EP.3 朝焼けじゃん(仮)前編

「あれ?何処だ?」




金田は目覚め見慣れない部屋の景色に驚く。




「やっと起きましたか。」


「本出。トイレ何処だ?」




本出がトイレの場所を教えると、金田はトイレに駆け込む。


やれやれ。と思いながらリビングにあるオーディオのアンプを入れ、音楽を流す。




「お前も好きなんだな。この曲。」




トイレから戻った金田。




「音が良いでしょう。」




得意気に言う本出。




「おう。てか何か食う物あっか?」


「昨日、韓国食品店で買った物ならあります。」


「見せてくれ。」




本出はリビングのテーブルに置いてあるエコバッグから購入品を取り出す。




「あ、それ飯田のエコバッグじゃん!なんで?」




テーブルに縦長で箱形パッケージのオーブン焼きノンフライポテチがオリジナルと


チーズグラタンの2種類、ミニヤックァとユガのスナック菓子を並べる。




「忘れ物です。昨日の記憶ありません?」


「ノレバン(カラオケルーム)に居た覚えはあるが、後はモルゲッソ(知らん)。」




案の定、当の本人は記憶無しか。本出は金田と話しながら手を動かす。


ハングルで書かれた缶の梨ジュース、とうもろこしのひげ茶500mlペットボトルを


テーブルに置く。




「酔い潰れて熟睡だったので、僕がここまで連れて来ました!」


「それで俺は今ここに居るのか~。ピルルミ クンキダになって悪かったな。」


「え?どういう意味?」


「フィルムが切れる。つまり、記憶を無くすって事だ。」




本出はソゴルユッス、ソルロンタン、サゴルコムタン、カルビタン、サゴルウゴジ、


コンピジ、ファンテクッのレトルトパックをテーブルに並べ終える。




「お、朝ご飯と言えば定番のソルロンタンと酔い覚ましのファンテクッがあるぜ。」


「あ、ファンテクッも酔い覚ましのスープに使われるですね。」


「おう。インスタントだとプゴクッが多い。食感も違うぞ。」




金田にソルロンタンのレトルトパックを手渡される。




「お前は辛い料理を食って胃が疲れているだろう。」


「ありがとう。」


「俺はアミノ酸が豊富なファンテクッで肝臓保護とアルコール分解だ。」




レトルトパックの中身を器に注ぎラップして電子レンジで温める。




「白飯あっか?」


「ありますよ。」




素早く炊飯器の蓋を開け茶碗に白ご飯をよそい、


温まったスープと共にテーブルまで運ぶ。




「さ、食おうぜ。」


「頂きます。」


「あ、チャッカンマン(ちょっと)。ファンテクッも味見すっか?」


「はい。」




金田は茶碗の白ご飯をファンテクッに全て入れ、空になった茶碗に取り分ける。


茶碗のスープは薄茶色。干しタラの香り。一口飲むと干しタラが香ばしく大根の味が


優しい。




「香ばしいですね。」


「だろ。ファンテはカンウォンドのインジェの名産だぜ。」


「えっと、カンウォンドは首都ソウルの東側に位置するんですよね。」


「おう。第1次韓ドラブームで有名なロケ地がある。ガキの頃に見たろ?」


「お、チュンチョンですね。」


「そうだぜ。そこはタッカルビが有名だな。その北東にある隣街がインジェ。」




さて、ソルロンタンの入った器を見るとスープは白濁している。 スプーンで一口。


牛骨の独特な味。牛肉出汁や野菜、ニンニクの様な香辛料で調和された味だ。




「どうだ?」


「牛骨って独特の味ですね。」


「ま、そうだな。白飯入れて食ってみ。」




本出は言われた通りにする。うん。相性は良い。




「ソルロンタンの由来は知ってっか?」


「え?ウシのナントカ?」


「ブー。ソ(ウシ)じゃねえ。王室所有地で行われたソンノンジェで王が畑を耕して


見せた後に大勢が食べられる料理として牛肉鍋に白飯入れて作ったのが発祥だ。」


「ソンノンジェ?」


「豊作祈願祭りの事だ。そのソンノン変化説と王室所有地のソンノンダンでセジョン


テワンが耕作時に急な豪雨で動けず農業用ウシで作ったスープを献上説がある。」


「セジョンテワン?」


「朝鮮時代の大王。ハングルの父だ。」


「なるほど。韓ドラであった様な。」


「という事は白ご飯入れて食べた方が伝統的なんですね。」




ソルロンタンに入っている牛肉と汁ご飯を食べる。




