第3話
スメイルのために熱い湯が用意された。
マーガレットの住む別館は、皇帝や皇后と比べ、遜色のない湯殿が自慢だ。
これは皇帝スメイルを、おもてなしするために、子爵家出であるマーガレットが、父親に頼み込み、皇室へ多額の寄付をさせ職人に作らせた自慢の湯殿。
「陛下、湯加減はいかがですか?」
スメイルの体を洗いに、マーガレットがやってきた。
「ちょうどいい…こんな夜更けにすまんな」
スメイルは、熱々の湯に癒されていた。
「とんでもございません。嬉しゅうございます…とっても」
湯煙の立ち昇る中、マーガレットは、慣れた手付きでスメイルの体を洗い上げていく。
「今日は色々衝撃的なことを聞いたんだ…」ヤレヤレ
「まぁ!衝撃的なこととはどのような?」
「いや、その…」ゴニョゴニョ
「わたくしには、何でもおっしゃってください」
「…わたしの夜伽が…下手なんだそうだ…」
「……」
「まぁ!!誰がそんな失礼なことを?陛下がお可哀想ですわ」
少し間をおき、マーガレットが答えた。
「ダリアだ…」
「皇后様がですか!?大人しく、従順なお方だと思っていましたのに…なんて失礼なんでしょう!」
マーガレットは、他の愛妾達とは違い皇后を敬い敬意を払ってきた。
「残念ですわ…許せませんね…」
話をしながらも手を動かし、スメイルの体を隅々まで洗い上げた。
「ダリアが帝国の為に尽力してきたことは理解している…だが、愛らしさが足りん…」
「えぇ、そうですわね陛下!!次は歯を磨き上げて行きますわ!」
ここでは全ての世話はマーガレットが行う。
マーガレットは口を大きく開けてみせた。
釣られるようにスメイルも大きく口を開ける。
「あーーーーん…」ムワン…
「おぇっ…んっ……ゴホンッ……失礼しました…」
(陛下の為に耐えてみせますわ!)
「わたしは口も臭いと言われた…」ガックリ…
「……」ゴシゴシゴシゴシ
マーガレットは歯を磨きながらも、陛下を傷つけないために、次に発する言葉の一手に思考を巡らせた。
「芳醇な香りにございます」
(…くっ…わたくしはなんて失言を……)
焦るマーガレット。
「芳醇だと…わたしはワインじゃないんだぞ?」
「…ほのかに香る程度にございます…」
(やだ、陛下を傷つけたくない…)
「マーガレット、正直に話せ!!」
ギロッとマーガレット睨むスメイル。
まるで、蛇が蛙を睨むような緊張感が漂う。
「臭いません…好きな香りでございます」
「おい、マーガレットそなたを信じているのだぞ!!本当のことを話さないと、わたしを欺いたことと見なし不敬罪とする!!」
スメイルは、ただ真実が知りたかった。
「…そんな、不敬罪だなんて……わたくしは陛下を傷つけたくないだけでございます」
「いいや、今日からマーガレット、お前は正直なことしか言ってはならない!傷つけたくないだとか、酷いことは言いたくないなど、そんな戯れ言は許さない!!わたしは真実が知りたいのだ!!」
「そんな……お許しください…!」ガクガク
(真実を知ってしまったら大変なことになるわ…)
体を震わせ、懇願の眼差しをむけ許しを乞うマーガレット。
「わたしは口が臭いのか…」
「はい」
(正直に言わないと…)
「……そうか」ガックリ
項垂れるスメイル。
「とは言っても、少し酒臭い程度だろう?」
(今日はワイン飲んだから)
「排水溝に相違ございません…」
(正直に言わないと不敬罪…)
「…真実か?」
(嘘だと言ってくれ……)
「真実です!嘘ではございません!排水溝です」
(やだ、こんなこと言いたくないのに…)
「…そろそろ湯からあがる」
傷ついたスメイル。
「はい…」
マーガレットは、スメイルの体を拭き、寝間着を着せた。
気まずい沈黙が続く。
マーガレットはスメイルの頭を丁寧に拭き、オイルをたっぷりとつけブラシで整えた。
「陛下、横になってください。眠りにつくまで体をほぐします」
まず、マーガレットは湿らせた温かい布をスメイルの目に宛てた。
「目を温めていきますね。疲労回復に効果があります」ニコッ
「いつも思うが最高だ…気持ちがいい…ありがとう」
(控えめで愛くるしい女だ…)
「勿体ないお言葉です」
「…わたしは夜伽が下手なのか?」
スメイルは一番気になっていることを質問した。
この問題は、後回しにして良い問題ではない。
男として…そして皇帝としての沽券に関わってくるのだ。
「わたくしにはわかりません…」ゴニョゴニョ
「夜伽が下手ですまなかったな」
(敢えて認めてみるか…)
「とんでもございません!」
(やだ陛下、どうしちゃったの?)
「いやいや、演技までさせてたんだ」
(どっちだ…?下手なのか?下手じゃないのか?)
「陛下のためならわたくしは大女優にさえなれますわ!」
「つまり演技をしていたのだな…?」
(クソッ…ダリアの言っていたことは真実だったのか…?認めたくない…女達がヒィヒィ感じまくっていると思っていたのに…あれが演技だと…?)
「はい…申し訳ありませんでした」ジワッ
マーガレットの瞳に涙が浮かぶ。
スメイルは目に宛てた布を剥ぎ取り、マーガレットの手を取った。
「…もう演技などするでないぞ!わたしを欺くな!」
(潤んだ瞳が美しい…平凡な茶色な髪が今日は一段と艶があるように見えるのは気のせいか…?)
