異世界パヨク

蒼き流星ボトムズ

異世界パヨク

俺の場合は。

名を名乗るよりも「アフィアフィウンコマン」というハンドルネームを晒した方が早いだろう。


そう。

保守系まとめサイトの最大手『愛国速報』の管理人とは俺のことだ。


世間的にはニートの俺も。

電子の海ではそこそこの名士であり、保守系の論客としては我が国の百傑に挙げられたこともある。

だからこそ俺は左翼の手口にかなり詳しい。

何せ朝から晩まで左翼叩きに邁進し、一部の先鋭化した信者からのタレコミもかなりの量だったからな。

(何故か京都人からのタレコミが多く、京都市議会や京都府議会の闇に関してはかなりのネタを握ってるつもりだ。)


どれくらい左翼の手口に詳しいかって?

ははは。

この異世界で奴らの手口を再現出来る位には詳しいw




異世界に来る連中には2種類が存在する(と思う)。

嬉々としてやって来る奴と、不本意に飛ばされる奴だ。

で、俺は後者。

だってそうだろ?

愛国速報だけで月間200万円近くの収入があったんだぜ?

溜めたカネで購入した賃貸物件にもちゃんと客が付いていた…



『参ったな。』



俺は異世界のショボい村落を見渡す。

村人の身なりや街並みを見れば、せいぜい中世レベルの文明度だ。

我が国の歴史で言えば室町時代くらいの社会…


で。

今、俺の前に座っている老人が村長らしい。

この村では唯一の騎士身分。

彼の語る所によれば、若い頃は領主に従い戦場でそこそこ活躍したらしい。

で、退役手当代わりに村長のポストが与えられた、とのこと。



「それでさあ。

キミ、特技とかある?

職人仕事が出来るとか? 剣術の心得があるとか?

あ、牧畜経験あるなら村としても歓迎するよ?」



まとめサイト作りが特技と言えば特技なんだが、この世界にはネットが無さそうなので黙っておく。

中世で役に立ちそうな特技はないなあ。

父方の実家が農家なのだが、農作業を手伝った記憶はない。



「折角来てくれたところ悪いんだけどさあ。

村にはゆとりがないんだ。

技能の無い人を受け入れる余力はないんだよ。

税金もどんどん上がるしねぇ…

あっ! これは政治批判じゃないよ!

批判じゃないからね!」



政治サイトを運営していた俺でなくとも、この村長の反応を見れば…

この世界の相場観は大抵わかるものだろう。



『税金、そんなに高いんですか?』



「あ、いや!

納税は臣民の義務だから、別に…

納めろと言われれば…   一応納めるけど…

ただねえ。

今年は不作の予報が出てるのに…

七公三民に引き上げられてしまった…」



『七公…ってキツい税率だと思うんですけど。

そんなので生活出来るものなんですか?』



「生活出来る訳ないだろうが!!!!


…ハッ!

あ、いや別に領主様には領主様のお考えがあるだろうし。

不満とかは全然ないけどね。

本当だよ、この村の人間は全員領主様を支持しているからね。」



『実は俺。

故郷では政治学を修めておりまして…

税負担の軽減や民間への還元を専攻しておりました。』



「…ゴクリ。」



村長の目の色が変わる。

わかるよ、その気持ち。

生活に困ってる奴って藁にも縋りたいよな。

俺さあ。

オマエらみたいに困り果ててる連中を甘い言葉で勧誘して、権力基盤にしている奴のこと…

よーく知ってるんだよ。

下手をすると日本じゃ俺が一番詳しいかもな。



「ぜ、税負担が…  減るの 減るんですか?」




『俺の政治技術なら初年度には一公九民。

翌年以降は零公十民に持って行けますよ。』



「一公!!!!???  

え? え?  え?

あわっ  あわわっ」



わかるよ。

この世界にはさあ。

まだこの手口を使った奴が居ないんだろうな。



『え? 

一公九民ってそんなにおかしいですか?

俺の居た世界じゃそんなに珍しい話でも無いんですけど。』



「えええええええええ!!!????」



『まあ俺は余所者ですし、この世界じゃ何の役職もありませんしね。

お役に立てそうもないので村からも出て行きます。』



「ちょ! ちょ! ちょ! 

