【Beginning of History】PartⅣ
【Epilogue】
A-Zent設立から約半年が経過したとある日
「ほらほらさっさと掘り出せ,見つからなかったら帰れねぇぞお前らー」
「は…はい!」
「……帰りたい…」
「ほら…早く掘り出して終わらせましょう」
この日A-Zent隊員は証拠品回収という名の穴掘りを行っていた
何故穴掘りを?と思うだろう
時間遡行装置の再調整が行われたのはほんの数ヶ月前
その過程で新たにしなければならない事が増えた
それは過去へと遡った際,見たもの,聞いたもの,任務の結果を全て手記に書き記して埋める事
何故その様な手順をしなければならないのか
帰還の際の記憶の違い
それが拒絶反応を起こして使用者に悪影響を及ぼした事から過去から現代へと帰還する際に過去での記憶を消去する機能が増えた
そして今は過去に遡ってこなした任務の結果を記した手記を掘り起こしている訳だ
「あ…見つけました!」
「帰れる…」
「状態は…大丈夫そうね」
「よぉーっす小童共ー,手記掘り起こせたかー?」
「先輩手伝ってくださいよ…」
「いやぁわざわざ手柄を横取りするのは先輩のする事じゃないと思ってさぁ?って事で掘らせてあげたって訳,お礼の一つも言われるべきなんじゃないかなー?」
「ほんと…こんな先輩で俺達ついてないですね…」
「ついてるじゃーん?下に立派なのがさ〜」
「沖牙,どこに行ってた?」
「ん?ちょっとハゲ弄って遊んでた」
「…また胃に穴が空きそうだ…」
「おーおー指揮官それは可哀想に…どしたん?話聞こか?」
「その口永久に黙らせてやろうか?」
「そんなキスさせてくれなんてさっすがホスト崩れ,言う事の次元が違うにゃー?」
「沖牙ァッ!!!!」
この半年間
隊員の入れ替わりは激しかった
時間遡行装置は安全には近づいたものの意識が戻らない者もいる
完全な時間遡行装置はこの半年間でも完成していなかった
他部署もそんな状況に嫌気が差して今となっては人員の補充をしてくれる部署なんてなくなっていた
その為今となっては沖牙同様に犯罪者が一名と民間からスカウトされた隊員で構成されている
「はぁ…埋まってるのは分かってはいたけれど本当に残ってるか分からない状態で掘るのは辛いわね」
折原 有紗
彼女の家系は代々歴史や記録を残す専門職であったが半年前の過去のデータが消失した際に現存していた本なども全て白紙になってしまった
ある日千川 朱音と沖牙 喰が彼女の家を訪れて本の中身を拝見,側から見れば何も思わない事だったが彼女はただ中身が白紙になっていたかを確認しているだけに思え,これら一連の現象について何かを知っていると考えた彼女は自らの仮説を伝える
その思考力と聡明さを買われて隊員となった
「…………帰っていい?」
海城 小鳥
都内で金庫破りを行っていた犯罪者グループの鍵開け師で時間遡行に関する資料を保管していた金庫を破り口封じの為に死刑を言い渡された犯罪者
本来であればそのまま死刑の執行をするのみだったが開けた金庫はどう考えても人の手で開けられる代物ではなくその解錠技術を買われて隊員となった
尚沖牙同様に罪が消えた訳ではなく単純に隊員となっている内は刑期が延ばされているだけに過ぎない事を知ったのは隊員となった後である
「とりあえず…本部に帰ろうか」
榊 龍馬
元自衛官の祖父と曽祖父を持ち,父親は現役の警察官
その為鍛えられた身体を持ち近接格闘能力やサバイバル能力が高い
…とここまではあくまでも民間としては少し優れた程度でありスカウトするまでもないどこにでもいる人材だった訳だが偶然街中で沖牙の目に止まりナンパされてそのままホテルにまで連れ込まれてしまう
そして案の定ろくなことをしない為何も伝えずに本部に連れ帰り隊員となるか機密を漏らさない為に死ぬかの二択を突き付けられて半ば強制的に隊員にされてしまっている
「…あれ…輝久神さんは…?」
「一応来る前に声かけたんですけど…いつも通りソファーで寝てるかと」
旭川 輝久神
彼女に関する情報は歴史同様に失われており,本人も記憶喪失になっている為正体不明である隊員
元々本の収集家だった為一連の事象によって読めなくなった本を独自に調査,調査をして間も無く情報が明らかに隠されている事に気がつくと自分と同様にこの事象を探る者がいるだろうと考え自力でA-Zentへと辿り着く
その情報分析能力を買われて隊員へとスカウトされたのだが基本的にソファーで寝っ転がって面倒な仕事には出てこないがその間にも色々な事前調査を行なってくれている
「ひゃっひゃっひゃ!ホスト崩れが怒ってらぁ,こっわ〜」
沖牙 喰
初期の頃からの隊員であり現在の隊員の中では最も経験豊富で主に新人隊員の教育を務めている
非常に高いIQを有し,かつては詐欺師であったがその才能を今では隊員として活用…と言えば聞こえはいいが基本的に任務の際にも詐欺紛いの誘導尋問で情報を集めている
更に先輩という地位を利用して新人隊員を適当な理由を付けて使ったりなどはっきり言って嫌な先輩である
「待てこら沖牙ぁッ!殺してやる!!」
千川 朱音
A-Zentの指揮官で実質的トップの立場の人物
元々は総務省の統計局員であったが公文管理局設立後は出世という餌をちらつかせて意気揚々と名乗り上げたのだがその実態は地獄であり成果を出さなければ存在そのものすら消されかねないブラックな部署だと気が付いたのは契約を交わした後である
広い人脈や情報網を駆使して隊を何とかまともなものにしようとするが集まるのは一癖も二癖もある隊員ばかりで常日頃から頭を抱えている
また休日はハイウェイをバイクで爆走しては権力を盾にして警察沙汰を揉み消しているなどやはりまともではない
優秀な指揮官と優秀な先輩隊員
そんな指揮官は石を拾っては投げつけ,片や投げられてる方は舌を出して挑発している
こんな大人にはなりたくない
新人隊員の三人はこの時そう誓った
この半年間で世界は小さく,だが大きな変化を遂げていた
消失した過去の記録
それらの一部が日本政府から公表されていた
過去へと遡り歴史を暴く
時間犯罪の阻止とは別にA-Zentの重要な使命
過去の真相を暴き,公表する事によって歪んだ時空を少しずつ元に戻していく
それが例え少しずつだろうと
歴史から見ればほぼ止まっているのと同じだとしても
歴史は動いている
動き続けている
歴史は紡がれている
紡がれ続けている
人が生き,生き続けている限り
終わりが訪れる事はない
今はただその場で足踏みしていてもいい
全ての歴史を暴いたその時
人間は本当の意味で歴史を歩み出す
未来へと向けて
過去を取り戻せ
-fin-
総務省公文管理局時間犯罪対策班:A-Zent【エージェント】 狼谷 恋 @Kamiya_Len
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