円熟したモルモット
さとうきいろ
最果てへつづくシロツメクサ畑に兎を放す 世界に満ちろ
最果てへつづくシロツメクサ畑に兎を放す 世界に満ちろ
解散したバンドの曲ばかり聞いている僕らは脱皮できない蟹だ
雨の日にスマホケースだけ落ちていて中身は泡と消えたのだろう
ベッドから詩集が転がり落ちていき微熱の夜は無意味に更ける
放課後の教室ふたり向かい合いやるのがクロスワードなのかよ
二代前のリュックの普段使わないポッケに瀕死のアルフォートおる
ああせめてループするのは川沿いの桜が咲きだす日が良かったな
結末が分からないまま読み終わるホラー小説みたいな恋を
たからもの.zipを開くため海底二万マイルを目指す
この夏は現実濃度が高過ぎて夢不足の日が多くなります
イカ捌く動画を続けて眺めてる 宇宙のどこかで星が滅びる
躑躅から紫陽花に代わる生垣の奥に見える変わらぬばあちゃん
新しい心理テストと嘯いて僕を嫌いじゃないと言わせる
白竜が夏空に舞う真新しい英単語帳チャリのカゴに投げ込む
ぜったいに間違えている書き順で僕の名前を記入する君
前世ではたんぽぽだったソプラノがとなり町まで響きわたった
満ち満ちだ地球は死者で満ち満ちだ死んだら僕は火星へ行こう
茜さす教室にふたり 吉田くんの内腿に光るちいさな鱗
結末を読まずに売ったミステリの犯人が僕でありますように
釣り堀に棄てた金魚はふくふくと育ち今では釣り堀の主
推敲を重ねたところ世界からエビって言葉が消えてしまった
動物園はしごする夏 お前じゃないモルモットを抱きに行くと囁く
午前二時、東京タワーによじ登る世界にヒカリゴケを撒くため
太陽を知らず観葉植物はPARCOの二階でおとなになった
テレパスの少女と始めた文通で描く空想上の犬の日常
ペン立てに拾った風切羽を入れ部長のはなしを聞かずに撫でる
中学の僕が書いてた小説の台詞が聞こえる無人の公園
マチアプで出会った人に教わったどん底って店がいいんだ、と君
可愛いというだけで買った灰皿に片方無くしたピアスを放る
作られたやさしいひかりマンションの中庭で木はいまだ不安げ
異世界に通じるバスが後払いだったらSuicaは使えますかね?
旅鳥よ失恋するたびうちに来て歯ブラシ増やすのはおやめください
ベランダで育てた苺はでこぼこで庭を持てないぼくの心臓
川沿いの動物病院に貼ってある迷い不死鳥保護のお知らせ
青磁色の花瓶にたっぷりかすみ草を生ければ烟る君の面影
ぜったいに間違えている書き順で僕の名前を記入する君
足元に散らばる麺はおそらくは巨人の流しそうめんの痕だ
型落ちのルンバがLOVEと軌跡描く お気持だけは受け取りましょう
この星の治安も悪くなってきて蕎麦屋跡地に野良天使が住む
白シャツの修学旅行生のあとつけて飛び込む時空のとびら
漢方に即効性を求める日インスタントな愛を重ねる
約二年、毎日読んでた新聞が平行世界の日経やってん
ひろがってくコインランドリーこの街がいつか海になるまで見てて
学生のころの手帳に残された今よりきれいな僕の筆跡
宥めても賺しても無言 時刻表がふるさとまでの経路を隠す
しあわせの記憶ごと冷凍した鶏を解凍できない六月の夜
ワタリガニの赤ちゃんを揚げてカレー粉をまぶしたものを食す 極悪
もういないひとの日記を音読し声は雨へと溶けこんでいく
お隣にあいさつしないまま二年 月夜に聞こえる遠吠えにも慣れ
どしゃ降りに閉じ込められたぼくと犬それからルンバみんなで眠る
円熟したモルモット さとうきいろ @kiiro_iro_m
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