チョ待って!」



『ん? 何か?』



「あはは。 折角こんな辺鄙な村に来てくれたんだから!

泊っていって下さいよお。

あ、何か食べます?  アルコール行けるクチですか?

あ、コイツ孫娘です! 今、お酌をさせますんで!」



『あー、これはこれは恐縮です。』



まあ、こういう反応になるわな。

俺だって税金を下げてくれそうな旅人を見つけたら、とりあえず引き留める。

誰だってそうするよな。



『俺が領主になったら、一公九民。

翌年から零公十民。

兵役は全免除。

所得税・住民税・消費税は全廃とします。』



村長とそのシンパの前で、俺はそう公約する。

当然、一同は眼を見開いて唸っている。



『別に俺の発言を領主に密告して貰っていいですよ?

貴方達に負担を掛けるつもりはないんで。』



「あ、いや! 密告なんてそんな!! 

しませんよ! そんなこと!


…大体、もうアンタを泊めてしまいましたし、領主の矛先は私にも向かうと思います。」



だよねー。

封建的村落って自然にそういう統治方法になるよね。

日本も中国もヨーロッパも似たような歴史を辿ってるし、これって構造論だよね。



『俺からは以上。』



「え!? あの!

領主を倒してくれるんじゃ!」



『いやいや、余所者の俺がそれをやっちゃったら侵略でしょう。』



「あ、いや。

税金下がるんなら侵略でも何でもいいですけど。

大体、村落が侵略者から自衛するのって、負担増を防ぐためですよね?

減税を公約にした外来勢力なら、それって寧ろ解放者ですよね?」



村長結構インテリだな。

この世界の文明レベルからすれば、相当なものだぞ。



『農村が都市を包囲する。』



俺はワンフレーズだけ、意味ありげに発した。

毛沢東よ、アンタの手口借りとくぜ?



「「「おおおお!!!!!!」」」」



その後中国共産党は農民を大量に殺すんだが…

まあ、ここじゃ誰も知らないから別にいいだろ。



『俺は領主や君主にとって代わりたい訳じゃない。

皆の同志として理想の社会を作りたいんだ!!!』




「「「理想の社会!!!???」」」




『税金や戦争のない、平和で優しい世界だよ!!!』




「「「優しい世界ッ!!!!!!!!」」」




左翼の手口が知れ渡った日本では、こういうスローガン掲げる候補は落選しがちなんだけど。

まあ、コイツら免疫なさそうだしな。

感涙してる馬鹿もいるくらいだ。

仕方ないよ、左翼思想って初見殺しなんだもん。



この手は博打だった。

但し、勝率の高い博打だ。

しかも俺には命の他に何も失うものはない。

敗北条件は、俺の存在が体制側に露見し、かつその危険性が認識されること。


この世界は見た感じ密告社会っぽい雰囲気だった。

(街道に懸賞首の似顔絵がペタペタ貼られていた。)

が、密告されにくい気がする。

何故って?

密告を最初に受け付ける役目を担ってあるであろう下吏階級が極めて貧しい暮らしをしていたからだ。

現に村長ですら飢えに苦しんでいた。


俺がこの村に到着して半月ほどで、領主が殺された。

厳密に言えば領主一族だ。

皆に引き連れられて城館に到着すると、身なりの良い男女の死体がムシロの上に無造作に転がされていた。

驚いた事に捕吏や獄吏のような下士のみならず、騎乗用の鎧を着用した正規の騎士も革命側に付いていたことだ。

てっきりこの階級からの攻撃を受ける事を覚悟していたのに…


俺が他人事の様に領主一族の死体を眺めていると、体格の良い騎士が近寄って来る。

どうもこの男が実行犯のリーダーらしい。。



「貴殿は兵役の免除を公約にしたらしいが、それは誠か!?」



『ああ、免除するよ。  アンタも無理やり徴兵されてるなら帰ってくれてもいいし。』



「いや! 提案はありがたいが! 