「諸説あるが、朝鮮時代は1510年に終わりソンノンジェ自体は行われ無くなる。


 その後は庶民料理として広まった事は確かだ。」


「ご馳走様でした。」


「慣れると美味えだろ。ま、店の方が本格的だがな。」




食べ終わった食器をシンクで洗う。




「ポテチ食うか?」




それで借りを返すつもりか?ま、韓国の食文化に詳しい事が救いだ。


昨日の件は水に流そう。




「1枚下さい。」


「ホイ。」




金田は本出の口にポテチを入れる。


食感はサクッとしてジャガイモの味が咀嚼する度に感じられ、あっさりしている。


ノンフライで美味しい。洗い終えた食器を拭いて棚に片付け、リビングの


テーブルにノートPCを置き昨日の取材内容に関する資料を作成する。




「そろそろ8時なので、オンライン朝礼します。」


「おう。」




オンライン朝礼が始まり、部長に昨日の取材内容を伝える。


引き続き取材を進める様に指示を受け、朝礼が終了。メールを確認すると、飯田から


メッセージが届いていた。


内容は飯田の先輩が迷惑を掛けて申し訳無かった事と部長同士が話し合い2つの部署


合同で進めるコラボ企画になった事、昨日購入した韓国食品が入ったエコバッグを


本出の車に忘れ帰ってしまい社内で打ち合わせを兼ねて持って来て欲しいとの事が


書かれている。本出はメールを返信。




「今から出社するので、家空けます。」


「おう。俺も行くぜ。」




本出は自分のショルダーバッグと飯田のエコバッグを持って金田に車椅子を押して


付いて来る様に指示する。地下駐車場まで移動して愛車の助手席に荷物を置き、


車椅子を所定の位置に戻と金田を愛車に乗せ走り出す。


出版社に到着。会議室へ向かう。




「あ、本出さん!おはようございます。」


「おはようございます。」




飯田にエコバッグを手渡す。




「ありがとうございます。何か食べました?」


「ソルロンタンと・・・」


「ファンテクッを食ったぜ。」




金田が口を挟む。




「先輩!本出さんに世話を焼かさせないで下さい。」


「悪かった。」


「ポテトチップスも食べました。」




年上らしき女性が声を掛ける。




「飯田さん、会議始めるわよ。」


「はい!あ、こちらが本出さんです。」


「部長の金田です。」


「宜しくお願いします。」




本出は挨拶すると、会議室に入る。




「あなた、ここで何しているのよ?」


「休みで帰って来たんだ。姉ちゃん元気そうだな。」


「あら、そう。丁度良いわ。あなたも参加しなさい。」




金田も会議に加わる様だ。本出は自分のノートPCを会議室のモニターに無線で


繋ぐ。




「さて、共同企画の雑誌コンセプトを教えてちょうだい。」


「はい。韓国文化の理解です。」


「具体的に言うと、どの様な事かしら?」


「例えば、お正月などの伝統行事です。韓国では旧正月が今の時期あり、


 ご先祖様に豪華なお供え物をします。その様な文化を取り上げます。」




飯田はエコバッグの中にある物を取り出しテーブルに置く。




「これは伝統菓子であるヤックァとユグァ風の商品です。食べてみて下さい。」




本出はヤックァの袋を1つ手に取り封を開ける。艶のある薄茶色をして花の形だ。


口に入れると、水飴の甘さと麦芽やシナモンが感じられる。




「美味しい。」


「お花の形で可愛いわね。味はチュロスに近いかしら?」


「ま、これは油で揚げてシナモンを使ってっからな。伝統的な製法じゃねえ。」


「その通りです。韓国の宮中餅菓研究院によりますと、蜂蜜とゴマ油を使い


 低温の油で煮込みながら揚げて生姜入りの水飴シロップに通すそうです。」


「確かに違うわね。」




飯田はパッケージにハングルでユグァと書かれた袋を開ける。




「これも伝統菓子をイメージしたスナックですが、お1つどうぞ。」




金田部長が1つ食べる。




「お米の味がするわね。ゴマの香ばしさと甘みもあって、おこしの様だわ。」




本出も1つ食べる。あ、なるほど。おこしに近い感覚だ。




「おこし?より柔らけえぞ。それにジョチョンが使われている。」


「ジョチョンは米水飴の事で頭が冴え記憶力アップ効果もあるとされ


 朝鮮時代に王子の方々が受講時食べていたそうです。」


「この様なエピソードを交えつつ伝統文化を正しく解説する事を考えています。」


