井藤砦7
「うおぉぉぉ」
戦いの中でか、木が生い茂る中を進撃したせいか、甲四郎の髪はザンバラ髪になり、その髪を棚引かせながら獅子のように尻餅をついた大将の元へ飛びかかる。
甲四郎は手にした短槍を、倒されもがいている大将の胸を一突きし、すかさず刀を引き抜くと、雄叫びをあげ大将の首に一刀を加えた。
が、鎧を着用しているせいもあり、一太刀では首は落ちず、三割ほど胴体から切り離された首と胴体から赤い塊を放出させ、ドサリと大将は崩れ落ちた。
甲四郎は、崩れ落ちた大将の眉庇を掴み、二太刀目を入れ、どうにか胴体と首を分離させる事に成功した。
「大将討ち取ったりぃぃ!」
甲四郎は高々と大将の首を掲げ、もぎ取った首からしたたり落ちる血と膿状の何かを浴びながら周囲を見渡した。
× × ×
「降伏する者に手出しはするな、我等は樋野を守る味方ぞ」」
三郎兵衛は砦内に侵入し勢いに乗る味方に指示を出すと、深く息を吐いた。
「やっと終わった」三郎兵衛の胸中にその想いが染みわたり、穏やかな表情に戻って行く。
黒田三郎兵衛則久は本来戦を好む猛将では無く、領民達の平穏を望み、自らが身を置く領土のため、領主に忠実であろうとする実直で温厚な武将なのである。
温厚な武将の表情に戻った三郎兵衛の前に甲四郎が、得意げな表情で揚々と現れた。
髪はザンバラで、頭から首にまで浴びた血は瘡蓋のようになり、顔のほとんどを赤黒く変えていて、その片手には、砦の大将の首を持って現れた。
「三郎兵衛様、これがこの砦を守っておりました井藤十兵衛の弟、井藤六郎太の首に御座います」
甲四郎は、井藤六郎太と見られる首の髪の毛を掴んでいる。
それを土埃で汚れた木の台の上に無造作に置いた。
それを見るなり三郎兵衛の表情は一変し、戦闘中の鬼の形相へと変貌した。
「甲四郎!これ以上敵将を侮辱し蔑むか!」
甲四郎は三郎兵衛の怒りの意味も解らず、脊髄に木の棒を指されたように、身を硬直させ立ちすくんだ。
「戦とは、終われば敵将の戦いぶりも天晴れと称え、尊ぶものぞ!それを道ばたで拾った瓜のように扱いおって!」
甲四郎は初めて自分の犯した過ちに気づき、震えながら平服した。
腐れ外道の城 長野ゴリラ @goriranagano
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