童話 華つぼみ
ふみその礼
第1話 華つぼみ
だれも見なかった
ひとつも聞こえなかった
霧が流れる山のいただき
たむばりんが いちどだけ
すぽむ と鳴って
そこに
ひとではない ひとではない ひとではない
ひとが
思いのたけを この下界に
届けてくださいました
それが
その すぽむ でした
それから 世界は
ずっと しずかに しずかに
ただ
こころを待っていました
みなを わたしを
すべての毛深いどうぶつたちを
やさしく やさしく
つつんでくれる
こころを
すぽむ を待っていました
みんなを
みんなを愛し
だれもが信じあい
信じあえるこころを
持ちたい
そんな思いを
すぽむ を待っていました
ショオー…ナム
と呼ばれる 男の子
ショオー…ニョ
と呼ばれる 女の子
ふたりは村から
山の上へおくられた
ささげものでした
ふたりは山を
のぼって のぼって
すこしだけはなれ
やっぱり
すこしだけ助け合い
のぼっていきました
のぼるにつれて
とても霧がふかくなり
しかたなく
ふたりは
手をとり合って
のぼりました
霧のない山のいただきに
待っていたのは
ひとではない ひとではない ひとではない
ひと
女神ではない 女神ではない 女神ではない
女神
でも ほんとうは
だれも そこにはいなくて
ふたりが心の目で やっと見えたのは
これから開く
語るに
この山へのぼることは
むかしへむかしへかえること
いま おまえたちは
いちばん初めの時に かえってきた
これからふたりで
この いのちの華を咲かせてごらん
村の人は
街の人は
そして大きな国の人々は
あやまちをくりかえすかもしれない
そんなおろかないのちを
この華は生み続けるのかもしれない
それでも いのちの華を咲かせるか
ふたりで考えてみなさい
ふたりはこころの中で話し合いました
これから生まれるいのちは
罪深いのかもしれない
でも 生まれるはずのいのちを
とどめることは
もっと なによりも罪深いこと
ふたりは答えを出しました
これから生まれるいのちの罪は
すべてわたしたちが背負います
だからいのちの華を咲かせてください
ふたりはその場所でこころを結び合い
華のつぼみが開くことを願いました
とおい下界にいる人々は
華のつぼみが開く音を聞きました
たむばりんが鳴るような
すぽむ という音
その音は
ふたりの願いも届けてくれました
だから
この世界にうまれる人々は
いのちの罪をおかす度に
あのふたりといっしょに
深いこころの傷を
負うようになったのです
童話 華つぼみ ふみその礼 @kazefuki7ketu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます