異世界修行へ

あれから9年。今や16歳となった少女、柊ミノリを織りなす環境はぐっと変わった。

祖母は死に、ミノリは知り合いのいないそこへ一人移り住んだ。無論、親は引き留めたが、押し切って出て行った。しばらくすると妹が生まれた。

高校生になり、背も伸びた。幼さの目立った顔立ちも凛とした顔立ちとなり体つきも丸くなった。

黒髪を背まで伸ばし、少し切れ長の眼を瞬かせ、背をピンと伸ばし歩く姿には誰もが振り向く立派な美少女になっていた。

そして…


「ただいま戻りました」

「うん、おかえり」


祖母の家が神域となってしまった。

龍のお爺さんの主こと神様は魔神らしい。

魔神と言っても己の魔術を極めた末にその世界の大神様に見初められ神上かむあがりをした元人間だそうだ。他にも武神、医神、鍛治神などなど様々らしい。

別世界から来たという彼女はすぐさまこの家に居付き、近所の日本古来の神と釣りや食べ歩きをする程順応していた。


「シュミナさま、大御魂龍王様とタツタヒメ様とミヒカリヒメ様と秋田旅行に行ってたのでは?」

「うん。昼帰ってきた」


こくんと頷く彼女、シュミナはミノリよりも頭一つ小さい。なんでも異世界から接続しているせいで体を保つのにも一苦労しているらしい。銀髪は肩で切り揃えられ、翡翠の瞳は光を輝き、エメラルドにも勝る輝きを放っている。少女と幼女の中間ぐらいの見た目は可憐でありながら、本人の気性のせいかどこか妖しさを醸し出す。初めて目にかかった時はミノリも思わず見惚れていた。


魔神である彼女はごく普通の少女のようにメッと指を立てる、省エネのために無表情だが。


「シュミナじゃないよ?帰属名はスミナヒメ。お姉様に名付けてもらった名前なんだから」

「スミナヒメ様すみません…お姉様とは?」

「先月、神様集会あったのって言ったけ?」

「はい、聞きました。その時にタツタヒメ様たちと旅行の予定を立てたと」

「その時に出逢っちゃったの運命の人に」


ポワポワと光を撒き散らすスミナヒメ。ミノリはそんなことに貴重な魔力を使わないで欲しいと切に願う。これでまた魔術師の襲撃があっても対処するのは龍のお爺さんか、彼女なのだ。

神様集会は全国の神が出雲に集まる月、つまり神奈月のことだ。未だこの神様は名前を覚えていないらしいがその時何かあったのだろうか。思案を巡らせるミノリを放っておき、スミナヒメは構わず会話を続ける。


「とっても素敵だったんだよ?女性なのにすらっとしてて母性もあって、お茶目さと美しさもあって…」

「それでお相手の方は?」

「アマテラスさま」


ミノリがごとっと荷物を落とす。スミナヒメの足に落ち、悶える。

それに慌てて、足の具合を見ながら尋ねた。


「あ、アマテラス様って、あの古事記や日本書記の?」

「うん、この国の主神様だね。いやぁ、びっくりしたよ。私達の世界の大神はね?いつまでもあくまで神上かむあがりでしかない魔神やら武神やらにずっと魔獣と人間のバランス調整任せて、怒り狂い続ける奥さん宥めすかすことしかしていないし全く出てこないのに、お姉様はね?仕事を持ち込んでまで働きながらちゃんと出席、新たな神達と会話を交わし激励されるんだよ?もうね、なんというか器が違うよね、主神としての器が」

「…すっごい早口」


普段、面倒くさがって「アレやって」とか「コレやっといて」ぐらい平気で言うスミナヒメが饒舌に早口で長文を捲し立てるさまにミノリは目を丸くする。


「お姉様、新参で少し肩身が狭い私を見てなんて言ったと思う?『其方、異世界の者らしいな。安心しろ、人から上った神も多くいる。それに私が母として、姉として見守ろう』って!もうさいっこう!!」

「きゃ、キャラが壊れた...」

「帰りましたぞ」

「あ、龍のお爺さん帰ってきた。行ってきますね?…龍のお爺さん、買い出しご苦労様です」


きゃーと体をくねらせる(なお無表情)姿に少し引き気味…というか恐怖を感じてミノリが立ちすくむなか、がらがらと玄関から音がする。

ミノリはすぐさま、とててっと逃げ出した。


「ミノリや、課題は?」

「まだです」

「風呂を沸かせておく。飯もわしがやろう。お前は課題を」

「はい。あと…」

「うん?」

「頑張ってくださいね?」

「?」


ミノリは鍛錬の道具を取りに裏の蔵へ小走りで行った。


「シャンヴォーヴ!あのねあのね!」

「あ、主さま、今からわしは飯の支度を!」


苦労龍の声に背を叩かれながら。


………………………………………………


巫女服風の小袖を見に纏い、袖をたすきで縛る。肘あたりまで露出させるが肌は見えず、黒いインナーが見えている。

首にはスカーフを巻き、鱗を隠して、必要最低限の甲冑のようなアーマーと薙刀を手に持ち出発の準備ができた。


ミノリはサクサクと落ち葉を踏み締め山道を行く。一応敷地内なので銃刀法で捕まる恐れは無い。最も外でも捕まる恐れはないが。


階段をどんどん登っていくと禿げた鳥居が見えた。だが、中は通らず横から通る。

奥には社が見えた。襷を解き袖口から献饌を置く。祀られている神はどうせおやつをパクパク食べているんだろうが、一応御神体なので置いておく。二礼二拍一礼を終えて社の上を見ると、真っ黒な猫が佇んでいた。これからいく場所に何故かいつも同行する猫だ。何が彼(彼女?)をそう駆り立てるのかはわからないがいつもだ。

神様から悪いことにはならないから安心しろ、とのお墨付きを得ているので連れて行っているが本当はなんだかんだで情も湧いたので連れて行きたくない。


猫がタイツに包まれた足に擦り寄ってくる。ミノリがしゃがんで顎を撫でるとゴロゴロと鳴らした。前までは猫だとか犬だとかに興味がなかったが今は断然猫派だ。


「行く?」


ナー、と鳴きながら尻尾をフリフリと揺らす。その様子に微笑みながら、ざっざっと歩き出し、鳥居を超えた。一人と一匹の姿は音も光もなく、極々自然に消えていた。



————————————————————————————


スミナヒメはオリジナル神様です。調べた限りだといませんでした。

司ってるのは水車。作った魔術は因果の反転、結果から材料を作る魔術です。

例えばスカーフは風ではためきますが、この魔術ではスカーフがはためくと風を起こしそれを操作主が掌握できます。

それと龍の眷属がいるため日本の神様だと龍系統の神様と仲良くなりやすいです。


それと、いつできるかわからないので魔術の説明を少し。

魔術はそれぞれに魔術の法則があります。結果は同じでも過程が違うと別魔術になります。1から魔術を生み出すのを【源流魔術】。他人の魔術の法則を借り受けて作ったものを【傍流魔術】といいます。

魔術師は魔術を簡略化して誰にでも使えるようにした【魔法】を生み出し、市場へ回すことで生計を立てます。それと源流魔術師は魔術の法則を貸し与えることで金を取ったりしています。

ちなみにベストセラーは次回出すとある魔術です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢を語れない巫女見習い。別の世界で修行中 荷車馬の泥愛好家 @9411

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