ゾンビよりこわい

白川津 中々

◾️

街にゾンビが溢れかえるなんて想像もしていなかったがもしもの時のために準備しておいた地下シェルターに逃げ込む事でなんとか無事に過ごせていた。


独立バッテリーによる電気供給は完璧。冷暖房完備トイレ風呂別のワンルームで料理だってできちゃう。漫画や映像データもあるしこりゃ暇しねーなーなんて思ってたら本当に快適に過ごせるでやんの。全然楽勝過ぎて話にならない。この世のしがらみから解放してくれてゾンビさんありがとうございますだ。寝て起きて漫画読んで冷凍の肉食べたり缶詰を肴にして酒飲むの楽しー。マジで理想の生活に感無量です。


だがそんな素敵生活にアクシデント。排気ダクトが詰まり排気力が弱くなってしまったのだ。普通に生活する分には問題ないが肉が焼けない。これは由々しき事態である。

デジタルマップで問題箇所を確認すると換気口が塞がっているようだった。直しに行くにはリスキーだが肉のない食事は耐え難い。意を決してハッチを開き外へ出ると夜。静寂な空気が漂っている。ゾンビも寝るのかというジョークにもならない馬鹿な考えを抱きつつ排気口へ向かっていると、遠方に街の明かりが着いているのを確認。どうした事だろう。ゾンビが社会性を獲得して人類文化を取り戻したのか、はたまた生き残った人間がゾンビを殲滅し生活圏を再構築したのか。



……



排気口はカバーにゴミが詰まっているだけだったのですぐに直せた。俺はそのまま帰って、肉を焼いて寝た。起きて頭にチラつくのはあの街の灯りについて。不安が、コトリと音を立てる。



ゾンビにしろ人間にしろ、俺はもう、誰とも交りたくなかった。死ぬまでシェルターの中にいたい。それが望みだ。



あれからしばらく同じ暮らしをしているが、いつか見つかるのではないかと疑念が常に心をざわつかせる。怖い。ゾンビ以上に、他者との関わりが恐ろしい。


俺は、どうか俺以外の人類が滅亡しますようにと、願うしかできず、今日もまた、寝て起きてを繰り返すのだった。

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