右上から左下へと切先を躊躇無く、力を込めて振り下ろす。動きすらも見えないほどの速さで。次は地面にヒビが入っていく。削れて脆くなっていた純白の地面には強大過ぎる力が全てを断つ。紅い空までにも切れ目が現れる。


そして、彼女は

三撃目を繰り出そうとすると同じくして


「壊悪滅…」


刀を握ったまま、立ったまま身体を横に倒す。倒れ込んだといった方が正しいだろう。無茶をさせてしまった……記憶の無くなったばかりの独りの少女なんかに。俺に出来る事が有ったと言えば嘘になるが、無力感が体を包む。



「はあ、とんでもない力じゃ、

名前だけは聞かされておったが

本当にいいものじゃのう、約千年振りの

人間との会話も良かった良かった、

これで終わりは勿体無い。」


悪夢の破壊者が声を轟かせる。

「私ハ、まダ、終わってなイ!!」


「ほう……面白い、まだ動けるか?

ああ、本当に、白ける程じゃ、

興醒めじゃよ、狂が冷めた。

これで終わりじゃ、またいづ何処いずこかで」


「ここデ、もウ、終わらせル!!」


「そうかい、そうかい、気分爽快

良い気分になったといえど無理に

動くのは止めてもらいたいのう、

折角のこれからの遊び相手じゃ。」


「わしのことを誰と勘違いしてあるのかは知らぬが、小僧、白金の少女を連れ帰ってやれ。」


「あ、ああ分かった。そうさせてもらうよ」




─────────────────────




結局、何も出来なかった…そう思いながら俺は

彼女、デストラクション・ナイトメアと名乗る

1人の少女を担ぎ、家の、玄関の前に到着した。

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