第6話
最初は100年以上掛かると思われた特定作業も、1年以内に丸ごと探せるくらいに効率化が進んでいる。
僅かでも前提条件を間違えていたらやり直しだが。
実際に作業中に誤りに気付いて、何度かゼロからやり直している。
他に誤りがなければ、見つかるまであと少しのはずだ。
数か月後、とうとう痕跡が出てくる。
探していた情報と一致する。
あぁ、見つかってしまった。
そんな馬鹿な、実在していたのか。
細かい住所まではまだ分からない。
でも、大まかな住所が合っていれば郵便が届く可能性はあるらしい。
急がなければと、手紙を書こうとした。
あれ、言葉が出てこない。
何を書けばいいんだろう。
あんなに沢山伝えたいことがあったのに。
伝えるべき時期を逸した話、旬を過ぎた話題。
頭が錆びついて、壊れたロボットのように腕が空を
何を書こうとしても文が途切れてしまう。
今までの経緯を何と説明すればいいのだろう。
それを知った時、彼女は多かれ少なかれ悲しむだろう。
あまりに時間が経ちすぎ、重い話になり過ぎた。
そんな文章を一方的に投げつけていいのか。
文章だと細かいニュアンスが伝わらない。
直接話せるのであれば、反応を見ながら軌道修正できるかもしれないが。
そもそも、彼女は自分の文章なんて今も望んでいるんだろうか。
こんな化け物に成り果てた者の文章だ。
既にスタッフから僕の事について説明を受けているなら、もう忘れたいと思っているんじゃないだろうか。
書けないなら書けないなりの文章で臨むしかない。
どうせ時間は残ってないのだ。
遅くなればなるほど失敗の確率は上がっていく。
最低限必要な事だけを書いて、もし彼女が味方をしてくれたら、直接すべてを話そう。
そうしてポストに投函した。
数日後、追跡ステータスはお届け済みになっていた。
届きはしたが、何も起きなかった。
しまった。
これでは届け先が合っているかすら区別がつかない。
仮に合っていても既に引っ越し済みというパターンだってありうるのだ。
そもそも、後で話せばいいなんて誤りだった。
僕は「これまでの経緯を全て知った上で、彼女が取る選択肢を知りたい」と思っていた。
そう思っていたことに今頃気付いた。
気付くのが遅すぎた。
こうなる可能性が見えていたならば、全部書ききらずに送るなんて選択肢は即却下しなければならなかった。
どうしよう。
手紙には「待ってる」と書いてしまった。
である以上、追加で何か送るのは流石にナンセンスなように思う。
何かわかるまではこのままで待つしかない。
迷っているうちに次のイベントがやってくる。
会場に登壇した彼女は、入ってくるなり何度か悲しげな目線を向けてきた。
多分、手紙が原因だ。
嫌だったのだろうか。
それとも手紙に確証が持てないのか。
スタッフに止められているのか。
それとも他に理由があるのか。
流石に目線だけでは分からない。
一言でいい。
彼女が考えていることが知りたい。
でも実際のところ、その目を見た時に直感はあったのだ。
恐らくもう希望は残っていない。
賭けに負けたのだと。
既に心が終わりに備え始めていた。
彼女がどんな結末を望んでいるのか、せめてそれだけでも知って、区切りを付けたい。
このままでは埒が明かない。
もう返事が無くても良いよう、全てを書ききった手紙を1通出そう。
宛先不明で返ってきた。
あくまで届けてくれるのは善意だというのを忘れていた。
一度ならうっかりミスかも知れないが、二度連続ならわざとか知らない奴だ。
届けてはくれない。
可能性が高そうな住所に一か八か送ってみるか?
再び宛先不明で返ってきた。
なんだったら最初に届いたはずの手紙も一緒に宛先不明で返ってきた。
焦っていた。
負け犬根性が侵食してくるにつれ、やる事が雑になってきている。
最初に送ったのも戻ってきたってことは誤配達したってことか?