確かに親の臨終に帰郷することすら許されなかったが…

し、しかしだ!

ここで兵役を免除してしまったら軍隊は解散してしまうぞ!

誰だって帰れるものなら故郷に帰りたいのだから!」



あのさあ。

ここ、俺の国じゃないんだわ。

勿論、日本で自衛隊が勝手に解散したら大事だよ?

不慮の事態に対応出来なくなっちゃうからね。

でもここ、俺の国じゃないんだわ。

そりゃ俺も日本や日本人が危険に晒されかねない法案には全て反対だよ?

でもここ俺の国じゃないし、アンタらも人種的に俺とは関係なさそうだよね?



『俺の望みは世界平和です!!!』



「あ、いや!

それは素晴らしい志なのだろうが…

実際問題、軍隊が解散してしまったら

防衛や防諜、治安に問題が出てしまうだろう。」



『全世界が税金や軍隊もない平和国家ばかりになれば大丈夫です!』



トロツキーよ、オマエのドグマ借りてやるぞ!



「し、しかしそんな急激な変革が全世界で突然起こる訳も無く!」



『世界同時革命。』



「い、いや!  それなりの成算は感じるが、リスキーだ!」



『人生は美しい。未来の世代をして、人生からすべての悪と抑圧と暴力を一掃させ、心ゆくまで人生を享受せしめよ。』



「…やるのか?」



『同志よ。

そんなに無理をする必要はない。』



「ど、同志!?  私はまだ君に加担すると決めた訳ではないぞ!」



『平和や幸福を望む者は全て同志!

何故なら俺はアンタやアンタの家族のそれを願っているから!!』




左翼には名言が多い。

志の高い奴と嘘を恥じない奴の集まりだからな。

幸か不幸か俺は後者だが、まとめサイトを管理していただけあって、左翼名言はそこそこ暗記している。

それがこうして役に立っている訳だ。

何気なく見渡すと、大半の人間が場の雰囲気に酔っており、醒めているのは俺だけだった。

仕方ないだろ?

俺はこういう左翼的な手口が大嫌いんなんだから。



『革命は容易い。

俺が志を貫徹すれば良いだけなのだから!』



「いや。 そんな抽象的な…」




さあ、ここから先は山本太郎タイムだ。

勢いで、押す!



