二人目の攻略対象

一緒に帰らない?


一緒?私と?

誘う相手が違うだろ、西園寺。


隣に超絶可愛い大天使ヒロインがいるのにモブを誘う馬鹿がどこにいるんだ。


困るよ君、入学式の帰り道イベント発生してもらわないと。


「親と帰るので無理です。失礼します」


自分でもびっくりするくらい冷たい声が出たが、

琴歌ちゃんにはそんな気持ちは微塵もないため

「琴歌ちゃん♡また明日ね♡」

と声とテンションを切り替えて挨拶した。


攻略対象×モブ(私)は解釈違いだし地雷、自分のカップリングだけどアンチですらある。

だから西園寺には悪いけど冷たく対応させて頂こう。


まあ、琴歌ちゃんの応援しつつ私は私でモブの男の子とお付き合いしていずれは結婚させてもらおう。それがセオリーってもんだ。


仮に選ばれなかった攻略対象がいたとしても私とのカップリングが地雷だから絶対に手を出さないし、


なんなら将来政界に出て一夫多妻制作ったっていい。

みんなで琴歌ちゃんを未来永劫幸せにしてくれたら私が特大ハッピーになるってもんだ。


と妄想を繰り広げながら駐車場に行くと両親の姿を発見した。

正直まだ全然慣れないけど。


「お……お父さん、お母さん」


「ちょっと何改まって!いつもはママとパパって呼んでるのに」


「あ、いや、ちょっと礼儀正しく呼んでみようかな〜って。有名校だし?お淑やかにっていうか…ねえ?」


前世ではママ呼びを許されてなかったからつい癖でお父さん、お母さん呼びが出てしまった。


ママとパパかぁ、本当に真反対すぎてこの家族に慣れていけるだろうか。


「もう帰って大丈夫なのかい?

お友達と帰るとか…」


「いや!友達はまだ!流石に今日だけで作るの難しいよ!入学式がメインで話す時間そんなになかったし!

明日から普通の授業が始まるし明日から友達作り頑張ろっかな〜なんて……」


「そうか。大丈夫、亜子なら友達すぐ出来るさ」


「そうね、良い子だもんね」


「そ、ソウカナ〜?」


むず痒い、もう既に八割やっていけないかも。


そう思いながら車に乗ると


「せっかくだから昼は外食にしようか」


「賛成!入学祝いに行きましょう!」


え、と声が出たが母親の声にかき消されてしまってそのまま車はレストランへと向かっていった。


正直気疲れとか怒涛のイベントが多すぎて帰って寝たいくらいなんだけど。


ご飯も塩おにぎりと味噌汁くらいで全然良いんだけど、いやこの家はそんなもの出さないか。


もうなんでもいいやと思いながらぼーっと外を眺めていると絶対ここ高いだろうなと外観で分かるようなレストランがあった。

まさかいくら金持ちだからってこのレストランに行かないだろうな。


「いや入るんかい」


「何か言った?」


「いや!お腹空いたって言っただけ!」


気疲れ延長戦突入、一般庶民なのにこんな高そうなレストラン入れないよ。


もう父親と母親について行くしかない、と腹を括って席に案内されると、

通路を挟んで隣が同じ制服の男の子とその家族がいた。


あの人…


「同じ学校の子じゃない?」


「あ、うん……そうだね…。

でも同じクラスじゃないし、もしかしたら学年も違うかも」


嘘、西園寺と仲良し幼馴染のこれまた御曹司、

北条瑠璃ほうじょうるりだ。


クラスは隣のBクラス。性格は物静かでインドア派、運動は苦手で頭脳派。

顔はベビーフェイスの可愛い系イケメン。


不覚、まさか琴歌ちゃんより先に攻略対象に会ってしまうなんて。


ふいに北条の両親と目が合い、ペコリと会釈するとにこりと笑ってあちらも会釈してきた。


会話とかにはならなくて良かった。普通に気まずいもん。


「亜子、どれにする?」


「お母さ…マ、ママ!?これ値段間違ってないかな?」


どこの世界に五千円もするランチ食べに来る家族がいるんだ。

一番安いオムライスでも三千円する。

ファミレスなら千円前後くらいなのに。


「わ、私オムライスがいいなぁ…」


「ハンバーグとかステーキも美味しそうよ?」


「い、いや!?オムライス食べたい気分なんだ…」


ハンバーグやステーキなんて食べた日には罰が当たりそうだ。

隣の北条瑠璃を見ると平然とジューシーなハンバーグを食べていて、

より一層私の貧乏性が悲鳴を上げていた。


父親が注文し、生きた心地しないまま母親や父親の言葉に空返事をしているとあっという間にオムライスがやってきた。


「いただきます」


これが三千円のオムライス。卵の色が濃くてトロトロなのが目から伝わるふわとろ具合。

しっかり味わって食べようと一口食べると、


デミグラスソースやチキンライスの旨みに負けないくらい味が濃い卵、

ゴロゴロと鶏肉が入っているチキンライス、

深い味というのだろうか、今までのデミグラスソースの概念が崩れるくらい旨みとコクがあるソース。


食レポを生業とする人ってこれを上手く文章に表現してるんだからすごい。


こりゃ三千円もするわ。


一口一口大切に食べていると、

ふと隣から視線を感じ、ちらりと見ると北条瑠璃が凝視していた。


え、何?はしたない?がっつきすぎ?

でも滅多に食べれる味じゃないし値段を知ってるからこそ慎重に食べているつもりなんだけど。


結局オムライスを食べ切るまでずっと見られ、

食べづらい中完食すると


隣の北条家は帰る支度をしていてやっと一息つけると思ったら近付いて来た。


「君、名前は?」


「す、鈴木です」


「…下の名前は?」


「亜子です」


「どこのクラス?というか一年?」


「一年Aクラス…ですけど」


微笑みながら「覚えとく」と一言残し帰っていく後ろ姿を見ながら母親や父親に変に探られドッと疲れた。

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モブ転生したのでせめて推しカプの結婚式に行けるように頑張ります。 飴水 @amemizu27

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