であれば、そもそも間違った住所に送ったのだろうか。
でも最初のは開封した跡がある。
誰かが読んだのだろうか。
間違っていたのだとしたら前回の彼女はどうしてあんな顔をしたのか。
勘違いだったのだろうか。
考えることが多すぎる。
一旦最初から見直そう…。
そもそも見つけた場所が誤りならば、やり直しだ。
でも、何が間違っているか分からない。
その状態で今から全てやり直せるほどの気力も時間も残っていない。
他に何か見つけられるようなものはないだろうか。
彼女の実家なら見つかるだろうか。
東京全域よりは狭いし、この一年で身につけた知識があれば、案外できるかもしれない。
見つけたところで何をするんだとは思うが…。
勝算はないが、糸口くらいは見つかるかもしれない。
やってみよう。
あっという間に見つかった。
あ、これはヤバい。
無駄に腕を磨き過ぎた。
こんな気軽に見つかってしまうのは危険すぎる。
というか身に着けとうなかったわこんな技。
必要だと思ったからとはいえ…。
ドン引きだ。
とは言え、貴重な糸口だ。
直接、話しに行ってみようか。
そんなことをふと思った。
より有効な手もない。
そう思った週末。
電車とレンタカーを乗り継ぐこと半日。
小雨の降る中、勢いで彼女の実家にやってきていた。
インターホンを押すと、ニコッと笑顔をした男性が現れる。
その笑い方が、彼女に似ている。
多分、彼女の父だろう。
彼女の数年前のライブTシャツを着ていた。
新品の様に綺麗な状態だ。
僕のは既に、色落ちが目立っている。
どんな風に洗濯したらその状態を維持できるのだろう。
っと、それを話に来たわけではないのだ。
「ご家族の方でしょうか」
単刀直入に聞いた。
雨を吹き飛ばしていた顔が、一気に
あぁ、また人を困らせてしまった。
彼女と似た雰囲気があるからなおさらダメージが来る。
彼女に言伝してくれないかと言ってはみたものの、頷いてはくれない。
当然だよなという思いもある。
今日は、説得できないことを確認しに来ていたのだ。
心が最初から負けていた。
僕は話術の類はからっきしなので、これ以上は出来る見込みがない。
「彼女に何か言われたんですか」
僕は既に諦めかけていたが、彼はもう一言だけ踏み込んできてくれていた。
何か事情があるのかもしれないと、そう思ってくれたのかもしれない。
彼女の関係者から受けた言葉の中では、今までで一番優しい言葉かもしれない。
これがスタッフだったら、彼女に近づこうとしていると認識した瞬間に対話モードが停止してしまうから、速やかに退散するほかなくなる。
でも、彼女には直接的に何か言われたわけではないのだ。
好きだと言われたわけでもない。
探して欲しいと言われたわけでもない。
こうすべきだと思ったから来ただけなのだ。
「僕が勝手にそう思っているだけです」
そう答えるほかなかった。
そこで初めて、今までの経緯を説明することすら出来ていなかったことに思い至った。
でももう、遅い。
既に気力を使い果たしていた。
「名前を教えて欲しい。せめて名前くらいは憶えておきます」
帰る直前にそう言われた。
それに意味があるのか、僕にはもう考える力がなかったけど。
それでも彼なりの誠実さが表れているのだと、そう目が語っているように見えた。
次のライブは、端の方で観ていた。
彼女のライブはやはり輝いている。
でも、なんだか何百億光年も遥か彼方の世界を眺めているような、そんな気分だ。
ここにきて、久しぶりにプレゼントBOXが復活していた。
復活することが分かっていたら、言葉を伝えることを諦めてなかったかもしれない。
今となってはただのぼやきだ。
念のため出してはみたが、もう届くとは思えない。
周りにいる人は自分が来ることを望んでないのだ。
楽しむこと自体許されない。
僕は、どうすればいいのだろう。
会場に来てもそれは分からなかったが、消えたと思っていた燃えカスが、少しだけ熱を取り戻してしまっていた。
もう一度、探してみようという気になる。
このままの状態を維持しても碌な結果にはならない。
残る手がかりは、最初に見つけた場所だけだ。
もう合っている可能性は低い上に、間違っていた時の金銭的ダメージが大きいので保留にしていたが、候補となる範囲の全ての家の情報を調べよう。
本当にあの場所が間違っていたのか確認しよう。
空振りの可能性は高いが、他の方法よりはまだ確率が高い。
幸か不幸か、資金余力だけはあった。
調べてみたら、可能性は低いだろうとの予想は外れ、あっさりと見つかる。