『税率を一公九民に下げまぁす!!!!』



「「「「うおおおおおおおお!!!!!」」」」」



群衆がどよめく。

そりゃそうだ。

税金が下がるんだから。



『翌年から零公十民にしまあああああす!!!!』



「「「「うツきゃああああああああ!!!」」」」」



愚民共が猿の様に騒ぐ。

そりゃあそうだ。

税金が無くなるんだから。




「兵役は全免除しまあああああす!!!!」




「「「「同志ばんざーーーーい!!!!!!!!!!」」」」




多くの武官が盾を投げ捨ててしまった。

捕吏や獄吏に至っては、警杖を叩き折って踏みつけている。

若い兵士は両親の名を呼び涙を流している。




『所得税・住民税・消費税は全廃としまあああああああああす!!!!!』




「「「「「「「「「ウッキャアアアアアアアアアア!!」」」」」」」」」」」」」」」




興奮した皆が猿の様にウキウキ叫びながら城館の庭を転げまわった。

領主一族の遺骸も執拗に踏みつけられ、もう原形を留めていない。

気持ちはわかる。

俺だって日本に居る時にそんな政策宣言を聞いたら財源を心配しつつ、とりあえずは喜ぶよ。

まあ、ここは俺の国じゃないから財源なんて知った事ではないけど。

だって俺、オマエらみたいなガイジンの国庫やら長期的未来がどうなろうが興味ないし。




『同志諸君! 共にッ!優しい世界を作りましょおーーーー!!!!!!!!!』



「「「「ウラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」」」




ここから先はセオリー通りにやった。

まずは領主一族の名の付いた地名を全て改名。

【平和池】やら【人民街道】やら【博愛地区】やら。

こういうのは捻らずに左翼の好きそうなネーミングに徹すればまず外さない。

次いで領主一族の私的な宝物を換金して、領民全員で文字通り平等に頭数分配。

愚民共は涙を流して感激していたが、俺はまあ別に。

ガイジンのキモい銅像やら、ガイジンのキモい食器やら…

コイツらにとっては垂涎の宝物のようだが、まあ正直どうでもいい。

愚民共は機械的な平等分配に興奮し俺を神と讃えたが…

そもそも俺のカネじゃないし。

他人のカネなら幾らでも気前よくばら撒けるよ。


ここまでなら誰でも出来る。

現に中国史の民衆反乱を見てると、こういう気前の良い盗賊はいっぱいいる。

耳の長いアイツとかな。


もう一捻り。

俺は辻元清美の力を借りることにする。


ピースボートという遊覧船企画がある。

善男善女を海外旅行の名目で勧誘し、世界を回るという名目でさらっと東側諸国も回る。

時代の風潮もあるのだろうが、割とフリーセックス的な文化があり、その享楽的な側面に惹かれ縛られる者が居るのも確かだ。

俺は『愛国速報』で散々この船と辻元を叩いたのだが…

この手口、利用させて貰う!



『同志諸君! 俺はこの城館を私物化しない!

それどころか皆の為に役立てたいと思ってるんだ!

ここは人民全員が楽しく歓談する場所にしないか!?

みんな! お酒を持ち寄って着飾ってパーティーをしよう!』



勿論、この異世界に『合コン』の概念はないんだけどさ。

『お酒を持ち寄って着飾ってパーティー』って言われたら…

余程の馬鹿じゃない限りコンセプトを察するよね?

案の定、異世界人には水準の知性と水準の性欲が備わっていた。

男女の欲望に優るエネルギーはないのだろう。

異世界人は一瞬で合コン文化を吸収し、彼らなりの作法を生み出した。

俺は毎週合コンを開き、愚民共は涙を流して俺に感謝した。

合コンを切っ掛けに生まれた膨大なカップル・夫婦の数を鑑みれば、そりゃあ嫌でも感謝されるだろう。


ここまでやって、ようやく俺の地位は安定してくる。

革命は異常な速度で広まっているらしく、日々支配者階級の惨殺体が俺の元に運ばれてきた。



『年貢は一公九民。

翌年から零公十民。

兵役は全免除。

所得税・住民税・消費税は全廃!』



誰もが涙を流して俺に拝跪した。

俺がコイツラでもきっと同じ態度を取るだろう。



俺が革命を開始して最初の秋。

即ち、最初の徴税。

全世界が俺の一挙一動を固唾を飲んで見守ってた。

「本当に一公九民の公約は守られるのだろうか?

やっぱりアレは無し、とか言われたらどうしよう。」

愚民共はそんな目で俺を見ている。

故に、先手を打つ。



『同志諸君!

我々が正義の革命を開始してから最初の秋が来た!

そろそろ収穫だな!』



「「「ゴクリ!!」」」



『公約は守る!

約束通り一公九民!!!』



「「「うおおおおおおお!!!!!」」」



『また、検地は行わない!

一公の計算は同志諸君の自主性に任せるゥゥうううう!!!!!』



「「「ウッキャーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」」



だって俺は余所者だもん。

狂信者は居ても、家臣も手勢も居ないんだぜ?

検地なんてしようがないじゃないか。



「ど、同志!  検地をしなければ年貢が誤魔化されてしまう可能性がありますが…」



『自主申告の件だが…

俺は一点の疑念も持っていない。

なぜならっ!

俺と同志諸君は善意と正義を共有しているからああああ!!!!!』




「「「「ウッキャーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」」」



まあ、所詮政治など言った者勝ちの世界だ。

どんな発言をすれば口先で愚民を騙せるか…

俺はそういう手口を誰よりも知っていた。



こうして一公九民は実践された。

明らかに過少申告であり、平均納税率は10%どころか2%もいいところだった。

愚民共は余程気まずいのか、必要以上に俺の機嫌を取る様になり


「同志の全ての街に銅像を建てましょう!」

「同志の肖像画を全ての学校に飾りましょう!」

「同志の徳を称える陵墓を築造しましょう!」


などと見え透いた追従を始めた。

わかってるのか、オマエら?

