かつての勇者パーティーは

ニア・アルミナート

第1章・1000年後、そして新たな旅仲間

第1話 元の世界へ

「これで終わりだ! はぁぁぁぁぁ!」


「馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 聖剣が大魔王メハナの心臓に突き刺さり、大魔王メハナは断末魔を上げ消えていった。


 やったぞ、俺たちの力が勝った……。


「ついに、倒したのね……。あの大魔王メハナを」


 パーティーメンバーのハイエルフ、メルがこちらに近づいてきて言った。


「そうらしい。ガイア、俺たちはやったぞ」


 ガイアは大魔王メハナにやられてしまった俺たちの仲間。堅牢な守りで、俺たちをここまで連れてきてくれた。


 大魔王の攻撃でやられた時は俺たちもう終わりだと思ったけど、なんとか頑張ったぜ。いつかあの世で会うことがあったら褒めてくれよ?


「やっぱり、イサミは元の世界に帰るの?」


「そうだな。家族が待ってる」


 俺は元々この世界の人間じゃない。元々いなかったものが世界に居座り続けるのもよくないだろう。


 地球に帰ってまた白米も食べたいしな。


◇◇◇


 俺を召喚した王国に凱旋し、帰還の準備を取り進める。


「本当に、いいのか? この世界にとどまれば、名声も、爵位も、金も。なんでも手に入るのじゃぞ?」


「お言葉ですが、私は何よりも家族が大事です。もとの世界で家族も心配していると思いますから」


 国王による引きとどめ工作も全てかわし、いよいよ帰還の前夜、王城に用意された俺の部屋に、王女が訪問してきた。


 王女、フレイは怪我で大魔王戦直前に戦線離脱した最後の勇者パーティーのメンバー。俺とは1番長い付き合いになる。この世界に来てからずっと一緒だったからな。


「本当に、行ってしまうのですか?」


「ええ。お父さんにも、お母さんにも、会いたいですから」


 もう大魔王討伐の旅も終わったし、偉い人にはちゃんと敬語を使わなきゃな。


「敬語……使わなくてもいいと言いましたのに……」


「もう旅の仲間と言うわけじゃありませんから。そういうわけにもいきませんよ」


 すると、フレイの目には涙が浮かぶ。しかし、次の瞬間フレイは拳を握り、こちらを見据えた。


「現状帰還の魔法陣は異世界人しか使えませんが……いつかは私たちも使えるようにして、必ずあなたの世界にお会いしにいきます。その時は……私と結婚していただけませんか」


「いつか私の世界にですか。喜んで、お待ちしていますよ」


 そういうと、笑みを浮かべたフレイは部屋を去っていった。


◇◇◇


 ついに帰還の日となった。国を挙げての盛大な祝いを受けた後、俺は帰還の魔法陣にのる。


 魔導士たちが帰還の魔法陣に魔力を注ぎ始めた後、俺はフレイの方を向き、口を動かした。


「待ってる」


 家族も好きだけど俺はフレイのことも好きだった。


 フレイが何かを言いかけた時、俺の視界は切り替わった。


 異世界での冒険は終わり、日本での生活が戻ってくる。


 そう思っていたが、俺の目の前に広がっていたのは東京のビル群などではなく、一面の森だった。


 なんで森?


 帰還の魔法陣が帰還させるのは召喚された場所なはず。俺は東京で召喚されたから東京に出るのが筋だ。


 ……なんで森?


 まさか、俺が異世界にいる間に東京が森になった? あまりにも荒唐無稽すぎる。


 とりあえず人がたくさんいる場所が近くにある。そこに行ってみよう。


 森を出て、平原の先には、見慣れた街壁のようなものがある。


 まさか、俺は地球に帰れなかったのか? そう考えるのが自然だよな……。


 とりあえず街に入ってみるか。身分証を出そうと思って冒険者証を出すと、それは砂のように崩れ落ちた。


 あれ、俺のカードが失効にされてる。まぁ帰還したと思われてるだろうから仕方ないか。


 街に入る列に並ぶ。あんまり時間はかからなさそうだ。


「次、いいぞー」


 すぐに俺の番がきた。


「こんにちは〜」


「冒険者証か商人ギルドカードはあるか? なければ通行税銅貨6枚になるが……」


 ずいぶん通行税が安いな。他のところだと銀貨3枚は取られるはずなのだが。ちなみに日本円に直すと、銅貨が1枚100円、銀貨が1枚1000円くらいになる。


「こちらを」


「こりゃフェリス硬貨か? ずいぶん古いもんを待ってるんだな。辺境から来たのか?」


 フェリス硬貨が、古い? 最新の硬貨のはずだが……怪しまれたら困る。ここは話を合わせておこう。


「まぁ、そんなところです」


「通っていいぞ〜。珍しいもん見たなぁ」


 街の中に入るとかなり栄えた街並みが見える。しかし、一つ確認しておきたいことができた。


 俺は道ゆく人の中でも優しそうな人を選んで話しかけてみた。


「すいません、この街は初めてでして。おすすめの宿はあります?」


「宿? そうねぇー……朝焼けの宿とかいいんじゃないかしらこの先曲がって突き当たりにあるわよ」


 良さげの宿ゲットだぜ。それじゃあついでっぽく本命の情報聞いてみるか。


「そういえば今って魔暦何年でしたっけ?」


「魔暦? 古い言い方するのね。今は討魔暦ちょうど1000年だから、魔歴だと1258年かしら」


 討魔暦? なんだそれ。というか1258年だって!? 1000年たってるじゃないか!!


「ああ、そうでしたね。ありがとうございました。宿、行ってきますね」


「この街を楽しんでね〜」


 とりあえず、宿で情報を一度整理しよう……。





 

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