当初の想定とは少し違う場所ではあったが。
恐らく、最初の手紙は届いていた。
つまり。
今度は、少なくとも彼女には届くだろう。
内容も決まっている。
もう不要なら無視するように、不安なら通報するようにと書き加えていく。
ただ、彼女の目に届きさえすれば。
そう思って手紙を出した。
当然ながら、今度も返事はない。
もし彼女が手紙を読んでいれば、この結果を選択したのだ。
これで終わりだろう。
最後に配達状況を確認してみる。
受け取り拒否になっていた。
でも自分の元には届いてない。
誰か何かしたのか、それともただのミスか。
何でこんなタイミングで。
結果が不明確になってしまった。
それ以前に。
読まれない可能性が頭から抜けていた。
前回は開けてくれただろうからと、何も考えず同じことをしていた。
まるで実験のパラメータを少しずらして再試行するように行動していた。
相手は普通の女の子なのに。
機械でも同じことをして同じ結果が返ってくるとは限らないのに、何をしているのか。
人の気持ちを何も考えられていない。
どうすれば想像できるのかもう分からない。
何もかも行動が一手遅い。
もういいや。
直接聞きに行こう。
最悪でも僕が身を
失って困るものが他にない。
こんな状況を続けるよりははっきりと決着をつけた方が彼女にとっても後腐れがないだろうと、理論武装していく。
もし、彼女が「帰って」と言ってきたら、それ以上の言葉を投げてきたら、僕は対応できるだろうか。
彼女が何を望んでいたとしても、せめてそれは叶えなければならない。
考慮したのは一瞬、問題はなさそうだった。
彼女の望まないことをしている可能性が高いのだ。
自分の身命程度で供託金が足りるかの方が不安だった。
正しい事なのか分からない。
僕は肝心な時に空気が読めないから。
でも、確認するまで、僕の手は止まらない。
心臓がただただ悲鳴を上げている。
できるだけ彼女の仕事がなさそうな日の朝に行くことにした。
夜行バスを降り、身支度を整え、彼女の家に着く。
正直、十中八九「帰って」と言われて終わりだろう。
意を決してインターホンを押すと、「はーい」と言う声と共にエントランスの扉が開いた。
彼女の声だ。
扉が開いた。
この時点で今日のプランは崩壊した。
間抜けにもなんでと問い返す僕の声は、恐怖と驚愕で完全に裏返っていた。
返事はない。
けど、手招きする警備員を視界の端にみて、吸い込まれるように敷地内へと入った。
入ってしまった。
部屋に着き、恐る恐るインターホンを押してみる。
反応はない。
一方の僕も虫の鳴くような声しか出てこない。
手の震えが止まらない。
仮に聴いていても聞こえやしないだろう。
居ない?
さっきのはなんだったんだ。
これからどうすればいいんだろう。
彼女の意志を知ることはできるのだろうか。
しばらくすると目の前の給湯器が稼働し始める。
ただ無視されているだけなのだろうか。
状況に理解が追いつかない。
恐らく二度目の機会はない。
次に何をすればいいんだ。
後から考えれば能天気にも、考え始めた。
気が付けば5時間近く玄関前に突っ立っていた。
いつまで経っても声が出せるようになる気配もない。
出待ちに慣れ過ぎて時間感覚がおかしくなっていたのかもしれない。
流石にもうあきらめよう。
一言、書置きだけ残そうとペンを執った。
この期に及んでまだ、「ネガティブな話題を書いたら嫌がられるかもしれない」なんて考えていた。
まさに悪いニュースを今日話そうとしていたはずなのに。
僕がここに居ること自体がまさに悪いニュースだろうに。
良い事探しをして、今日嬉しかったことを書き加えようとしていた。
何かあっただろうか。
敷地内に入れてもらえたことかな。
支離滅裂な文章が出来る。
そんな羅列しか出来なかった。
人語を解さない生き物がそこに居た。
でも、何も残さないよりはましだと、そう思う事にした。
置いて去ろうと歩き出した直後だった。
人の好さそうなおじさんが目の前に近づいてきた。
「ここで、何をしてるんですか」
警察官だった。
余りにもタイミングがぴったりで笑ってしまうかと思った。
誰かが通報したようだ。
彼女が通報したのなら良いのだけど、100%ではない。
他の人かも分からない。
ここまでやっておいて、彼女の意志を確かめることにすら失敗した。
手際よく手荷物を調べられていく。
旅行用品ばかり大量に出てくるので、旅慣れてますねという感想を頂いた。
