入学式

入学式は正直何も頭に入っていなかった。


校長の長い挨拶やら来賓の方のこれまた長い挨拶を聞き流しながらずっと考えていた。


なんで私口説かれたんだろう。


ゲームとか漫画なら琴歌ちゃんが主人公だからこちらに口説かれるのはわかる。

でも今や私はモブで、口説かれる理由はないはずで。


当たり前だけど原作にも西園寺桃李がモブに口説くなんてシーンあるはずもなく。


バグ?なんだ?

それとも入学式のこの段階で琴歌ちゃんに嫉妬して欲しくてわざと?

仲良くなってすらいないのにそれは強引すぎない?


一旦整理しよう。

西園寺桃李は大型犬系爽やか金持ちイケメン。

口説いて反応を楽しむような性格ではない、むしろ真反対のような純粋で素直な性格。


本心だけど口説いたわけではなく、

結果的に口説いた形になって琴歌ちゃんを照れさせることは原作では沢山あった。


つまり私へのあれもそんなつもりは決してないということ。


西園寺にとって挨拶のようなもの、という答えに納得がいった。


じゃあそこまで思い悩む必要は無い…のか?


そもそも琴歌ちゃんがいるのによそ見なんで出来るわけないもんね。


という考えに辿り着いたタイミングで丁度よく入学式が終わった。







「今年一年、担任を受け持つ吉岡です。

中等部からの子も外部受験の子もよろしくお願いします。

それでは軽く自己紹介を一人ずつして行きましょう」


新学期あるあるの自己紹介が来た。


前世だと「今年こそは彼氏が欲しいです。なんとしてでも彼氏を作りたいです。彼女募集中の人は私に来てください。」

なんて肉食系も裸足で逃げ出す自己紹介を毎年してたもんだ。


今世でもそりゃ彼氏欲しいけどそれよりも、

琴歌ちゃんの恋のキューピットになりたい欲が強すぎて自分の恋なんてどうでも良くなっている。


やっぱ無難に好きな物とか言っとこうかな、

変に目立たないのモブっぽいしね。


「櫻井琴歌です。桜花中おうかちゅうから外部受験で来ました。みんなと仲良くなれたらいいなと思ってます。よろしくお願いします!」


うーん百点。素晴らしい。緊張してるお顔をベリーキュート。


よし次は私か、と立とうとしたら瞬間

そういや私中学の名前知らねえな?とフリーズした。


え?どこ中出身なの?わからん。

でも今朝の車の中で父さんの転勤で〜、と言っていたはず。

なんとか誤魔化すか。


「鈴木亜子です。親の転勤でこの学校に外部受験しました。食べるのが好きでケーキバイキングとか好きです。よろしくお願いします」


付け焼き刃だけどまあまあ無難かもしれない。

転勤となると市外もしくは県外って思うだろうし、

まあ県外の場合どこの県から来たの?となりそうだけどその時はその時だ。


好きな物に関しては死に間際に思った後悔の一つだ。

退院したらケーキバイキング行きたいとずっと思ったまま、私は味のしない病院食を最後に死んだ。

その欲を今世で晴らす。めいっぱいケーキ食べたい。


「西園寺桃李です。中等部から進学しました!

中等部から引き続きサッカー部入部予定です!

みんなよろしく!」


うわぁ、キラキラのエフェクトが見える。

西園寺は眩しいくらいの笑顔を振り撒き、元気いっぱい自己紹介していた。


思わず女子の黄色い声が上がりまるでアイドルのようだ。


前の席の琴歌ちゃんはというとニコニコと隣の席の西園寺を見ていて、その笑顔につられた西園寺と笑いあっていた。


マジで特等席。ありがとう神様。


他にも次々と挨拶していき「明日から高校生活楽しんでくださいね」という吉岡先生の一言でHRは終わった。


琴歌ちゃんはこの後西園寺とのイベントが発生するし邪魔してはいけない。


両親が入学式で来ているし一緒に帰ろうかと思っていると


「鈴木さん」


と声掛けられ振り向くと西園寺がいた。


「あのさ、良かったら一緒に帰らない?」

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