「陛下…すみませんでした」
「ならば試そう…ダリア、君が演技をしているかどうか?フフ…今から君に触れる…いいか?」
(演技などしなくともそのままで良いのだ……ありのままを見せておくれマーガレット…)
「え?今日は何もなさらないと…」
(えっ…?え……?話が違いますわ…)
「涙で潤み、湯で火照ったマーガレット、君を見ていたら、わたしの息子もこんなに大きくなってしまった」ベロンッ
「まぁ…」
(…デカすぎる…何度見てもキツイわ…)
「責任をとらないと不敬罪に処するぞ!」
(なんちゃって~)
「オホホホ…陛下ったらイヤですわ」
スメイルは乱暴にマーガレットの衣服を脱がし、露になった熟れた肌を舐めていった。
ゆっくりと唾液をたっぷり含ませ、舌を転がすように動かし、マーガレットを味わう。
「あぁ…うっ……うぅ……」
(……少し触れる程度だったはずなのに…忠誠心!いつものように忠誠心を示すのよ!!)
堪えきれずに声が漏れる。
「もっと声を出していいぞ、耐えるな、我慢するな」ペロペロ
(肉付きの良い柔らかな体だ…でかい尻もそそられる)
「あ゙ぁ_うぅ…ぁ…くぅ……」
(耐えなくてもいい…もう、耐えなくてもいいのよ!)
「先程は演技していたなどと戯れ言を抜かしていたな?んっ?感じているのか?んっ?」
(体が仰け反り腰が浮いているな…しっかり感じているではないか!)
「マーガレット、君は美味しい…堪らないよ」ハァハァ
スメイルは豊満で愛らしいマーガレットの体に触れ高揚し、思わずきつく抱き締めた。
「んーーーーーっっ…!!!
(欺いてはいけない!!!)
「死ぬーーー!!マジで死ぬっ!!!」ハァハァハア
「死ぬ程幸せか?」ニチャァ
「ヒィッ……」
(怖ッッ)
スメイルの笑みに戦慄が走るマーガレット。
「そうではございません、陛下!苦しいのです」ハァハァ
(死んじゃう…)
「陛下は筋肉質で力が強く重いのです!加減をせずに上からのし掛かられ、抱き締められたら死んでしまいます」ハァハァハァ
「死ぬ…?」
マーガレットは呼吸を整えながら冷静さを取り戻した。
「…すまない」シュン
「そして、虫が這いずり回っているみたいでございます!」
(虫は虫でもウジ虫…うっ…)
「え…?」
「突然、体中をべちゃべちゃぐちょぐちょと音を立てるように舐められ不快でございます!」」
(真実を言わないと……)
「感じていたではないか…?喘いでいたではないか…」
「死ぬ程気持ち悪く感じていたのです…」
(…この際正直にいったほうが良いですわね…)
「…本当に正直になったな…偉いぞ…」
「もう決して欺くことは致しません」
(良かった、褒められたわ!)
すっかり元気を失くしたスメイル。
「陛下、続きは致しませんの?」
(お願いします!断ってください)
「とてもじゃないが無理だ……できる気がしない」
「そうでございますか?残念でございます……」
(ありがとうございます)
マーガレットはすくっと立ち上がりローブを羽織った。
「何処へ行く…?」
「体中が汚れてしまいましたので、もう一度湯殿に行って参ります」
(早く体洗いたい…唾の臭いが堪らないわ…)
「あぁ…そうか」
(汚れって…わたしが舐めたからか…?)
「お休みなさいませ」ササササッ
マーガレットは足早に部屋を出ていった。
「ふむ…」
スメイルは難しい顔をして考え込んでいた。
「これまで見えていたものが真実ではない…」
「これからどうすればいいのだ…」
「クソッ…屈辱的だ…」
「…辛い…いっそのこと知りたくなかった」
「知らないままの方が良かったのかもしれない……」
自問自答しながらも夜は更に更けていった。
翌朝になり、スメイルの眠る寝室へマーガレットが訪れた。
そうっとベッドに入ろうとするマーガレット。
「おはよう」目玉ギョロ
「キャー!!陛下ッッ!起きていらっしゃったの?」
(いつもはこの時間ぐっすり寝ていらっしゃるのに…)
「眠れなくてな…何処へ行っていた?」
「陛下のイビキがいつもうるさいので、別室にて休んでおりました」
(欺いてはいけない…)
「わたしは迷惑をかけていたのだな…」
「迷惑なんてそんな…かけられおりました」
(欺いてはいけない…)
「眠れなかったのだ…わたしの見えてる現実と真実が違いすぎて………わたしは何か大事なことを見落とし、勘違いしているのかもしれない……」
「陛下?」
(いつもの陛下と違うわ…)
「見えている現実と真実の違い…これはわたしの回りの女達に限ったことか?……いいや、きっとそうではない…」
「…………」
(やだ、陛下…なんだか格好いい…)
「軽い軽食を用意してくれ、それから鍛練に向かう」
(この悶々とした気を払いたい…)
「かしこまりましたわ」
「今日は重鎮会議があるからな…家臣達との相違などもしかしたらあるのかもしれん…確かめねば…」
この日、皇后ダリアによって家臣達の最悪な相違が暴かれるのだった。
スメル皇帝のために私は石女になりました 志久谷 @nanao0926
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