それが終わってしばらくすると、続々と警官が集まってくる。
何かを調べている人、どこかと連絡を取っている人。
ぼんやりと眺めていると、背の高いお兄さんがどうやって入ってきたのか聞いてきた。
「彼女が入れてくれましたよ」
「嘘つけーっ!!!!」
怒ってしまった。
僕自身想定外だったからね、そう思うよね。
こんな時、口で上手く説明が出来ない。
相手が冷静になるのを待つ以外の方法を知らない。
待てば相手と自分の温度差が自然と均衡するのだ。
あまり温度差が大きいと突沸することもあるけど。
何度か同じ言葉を返すと、それ以上は返してこなかった。
宅配と間違えたとかそんなところだろうとも思うが、真相は彼女しか知りえない。
現地での調査が終わると署に行くことになる。
とりあえず、これまであったことをかいつまんで話してみたが、「で、それで?」とか「何言ってんだこいつ」という感じの反応だ。
まぁ、気持ちは分かる。
僕が何も知らない第三者で、同じように言われたところで、納得することは難しいだろう。
自分すら納得させられないものを他人に納得させられるわけがない。
特にある女性の警官は怒髪天を衝くかの如く怒っていた。
「自分だけは特別だとでも思っているの」
「まだファンで居られるとでも思っているの」
「彼女のような人があなたの事をどうこう思う訳がないでしょ」
周りから見たらそんな風に見えるのだろうか。
僕は多分もう壊れているだろうからよく分からないが、それが正しいのかもしれない。
彼女の気持ちに寄り添う優しい人だ。
でも正直、自分自身の感覚とは噛み合っていなかった。
自分が特別だなんて思っているなら、何年も待ったりしない。
こんな泥臭い方法も取ってない。
足りない頭で考えて、例え非難されても、これが一番ましだと思う方法を採ろうとしたはずだった。
頭が悪すぎて結局最悪の結果になった訳だが。
僕に魅力が無いなんてことは自分自身が一番分かっているのだ。
釣り合うとは最初から思っていない。
それは別にいい。
でも、特別だから人を特別な人しか好きにならないというような風に言うのは、価値観が相容れない。
僕の事を置いておいたとしても。
“特別だから”好きにならないのか?
そんなわけがない。
彼女は人一倍頑張り屋の、普通の女の子だ。
特別という分かりやすい言葉の枠に填め込んで、彼女の気持ちを量ろうとしないで欲しかった。
まぁ、無理に開けようとしてしまった僕が言うのは説得力がないどころか
やっぱり反論を返す資格はないな。
考えは浮かんでも、感情がまるでついてこない。
神経に無効電力しか流れていない。
こんな重箱の隅をつついても、その後の処理には関係がない。
”知人でない人間が会いに来た”という事実さえ合っていればあとは勝手に処理が進む。
そこは事実通りで反論の余地はない。
それ以外の枝葉を直したところで自己満足でしかない。
ここは必要な事実を明らかにする場であるべきだ。
感情を燃やそうとしても仕方ない。
最初に話しかけてきたおじさんだけは妙に同情的で、時々フォローしようとしてくれていたのが、僕にとっては救いだったかもしれない。
もろもろの処理が終わると、夜中には家に帰れた。
朝から何も食べてないはずだが食欲もない。
何もする気が起きない。
物語で例えるならこんなところだろうか。
過ぎた力に手を出したら力に呑まれ、気が付いた時には守りたかったものも全て破壊しつくしていたのだった。
現実世界は意外とダークファンタジーに近いのかもしれない。
果たして僕が正気であるのかは定かではない。
彼女が、あまり落ち込んでなければいいのだけれど。
そんなわけがないだろう。
気が狂っている。
一週間後、もう見ない方がいいとは思いつつ、生放送を映してみた。
放送中だと言うのに、彼女は茫然とした表情を浮かべていた。
すぐに観るのが耐えられなくなった。
何もする気が起きない。
ただひたすら胸が痛い。
ネットもほとんど見なくなった。
でも、何も変わっていない。
ファンクラブすら退会にならない。
現実感が無いので試しにチケットを買ってみたら、ちゃんと警察から電話が来た。
「絶対に来ないでください」
「チケット代金は諦めてください」
警察の方には手間を掛けさせてしまった。
元々捨て金だからお金は気にしてないのだけど。
どうやらスタッフは仕事しているらしい。
気がつけば、半年近く経っていた。
頭を常に曲が流れている。
彼女の音楽が消えない。
もう止めたいのに止まらない。