「ユグァっつうと生地作りから大変で厄介だ。餅米粉を使ったクァベギが楽だ。」


「韓国のツイストドーナツですね。作るかは別として記事に入れましょう。」




本出はPCで次のスライドを表示させる。




「テーマは季節の行事と料理です。春と言えば、お花見や遠足がありキムパッは


 取り上げ様と思うのですが、他にありますか?」


「韓国の花見は弁当食わねえ。」


「韓国の春野菜はツル人参のトドッやタラの芽のトゥルッ、ヒメニラのタルレ、


 ナズナのネンイ、シラヤマギクのチナムル、セリのミナリですね。」




本出は忘れる前に春風の様な勢いで打ち込む。




「セリ、ナズナは日本の七草粥に使いますね。」


「ナズナは味噌汁のテンジャンクッや和え物、キムチに。セリはジョンにするぜ。」


「3月は、よもぎ。体が温まる食材で婦人病に効果ありですね。」


「よもぎ汁のスックッやチヂミのスッチョン、よもぎ餅のスットッ、松餅の


ソンピョン、 よもぎ団子の蜂蜜がけのスックルレがある。よもぎパンもあるぜ。」




続けて打ち込む。




「でも、ソンピョンは秋のチュソクに作るイメージがあります。 上手に形成出来る


と女性は良縁や可愛い赤ちゃんを授かると言われますよね。」


「そっちの方が有名だな。だが、陰暦の2月1日はチュンファジョルで小作の日


モスム・ナル、にもソンピョンを小作人達に歳の数ご馳走していたぜ。」


「どんな味なの?」


「うるち米で作った餅の中にゴマや豆、緑豆、栗とかの餡が入っている。表面は


 ゴマ油で香ばしい、松の葉を敷いて蒸す事で香りがするんだ。」




金田がスマホでソンピョンの写真を見せる。




「韓国はうるち米の餅が多く弾力食感だ。よもぎや松の甘皮は色付けで使う。


ソンピョンが 半月形なのは月が満ちる様子から今後の発展をイメージするらしい。」


「それは末広がりの八みたくて縁起が良いわね。」




金田が次の写真を見せる。


写真を見ると、透き通った薄いベージュ色の生地に餡が透けている。




「カンウォンドにはジャガイモ粉で作った餅に餡が入ったカムジャソンピョンがあるぞ。」


「日本の八ツ橋みたいですね。形は違いますけど。」


「韓国でジャガイモが使われる料理と言えば、ジャガイモのデンプンやパウダーで作った


 麺のインスタントラーメンとカムジャタンですよね。」


「おう。美味えな。」




飯田がスマホで調べる。




「お昼ご飯はカムジャタンにしましょう!」


「何処の店ですか?」


「昨日行ったメインストリートの南側にある大通り近くです。」


「もう出発します?」


「まだ開店時間の11時まであるので、大丈夫です。皆さん、トウモロコシ茶を


どうぞ。」




本出が会議室の時計を見ると、まだ10時前。飯田が各席にコップを配り、


ペットボトルのトウモロコシ茶を少し注いで行く。早速、金田部長が口に含む。




「香ばしいわね。」




本出も後に続く。トウモロコシ特有の味がする。後味は香ばしい。




「春は魚介類のアサリやサザエ、タイラギ、昨日食ったワタリガニとイイダコが


旬だ。」


「どんな料理があるんですか?」


「アサリのパジラッは平打ち麺のカルグクスや貝焼きのチョゲグイ、粥のチュッ、


サザエの ソラは辛い和え物のムチム、タイラギのキジョゲはコチュジャンチジュ


ポトグイだな。」


「え、コチュジャンとチーズにバターまで使って焼くんですか?」


「まあな。コチュジャンで思い出したが、陰暦の3月3日サンジンナルにジャンを


仕込むと美味えらしい。家の中を修理もする。チンダルレの花弁を使った食い物も


ある。」




金田がスマホで写真を見せる。


円形の白餅にピンク色の花弁がある。その横の器には赤い色をした汁が入っている。




「チンダルレは何の花ですか?」


「ツツジの事だ。これは餅の上に花弁を置いて焼いたファジョンと花弁を細かくして


 蜂蜜や砂糖で汁気を出し、オミジャの実を水で戻した汁を注いだデザートだぜ。」


「春の訪れって感じね。」


「オミジャは韓国伝統茶の1つですよね。新大久保に伝統的なメニューを味わえる


カフェが あるので、お昼ご飯の後に行きましょう。韓国茶は美容にも良いですよ。」


「良いわね。」




金田部長が腕時計を確認する。




「飯田さん、そろそろ向かった方が良いわよ。」


「はい!」