この異世界の生産力でそんなアホな政策を実行しようと思ったら…

それこそ七公三民でも足りなくなるんだぞ?


兎にも角にも、愚民共の手元には莫大な穀物が残った。

当然、愚民共は持て余した穀物を一斉に投げ売りした。

そりゃあそうだろう。

来年は零公十民で穀物が今年以上に入って来る事が確定しているんだから。

愚民共はあり得ない安値で穀物を現金化した。

そりゃあそうだ、カネが無いと毎週開催されてるコンパで異性の目を惹けないからな。


穀物価格は大暴落した。

データを見る限り、異次元の大暴落だ。

そりゃあ、そうだろう。

俺がそうなる様に誘導したのだから。



この異世界の首都には人間の皇帝が居て、当然俺を敵視していた。

何度か討伐軍を編成しようとするが、誰も志願しない。

昇爵目当てで名乗り出た貴族は所領内で領民に惨殺された。

そりゃあそうだろう。

搾取されている被支配者層にとっては俺と戦うメリットがない。

皇帝は封建領主に見切りを付け、慌てて常備軍を整え始めた。

ここまでは全て想定内。

世界の教科書で百回くらい見た展開だわ。


このタイミングで俺が仕込んでおいたカードが発動する。

言い忘れたが、俺、帝都の先物取引所で穀物を大量に空売りしてたんだよね。

ゴメンゴメン、言い忘れてたわw


ほら、テポドンのタイミングで日経平均が売られてるって説が濃厚じゃない?

