攻略キャラ一人目

琴歌ちゃんと話しているとAクラスに着くのはあっという間だった。


いざ扉を開けようとして、ふとある事を思い出し開けるのを躊躇った。


イベントこそないものの、

Aクラスにいる攻略キャラが入学式の日に教室に入って来た琴歌ちゃんに一目惚れしてたって

告白シーンでカミングアウトしてた!


なかなか扉を開けない私に


「どうしたの?亜子ちゃん」


と小首を傾げる琴歌ちゃんは最高に天使すぎる。


「わ、私!トイレ!行きたくなっちゃった!

先に入っててくれる?急いで行ってくる!」


「なら私も行くよ!」


「どうして!?!?!?」


あまりにも感情的になり、若干ヒステリックな叫びになってしまった。


案の定目の前の琴歌ちゃんは目を見開いてびっくりした。

ごめんね、驚かせて。


「どうしてって…入学式あるし私もトイレ行っとこうかなって。

それに一人で教室入るの緊張しちゃって。

亜子ちゃんと一緒なら心強いし!」


「じゃあお先にトイレどうぞ!」


「なんで?トイレ行きたかったんじゃないの?

ほら行こう?」


「う、うん……」


惨敗!どうしよう!

他の攻略キャラとのルートに絞ってこれは諦める?


トイレの個室でうんうんと考え込み、一つの案が浮かんだ。


いうて私はモブだ。

攻略キャラが琴歌ちゃんに一目惚れして夢中になっているのなら私はのっぺらぼうに映るんじゃないか?

スチルだってモブの顔パーツなかったし!きっとそう!


ちょっとだけ視覚のノイズになりかねないけど致し方あるまい。


と、改めてAクラスに向かい、

意気揚々と扉を開くと中高一貫校故か既にグループが出来つつあった。


だが外部受験組の私達を珍しそうな目で見てる…気がする。


「亜子ちゃん、座席表見て!

私達席前後だよ!」


「え、本当!?」


棚から牡丹餅。

既に私は琴歌ちゃんと外部受験組で打ち解けていて席が前後。


親友枠、自分貰っていいすか?

と余裕が出てしまい、つい頬が緩んだ。


「嬉しい!これからよろしくね!」


と手を握って喜び合ってから指定の席に着いた。


琴歌ちゃんの背後の席なんて、


誰が琴歌ちゃんを狙っているのか丸分かりの縮図すぎる。


安心してね、私が恋のキューピットでもシンデレラの魔法使いでもなんにでもなるからねと静かに念を送る。


「あれ、君見たことないけど外部受験?」


と琴歌ちゃんの隣の席に座った人物を見て

ギョッとした。


攻略キャラの一人、西園寺桃李さいおんじとうりだ。

家が金持ちだけど気取らず親しみやすくてクラスの人気者。大型犬のような人懐っこさが印象的だった。


え!?目の前で琴歌ちゃんと桃李くんのカプがしばらく見れるってことですか!?

どこにお金を振り込んだらいい!?


「うん!外部受験なんだ〜!

私は櫻井琴歌、一年間よろしくね」


さすが琴歌ちゃん。

本当に天使のように可愛らしい笑顔で挨拶してて偉い、むしろ生きてて偉い!


「俺、西園寺桃李!櫻井さんよろしく!」


正統派の爽やかイケメンだからキラッキラの笑顔を振りまいている。

ちらりと教室を見回すとどうやら西園寺狙いの女子も少なくなさそうだ。


まぁ金持ちの爽やか大型犬イケメンなら競争率も高いよね。

でも琴歌ちゃんが西園寺を好きになったら私がサポートするからね!

プロフ暗記済みだから任せて!


「君も外部受験だよね?

中等部で見たこと無かったはず」


「あ、えと…うん。私も外部受験なんだ。

鈴木亜子です。よろしく」


私とはよろしくしなくていいけど

琴歌ちゃんの未来の旦那になりかねないから当たり障りのない挨拶しとかないと。


西園寺は黙ったままこちらをじぃ、と見つめて

さすがに耐えきれなくなり「な、なに?」と聞くと


「いや、さっき座席表見てた時の笑顔可愛かったのに、今は全然笑わないから笑ってくれないかなぁと思って。」


「……え」


というタイミングで鐘が鳴り、

担任の先生が入って来て会話は強制的に切られた。


待て待て待て、矛先が違うだろ。

私じゃないだろ。隣に相手がいるだろ。


なんで?どうして?と思うのとは裏腹に

顔に熱が集中するのを感じる。


働かない頭を無理やり動かせ、

入学式の説明を聞き漏らさないように必死で聞いていると、


先生にバレないように西園寺がこちらを隠し見て

ニコリと笑った。

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