本出はノートPCを素早くスリーブモードにするとショルダーバッグに入れ会議室を


出る。 駐車場に停めてある本出の愛車を発進させる。




「そう言えば、よもぎを使った餅や団子、汁物は陽暦で4月にあるハンシッの時も


食べる。 作り置きのナムルとかを冷や飯で食ったり、ハンシッミョンと呼ぶ冷てえ


蕎麦も食う。」


「何故ですか?」


「火を使うのが禁止される日だからな。他にも薬膳酒やフルーツ、素麺のククス、


シッケがある。 ま、今は冷てえ食事する習慣が薄れてっけど。」


「なるほど。」


「で、この日に墓参りするんだ。その時に、よもぎ餅はチャレの膳に供える。」




大通りを進む。




「他に何か行事あります?」


「陰暦で4月8日にはチョパイルがある。釈迦の生誕日だ。元々はコウリョ時代に


無明を提灯で祈るヨンドゥンフェがあって1996年から提灯行列パレードの


ヨンドゥンチュッチェになった。」


「日本だとお堂内で仏像に甘茶を柄杓で掛けて祝う灌仏会がありますよね。」


「韓国では仏の数を数えた豆を焼いて出会い人に配っていた。今でも焼いた豆や炒り


黒豆のポックンコン、緑豆粉を白身魚の切り身に付け茹で5色の彩り食材を盛り付け


たオチェを食う。」




新大久保駅付近。




「本出さん、次の交差点を右折して下さい。」


「はい。」


「他に混ぜククスや鶏卵とか肉とか唐辛子を茹でたセリで巻いたミナリカンフェ、


鯛の蒸し焼き、 米粉とケヤキの若葉を混ぜ込んだ蒸餅のユヨプピョン、別名ヌティ


トッがある。」




線路沿いのツツジ通りを南下する。




「あと、薄く伸ばした米粉生地の上に山ツツジの花弁を置いて茹で、油で両面焼きに


したコットッもあるぜ。」




信号のある交差点に近付く。




「あ、次を左折です。」




指示に従いステアリングを回す。片側3車線の大通りを進む。




「次の進入禁止を通過した先にある路地を入って下さい。」




路地を入ると、道幅が狭い。途中に電柱もあって、本出の愛車では辛うじて通れる


道だ。




「あ、ここです。この先で右に行くと駐車場があります。」




店の前を通り越し右に曲がる。駐車場を発見。愛車を空きスペースに停めて店まで


歩く。


カムジャタン専門店と書いてある。中に入って席に座った途端、金田がテーブルに


置かれている透明なボトルに入れられたお茶をコップに注ぎ一気飲み。




「あ~^。美味え!喉乾いちまったぜ。」




飯田がコップに注いだお茶を本出の前へ置く。




「どうぞ。」


「ありがとうございます。」




コップに注がれたお茶を飲むと、スッキリした味で美味しい。


飯田はメニュー表を見せる。




「カムジャタンと言えば辛いんですけど、ここは3種類あるんです。」


「本出は辛いのが苦手だし、白カムジャタンにしようぜ。追加トッピングで後から


 辛く出来っからな。」


「お気遣いありがとうございます。」




注文を終え少し待って居ると、テーブルに白カムジャタンが鍋で運ばれて来た。


早速、飯田が器に取り分け本出の前に置く。




「どうぞ。」


「頂きます。」




スープの色は白っぽいベージュ。器に口を付ける。お、豚肉の出汁が美味しい。


素材の出汁で奥深く胡椒も感じられる。




「その豚の背骨に付いたお肉も食べて下さい。」




あ、箸で楽に取れる。そのまま豚の背肉を一口。柔らかい。ジャガイモも味が染みて


美味しい。


金田が白カムジャタンを食べ始める。




「うん。マイルド。韓国では、豚背骨肉をわさび醤油で食べるんだぜ。」


「日本の刺身みたいですね。」


「まあな。韓国にも刺身はある。白身が多い。赤身は専門店で食える。わさび醤油の


 他にチョコチュジャンや合わせ味噌のサムジャンに付けて葉野菜で包む食い方も


すっぞ。」


「日本の酢味噌や大葉と一緒に食べる感覚ですね。」




飯田が赤唐辛子パウダーが入っている小皿を手に取る。




「さて、ここからが第2ラウンドです。」




鍋のスープが赤唐辛子パウダーを入れた事で赤褐色になった。


一口飲む。やはり辛い。具のジャガイモを食べると美味しい。肉にも合う。




「お次はウゴジを入れます。」


「あと、エゴマの葉のケンニッとエゴマの粉のトゥルッケガルもな。」




