(???)視点
例えば、初恋の人。
想うたびに胸を窮屈にして、身を焦がし、甘い生活をついつい夢見ずにはいられないそんな人。
傍にいられればどれほど幸せだろう。
笑顔を向けられればどれほど幸せだろう。
触れられればきっと幸せに身をよじり、それ以上となるとオキトキシンや快感ホルモンで、脳が水を吸ったスポンジみたいにヒタヒタに満たされるに違いない。
リンゴのように瑞々しくて甘酸っぱい初恋の人。
ててん!! 問題!!
そんな人が『エロマッサージ師』になっていたと知ったら、どういう反応になるか答えよ。ただし、同部屋の女の子をイぐうさせるくらいの腕とする。
正解は『初恋の人がエロマッサージ師になっでるぅ〜〜うわあああああん(号泣)』である。
高校入学1ヶ月目。初恋の人とのまさかの再会に私は心臓が止まる思いがした。
彼の名は伊安九九。
清楚可憐、傾国傾城、一笑千金、大和撫子。
彼を取り上げた助産師はそう呟いたらしい。
そんなわけないでしょ、と笑いたいけれど、こと彼に限っては議論の余地がある。
伊安九九。彼の見た目は女の子みたいなのだ。
紫っぽい艷やかな黒髪は、監督が俺を主役に実写かぐや姫を撮ろうとせんほど綺麗。顔もかぐや姫のようで、花も恥じらい、月も光を消すほど可憐だ。私が謎の研究機関であれば小野小町のクローンと疑い、攫っていただろうと思う。
体型は、海外の有名画家に、パーフェクトツルペタガールとして描かせてもらえないだろうか、と4、5件お問い合わせが来ているだろうくらい華奢。ただ男の子らしさは消えておらず、脱げば大層えっちで天晴。
立ち居振る舞いもどこか気品があってたおやか。立てば九九、座れば九九、歩く姿は伊安九九というほどであり、見るたびに嘆息してしまう。
声くらいは、と思うけど、勝手に録音した彼の日常会話を『ハスキー系美少女が休み時間に他愛ない話をしてくれる』というタイトルでyoutubeeeに投稿すると、600万再生を記録したので消すくらい。
そんな訳で、彼は女の子っぽいため議論の余地がある。だが流石に、他の出生時のエピソードは嘘だと思う。女医が「何でこんな可愛い子に生えてるんだ!! ええい、私のちん子切安綱のサビにしてやるっ!!!」とメスを振り回しただとか、医師が「18番、ちんこうあり!!!!」と感涙した瞬間、どこからともなく幕末タイムスリップものBGMが流れたとかは嘘……流石に嘘だとは思うが、私ならば言いかねない。彼の見た目だいすこ侍だから。
だが私が彼のことを好いたのは容姿ではなく、昔に……ともかく!
大切なのは彼の見た目をこれほど語り尽くすことが出来るくらいに、入学してから1ヶ月の間気取られぬよう視……目を奪われるくらいにお熱だったということ。
そんな私ですら、エロマッサージ師であると知ったら流石に冷めてしまうということ……がないのが悲しい。
今現在、気取られぬようなんて余裕がないくらい、彼に釘付けになっている。どうして、どういった事情でエロマッサージ師になったのか、ということばかりが脳内を巡る。
う、うう、どうしてそうなったのか分からない。大好きな彼がエロマッサージ師になっちゃうなんて……あれ? でも彼のエロマッサージを受けたらどれだけ気持ちがいいんだろ?
……はっ!? まずい。僅か数秒にして、一対九の割合で後半に気持ちが傾いてしまった!
恋は盲目とはよく言ったもの。
エロマッサージ師は軽蔑すべき職業(?)であるにも関わらず、もう好意的に見てしまう。
くっ、彼が好きすぎることを認めざるを得ない。ああ好き。好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き。
心の中で愛を連呼すると、身をよじり、熱い吐息が漏れた。
たったそれだけでこれ。もしマッサージをしてもらったら、私はどうなるんだろう。そのとき理性は働くのだろうか?
あはは。流石にか。
彼との二百万字の夢小説を書く私でも、勝手に彼の似合いそうな服を買ったりコップに歯ブラシにペアルックを用意してる私でも、彼のAIを作ろうと日々機械学習させている私でも、偶然を装いスマホをカバンに仕込んでGPSで彼の家を調べる計画を立てている私でも、彼の机の角で……の私でも流石に大丈夫だろう。
うん。大丈夫。自分の気持ちがハッキリすると何だか気が晴れてきた。
彼が好きなことには変わりない、ならこれはいい機会だ。
今まで照れて僅かにしか関わってこなかったけど、関わるきっかけが出来た。
私にもマッサージしてって口実を、彼と関わるきっかけしよう。
次の更新予定
「変な声が聞こえたと思ったら、なんだただのマッサージか」と安堵した学園三大美女に凄腕マッサージ師として施術を頼まれるようになった。AV見てたのを誤魔化しただけなのでヤバい ひつじ @kitatu
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