最低限の外出すら体を引き摺るような感覚が纏わりついてくる。
でも、多少は体が動かせそうになってきた。
最後に放送で見た顔が忘れられない。
結局、彼女の意志を確かめられなかった。
最後に彼女の今の意志だけは確認したい。
もう、何もするべきでないのは分かっているはずなのに。
スタッフへの信頼はとうの昔に失われている。
彼らが何とアナウンスしても僕の求める情報とはならない。
どうしてもスタッフを介さずに確かめる必要があった。
せめて、彼女にとって最小限の手間で済むものを。
それでも身勝手と言われれば釈明のしようがない。
一通、手紙を出す。
すぐに警察から連絡がきた。
彼女が通報したのだ。
今回はもう疑念の余地がある事柄はない。
彼女の行動を確かめることが出来た。
彼女の意志を確認できた。
最悪な方法ではあるけど、これで終わり。
今の状況が彼女の望みであることは確かであるらしい。
何年間も探し続けた答えをようやく手にすることが出来た。
数日後、手紙の件で警官がやってきた。
ムードメーカーのお兄さんと、
ドラマで出てくる警官コンビのような見事なバランス、そんなイメージだ。
「どうして送っちゃうかなー」
「どうしてこうなったのか分からなかったからですかね」
その返答を聞いたおじさんは呆れていた。
自分で言っていてたしかに呆れるような返答なのだが、一言にまとめるならそういうことだった。
それでもこれまでの経緯について、そういう事もあるかもしれないねくらいの理解をしてくれた。
万が一彼女が読んでくれたらという
口ではだめでも、文章ならある程度の説得力を持たせることが出来るらしい。
でも、全然足りない。
「仮に彼女がそう思っていたのだとしても、スタッフの方に従わなきゃ」
僕が正しくないのは最初から分かっている。
彼女とはもう道が交わることがないことも理解した。
でも。
これまでのスタッフを見ていて、彼らこそが正しいだなんて、僕にはとてもじゃないが思えない。
そこは、分かり合えなかった。
「まだ納得できないなら、スタッフにアナウンスしてもらおうか?」
分かり合えなかったから、どうしても言葉がずれてしまう。
それじゃだめなのだ。
スタッフを信用していないから、アナウンスは効果がない。
「大変だったね」とみんなが思うだけで終わってしまう。
再発防止策にもなっていない。
信用していないからこそ今回のような事を起こしたのだ。
もし過去に遡って何度同じ経験をしても、彼女とスタッフの間に乖離があると思えば、毎回似たような結論に至る。
同じ状況になったら誰だって何かするだろ。
僕よりは上手くやるのかもしれないが。
少なくとも、何もしないなんて言う選択肢はあり得ない。
もちろん後からあの時こうすれば良かったと言うのは簡単だ。
電気を発明する前の人類に対して、今の人間が電気の使い方も知らないのかと
そんな小手先ではなく、そもそもこんなことが起こりえない解が必要なのだ。
僕にはもうこれ以外に彼女の気持ちを確かめる方法が思いつかなかった。
生きるのが下手過ぎて僕には分からなかったよ。
どこにもっと正しいやり方があったんだよ。
教えてくれよ。
もしスタッフが今回の事を起きないようにしたいと言うなら、アナウンスだけではなくもっと根本から直さなければならない。
初めから信頼を失わないようにしなければ、それ以降にどんな対策を取っても効果など無くなる。
いつか誰かに同じような事が起きる。
仮にも誰かの代理を名乗ると言うのなら、僅かでも疑念の残るような要素があってはならない。
少なくとも周りに疑惑が露見するようなやり方をすべきではない。
それが出来ないなら、状況をこそこそとコントロールしようとするのは最初からやめるべきだ。
もし、自らが正しい振る舞いをしている主張するなら、最低限、誰から見ても公平なやり方をして、堂々と邪魔をしろ。
僕にはもう関係ない事なのかもしれないが。
まぁ、将来、誰かの参考くらいにはなるだろう。
ここまで、僕に起こった事を読んでくれてありがとう。
どうしても、誰かに聞いて欲しかった。
達者でな。
僕がグッズを持っているだけでも、もう彼女は快く思わないはずだ。
ようやくファンクラブを退会する決心が付き、アカウントをアクセス不能にした。
大量にあったグッズ類も処分した。
体が動かない。
ちょっと、疲れた。
彼女とストーカー 。 @8827
★で称える
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