ウゴジは白菜の外側の葉を茹で干した乾燥食材の事だ。どんな味だろう。


エゴマの葉は昨日食べたが、エゴマの粉もあるのか。それらが鍋に入ると、エゴマの


香りが漂う。スープを一口。赤唐辛子の辛さにミント系の少し爽やかにスーとする


独特な味と香ばしさが加わった。




「どうだ?一気に韓国らしくなったろ。」


「エゴマの粉って香ばしいのにまろやかなんですね。」


「そうだろ。エゴマの粉はエゴマ油を作った時に残って出来る物で、韓国ではナムル


 とかに使う。日本では馴染み無いが、エゴマの葉はキムチや醤油漬けのチャンアチ


 や肉詰めにして韓国では食べる。」




ウゴジを食べると、シャキシャキした食感で美味しい。




「ウゴジも冬のキムチ作りで余った白菜の外葉と大根の葉だぜ。」


「キムジャンの事ですね。」


「そうだぜ。さて、シメは何にすっかな?」


「定番はポックムパッですね。」


「チョルメンって何ですか?」


「冷麺(ネンミョン)より太い小麦粉の麺だ。」


「それにしましょう!」




飯田が注文したシメのチョルミョンを見ると、うどん麺の様な太さだ。


それを鍋に入れ少し煮込む。出来上がりを食べる。モチモチして弾力がある。




「歯応えがあるだろ。チョルは韓国語の動詞チョルキタダから来てっぞ。」


「発祥は仁川(インチョン)の製麺所ですよ。」


「だが、この麺が誕生したのは偶然だ。70年代にミスで太い麺を製造しちまって


 近くの飲食店がコチュジャンと混ぜて提供したら美味えかったらしい。」


「なるほど。仁川名物なのですね。」


「今は韓国の各地に広まったがな。食い方は豆モヤシやキャベツ、キュウリ、


タマネギのヤンパとかのシャキシャキした野菜と一緒にコチュジャンを豪快に


混ぜる。そこにゴマ油の風味を加える。」


「うどん麺やラーメンを使ったサラダみたいですね。」


「冷麺も食った方が良いぞ。」


「そうですね。」




冷麺を注文して待つ間、ポックムパッを作る。


具は4種類の刻み野菜と海苔、キムチだ。それらを鍋に白ご飯と共に入れ、かき混ぜ


ながら炒める。具に火が通り柔らかく、ご飯も汁と馴染んで 良い炒め色が付いた。


一口食べる。熱っ。香ばしくて美味しい。キムチも良いアクセントだ。


鍋が空になったタイミングで2種類の冷麺がテーブルに運ばれて来た。




「まずは、こっちのムルネンミョンを食べて下さい。」




飯田が取り分けた器の中を見ると、スープは透き通った薄茶色をしている。


麺を食べる。蕎麦の香り。食感は柔らかく肉の出汁が感じられるスープで美味しい。




「美味えだろ。スープは肉の出汁とトンチミの出汁で、さっぱり食える。」


「トンチミは大根の水キムチで唐辛子不使用なので、お酢やカラシもチョイ足しで合いますよ。」




もう1つの冷麺を取り分ける。見た目が違う。スープも少なくタレは赤色だ。


恐る恐る麺を食べる。辛い。さっきの麺よりもコシがある。




「コチュジャンのタレで辛いだろ。これがビビンネンミョンだぜ。」


「ビビンネンミョンは蕎麦粉とジャガイモやトウモロコシのデンプンで作られた麺


 なので、噛み応えありますよね。」


「ムルネンミョンの麺は蕎麦粉メインで柔らけえ。発祥は朝鮮半島北部の北東で


 元々は冬に床暖房の オンドルが効いた暖けえ部屋で食べられていたんだぜ。


 ビビンネンミョンは南西が発祥だ。」


「朝鮮戦争後に南部へ広がり、夏でも食べる様になったんですよ。ただ、当初は


 ネンミョンをプサンで 入手する事が難しく小麦粉を用いたミルミョンを代わりに


 作っていたそうです。」


「ミルミョンの麺は食感がモッチリで喉越しが良い。具は唐辛子やニンニクで味付け


 した薬味と蒸し豚、 茹で卵、キュウリなどだ。スープは牛肉や豚肉の出汁で具と


 混ぜて食う。さっぱりピリ辛で美味えぞ。」


「ミルミョンにもムルとビビンがあるのですが、蕎麦粉や緑豆粉は不使用なので、


 消化に優れるんです。」




冷麺も食べ終わり、会計を済ます。店を出て歩く。

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「サムゲッドターン~辛い料理苦手な僕がミーハー部長の指示で韓国料理記事を書く。」 アキブリー @AKIVERY

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