俺、あの現象の特集記事を書いたことあるから詳しいんだ。

一回やってみたいと思ってたんだよね。

こちらが想定していた以上に帝都は大混乱しているらしい。

帝国の上流階級はその殆どが先物の有力プレイヤーであり、それぞれの軍隊を維持する為に大量の買いポジションを抱えていたそうだ。

俺は儲かったのだが、帝都は阿鼻叫喚らしい。

何人かの大貴族が借金して相場を張っており、この九民ショックで服毒自殺してしまったそうだ。

いやあ同情するよ、可哀想になぁw


上流階級の大量破産劇を目の当たりにした皇帝は最後の国力を振り絞って革命領に攻め込んで来た。

常備軍と貴族軍の折り合いが悪い欠点を除けばまあまあの練度であり、俺は素直に感嘆した。

武装が華美かつ高性能なのは本当に素晴らしく、1人の男として憧れた。

特に俺を感激させたのは、四頭立ての戦闘馬車である。

座席部分に大型攻城弩が備え付けられており、その機能的かつ優美なフォルムは見るもの全ての感涙を誘った。




結果としては、俺のワンサイドゲームだった。

「逃げろ、降伏しろ、媚びろ、だが帝国の農地は切り取り次第とする。

略奪品の上納は不要。」

俺の通達はそれだけである。


帝国軍は一度も会戦の機会を得ないまま進軍を続ける羽目に陥った。

流石の奴らも、革命勢力を一兵も見かけないとは思いもよらなかっただろう。

当然だ。

兵役が免除されたのだから、誰も戦わないし、帝国に制圧された時に殺されたり徴兵されそうな壮丁は全員逃げ回って隠れ潜んでいた。

大の男が女子供を盾にして全力で逃げ隠れるのだから、帝国軍が戦闘の機会を得られないのは必然である。


帝国軍が革命領の奥深くに迫って来た頃。

手薄な帝国領は革命勢力の有志(要は私掠団である)によって蹂躙されていた。

別に俺は「攻めろ」とは一言も言っていないが、「反革命分子の財産・子女を奪うのは絶対的正義」と普段から吹き込んでいたからである。

革命勢力の中でも、最も邪悪で残忍で強欲な連中が兵隊が出払った帝国領で殺戮の限りを尽くした。

当初、俺も帝国軍もその惨状知らなかったが、川上から民間人の遺骸が大量に流れて来るのを見て帝都で何が起こっているのかを察した。

どの死体も必要以上に棄損しており、特に婦人の死体は筆舌に尽くし難い状態で流れていた。

河が血で染まるどころか、血が河を流れていた。


故郷の惨状を目の当たりにした帝国兵達は文字通り壊乱しながら帝都に戻ろうとした。

が、容赦の無い落ち武者狩りで彼らは皆殺しにされた。

人間は強い者には弱く卑屈だが、落ちぶれた者や戦意の無い者には強く残忍極まりない。

帝国軍は一戦もさせて貰えないまま、一方的に虐殺されて全滅した。

いやはや酷い話であるw


俺が周囲に促されて帝都に入った頃には、既に帝国人は絶滅しており。

若い女や美しい女のみが下卑た目的の為の奴隷としてかろうじて生存を許されていた。

若くも美しくもない女は一人も見かけなかったので、我が革命盗賊共は性欲よりも殺意を優先したのだろう。



一応俺は『やめとけ』と止めたのだが、何人かの盗賊が帝都跡地で王を名乗って徴税を始めた。

大半の者は反動分子の烙印を押されて一族諸共惨殺されたが、革命圏の最遠で割拠しかつ善政を敷いた者だけが生き延びた。


その後も革命は自動的に広がり続け、遂にはゴブリンやらオークやらも嬉々として自種族の王族の惨殺体を持参するようになった。

俺が税の免除を宣言すると、皆が涙を流して拝跪してきた。

一番酷かったのは人類と何百年も争い続けきたコボルト族である。

或る日、大量の荷車を引いてやって来た彼らは、満面の笑みでの無数の惨殺体を披露した。

王侯に始まり田舎の小領主に至るまで、徹底的な殺戮劇が繰り広げられたらしい。

コボルトは「無条件降伏」を宣言しながら、俺に無理やり遺骸の山を検分させた。

どれもこれも激しい拷問の形跡が残っており、俺の心にもトラウマが刻まれた。

彼らは卑屈な笑みを浮かべながら属国化を願い出たが、俺は彼らの独立を保障しテンプレ化した無税化と徴兵免除を宣告した。


コボルトは発狂せんばりに歓喜し、犬の様に這いつくばって俺を崇めた。

いや、別にいいんだけどさ。

俺、オマエらの敵対種族だぞ?


果実を確定させたかったのだろう。

コボルト達は必死に俺へ王冠や王杖を贈呈しようとした。

それってあそこに吊るされてる拷問死体から剝ぎ取ったものだよね?

怖いからやめてくれるか?

俺は即位を固辞すると彼らに合コン文化を教えてやった。

そういう遊びに免疫のない種族だったらしく、劇的に感謝された。

キモいのでコボルト領には一歩たりとも立ち入ってないのだが、彼らの中で合コンは宗教的神事になってしまったらしく、毎日合コンしているそうだ。

後年、コボルトの行商人と会話する機会があったのだが下卑た表情で

「やっぱり合コンと言えば王様ゲームっスよねw」

と追従された時は、あまりに笑えない皮肉に世の無常を痛感させられたものだ。


革命が一巡し愚民共の略奪先が消滅すると。

彼らはもっともらしい理屈をコネて身分制度を再構成し始めた。

世襲一族から奪った革命の果実は、やはり我が子に世襲させたいらしい。

やれやれ、親の顔よりみた景色だわ。



結局、革命の理念は早々に腐敗した。

俺が天寿を迎える頃には、各地の革命貴族2世が税率を引き上げ始めていた。

大体、七公三民くらいまで増税されていたな。

愚民共が死の床にある俺に哀願してきたので

「永久革命」

の概念を教えてやった。

実際の中国共産党を知っている俺からすれば噴飯もののスローガンだが、コイツらは純粋なのだろう。

涙を流して復唱した。

その標語を顔面に刺青した馬鹿までいたので、まあ刺さるフレーズなのだろう。

そりゃ刺さるよな、元の世界で屈指の革命家の台詞なのだから。



総括する。

俺は程ほどに旨い物を喰い。

まあまあの頻度でセックスをして。

ただの一度も耕さず。

革命幹部以外の万民に愛されて。

畳の上で死んだ。



この先は知らん。

だって俺の国じゃないし。

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