人気に縋らず、心に従う

本編

世の中には、さまざまな「人気」が存在しています。たとえば、映画の大ヒット作、新しい音楽のランキングトップにいる曲、SNSでトレンドになっているファッションアイテムやスポット、そして話題のグルメなど。私たちは、こうした流行のものに自然と目を向けてしまいがちです。なぜなら、人気のあるものは「多くの人に選ばれている」「誰もが良いと言っている」といった安心感があり、気軽に手を伸ばしやすいからです。誰かのおすすめやランキングに載っているものを選ぶと、失敗しにくいというメリットもあります。

確かに、人気のあるものにはそれだけの魅力が詰まっています。多くの人に支持されるには理由があり、その多くは普遍的な価値や楽しさを持っているものです。ヒット映画はストーリーや演出が優れていることが多いし、流行の音楽は耳に残りやすいメロディが特徴的です。話題のスポットやグルメも、誰かに勧められれば「行ってみようかな」「食べてみたいな」と思えるものです。そうして手にした人気のものを楽しむことは、決して悪いことではありません。

しかし、人気だけを追いかけていると、時には「本当の楽しみ」を見失ってしまうこともあるのではないでしょうか。誰もが好きなものを無意識に選び続けることは、ある意味で安全ですが、その反面、自分の本当の好みや心の声を見逃してしまう危険もはらんでいます。何気なく選んだものが、実はあまり自分に合っていなかった、という経験は誰にでもあるはずです。そして、そのことに気づいた時、ふと「自分は本当にこれが好きなのか？」と問い直すきっかけになるのです。

たとえば、旅のプランを立てるとき。ガイドブックやSNSのおすすめスポットに目を奪われがちですが、自分が本当に行きたい場所を考えてみると、それとはまったく違う場所だったりします。静かで人が少ない自然の中でのんびり過ごしたい人もいれば、古い町並みを歩いて歴史を感じたい人もいるでしょう。人気の観光地も良いけれど、自分の心に響く場所を見つけることのほうが、旅を特別なものにしてくれます。

同じことは、趣味や興味の分野にも言えるでしょう。音楽なら、最新のヒットチャートだけではなく、少し前の時代の曲やマイナーなジャンルの音楽を聴いてみる。映画なら、有名な作品だけでなく、インディーズ映画やあまり知られていない監督の作品を観てみる。そうすることで、自分の感性や趣味がどんどん広がっていきます。自分の中で「これが好きだ」という確かな感覚が生まれると、流行に左右されずに自分の世界を楽しめるようになります。

また、流行に乗らないことで、新たな発見や喜びが待っていることもあります。私は、友人から勧められたある映画を見に行ったことがありますが、それは話題作でもなく、観客も少なかった作品でした。しかし、その映画は私にとって非常に印象深く、心に残る作品となりました。人気のある映画なら、映画館は人でいっぱいで、感想もすぐにSNSで目にすることができるでしょう。しかし、あまり知られていない作品を観たときの感動は、まるで自分だけの特別な宝物を見つけたかのような気持ちにさせてくれます。そうした体験こそが、本当の意味での「贅沢」なのかもしれません。

人気のものを楽しむことに何の問題もありません。しかし、時には「流行だから」という理由ではなく、自分の心に従って選択してみる勇気も大切です。特に今のように、情報があふれる時代においては、何が本当に自分にとって価値のあるものなのかを見極める力が求められます。それは、他人の評価ではなく、自分自身の感性や経験に基づいて選び取る力です。

私たちは、流行に乗ることで安心感を得る一方で、それに縛られている部分も少なからずあります。周りがみんな楽しんでいるから自分も楽しめるはずだ、と信じているところもあるでしょう。しかし、それが本当に自分の心からの楽しみかどうかは、誰にも分かりません。自分自身が何を感じ、何を求めているのかを知るためには、自分の心の声に耳を傾ける必要があります。

たとえそれが少数派の選択であったとしても、人気のないものであったとしても、心が「これだ」と感じるなら、それを信じてみてほしいのです。他の誰でもない、自分のために選んだものだからこそ、それはかけがえのない体験となるでしょう。そして、そのように自分の心に従って選び取ったものが、結果的に新しい流行やトレンドを生み出すことだってあるのです。

人気に縋らず、心に従う。そんな選択が、もっと自由で豊かな人生をもたらしてくれるかもしれません。他人の評価に頼るのではなく、自分の感性を信じて新しい世界に飛び込んでみる。その先には、きっと今まで見たことのない景色が広がっていることでしょう。